借地権のある土地が第三者に売られた場合でも、借地上の建物が借地権者の名義で登記してあれば、第三者に借地権者だという主張ができます。つまり、第三者に土地の所有権が移っても、借地権者はこれまでと同じように土地の使用を続けることができます。
 逆に言うと、建物が借地権者の名義で登記されていないと、借地権の主張ができず、新しく土地の所有者になった第三者から「建物を取り壊して土地から出ていけ」と言われることになります(例外的に救済される場合もありますが、原則はこちらです)。
 借地権者が亡くなり、相続が発生すると、相続人が借地権者になるため、借地上の建物の名義人と、借地権者が違うことになります。この状態で第三者が土地を買い取ったら、どうなるのか。
 また、世の中には、建物が建っているのに、登記そのものがない、ということもあります。第三者が土地を買い取り「建物の登記がない」と主張されて初めて、問題に気付く場合もあります。調べたら、相続の問題が絡んで、登記がないままになっていたということもあります。
 このような、相続と借地権の第三者への対抗について、弁護士が解説します。ご相談もどうぞ。

※相続の基礎知識や相続・遺産分割一般については、「相続・弁護士による法律相談」をご覧ください。
※借地権の対抗(第三者が地主から土地を買い取った場合、第三者に借地権の主張ができるか)の基礎的な説明は、「借地権対抗のための建物登記」をご覧ください。

【目次】
1.亡くなった人の登記名義のままになっている場合
2.建物の表示登記もない場合
 (1) 表示登記とは
 (2) 表示登記があれば対抗できます
 (3) 相続問題が再燃する可能性もあります
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1.亡くなった人の登記名義のままになっている場合

 建物の登記名義人と借地権者が違う場合、地主が第三者に土地を売ってしまうと、新しい土地の所有者に借地権を主張できないのが原則です(その結果、建物を取り壊して土地を明け渡せと言われるとそうしなければならなくなります)。※これについての基礎的な説明は、「借地権対抗のための建物登記」をご覧ください。

 親が借地権者で建物の名義人だったのに、その親が亡くなって相続すると、建物の登記名義人(親)と借地権者(相続人)が違うことになります(*1)

 結論から言えば、建物の登記名義が、亡くなった親の名義のままでも、新しい地主に借地権を対抗できます(「対抗できる」というのは、借地権の主張をすることができるということです)。
 遺産分割協議が終わって、兄が建物と借地を相続することに決まったのに、登記名義をそのままにしておいた場合も同じです。
 その兄が亡くなり、兄の子どもたちが相続して、遺産分割したとしても、亡くなった人の名義(この場合は登記が祖父母の登記のままになっていたことになります)のままでも、同様に借地権の対抗ができます。つまり、祖父母の名義の登記で、孫が借地権を対抗することができるということです。
 ただし、これはあくまでも、法定相続人が、借地権を相続した場合です。

 この点は、遺言書がある場合も同じです。相続人の1人(兄と弟のうちどちらか)に相続させるという遺言の場合にも、親の名義のままで、新しい地主に借地権を主張できます。
 そして、この場合も、対抗できるのは、法定相続人に相続させた場合です。(*2)

 これに対して、第三者(相続人でない人)に遺贈する、という場合には、その遺贈を受けた第三者が建物の登記名義を変える前に、新しい地主が土地の登記名義を変更すると、借地権の主張ができなくなります(相続人以外の第三者に遺贈する場合には地主の承諾(譲渡承諾)も必要になります)。

(*1)兄と弟のどちらか1人が申請すると、遺産分割前でも、兄弟2名が法定相続分(それぞれ2分の1)で相続したという登記をすることができます。この場合は、借地権者と建物の登記名義人は一致しますが、本文でお話したように、亡くなった親の名義のままでも新しい地主に借地権の主張ができるので、原則としてこのような登記をする必要はありません。この登記をした後で、分割協議の結果、どちらか1人が借地権者になった場合には、登記を移す必要があります。親の名義のままにしておいて、遺産分割後に、相続人の1人の名義にする場合に比べて、登記の手続に手間も費用もかかります。(▲本文へ戻る

(*2) ただし、これは、地主が第三者に土地を売却してしまった後で、借地権の全体を対抗する場合の話です。これに対し、AとBの兄弟が共同相続人だった場合に、Bの債権者が建物の差し押さえをしようとする場合には、これでは足りません。遺産分割の結果、Aが全部を取得したとしてもその登記をしないと、Bの債権者に対して、Aは法定相続分(1/2の権利)しか主張できません。また、遺言でAに全部相続させるとなっていた場合でも、2019年7月1日以降に相続が発生した(被相続人が亡くなった場合)には、Aがその登記をしないと、法定相続分(1/2)までの権利しか主張できなくなりました。つまり、地主から第三者に土地が譲渡された場合と、共同相続人のBから第三者(Bの債権者を含む)に権利が譲渡された場合では、話が違うということです。(▲本文へ戻る

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2.建物の表示登記もない場合

(1) 建物の表示登記とは

 建物は、建物が完成した時に登記が作られます。建物の場所、構造、床面積などの他、この時に家屋番号がついて、記載されます。これを「表示登記」といいます。そして、表示登記の権利者(通常は建物の建築の注文主)が、保存登記をした後に、建物が売買されたり、相続があると名義が変わります。このような名義の変更などの権利の動きなどが書いてある部分を「権利の登記」といいます。表示登記も権利登記も、一通の登記簿に記載されます。
 いずれにしても、表示の登記が作られて、全てが始まります。人の出生届けみたいなものです。

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(2) 表示登記があれば対抗できます

 最高裁の判例によると、建物の権利の登記がない場合でも、建物の表示の登記があって、そこの権利者欄に書いてある人が借地権者なら、土地が第三者に売られた場合でも、借地権を主張することができます。 借地権者が亡くなって相続が発生した場合でも、表示登記の権利者欄が亡くなった借地権者の名義になっていれば、同様に借地権の主張ができます。

 ところが、借地上に建物があるのに、表示の登記もない場合があります。
 表示の登記がない、ということは、その建物の登記が全くない、ということです。
 実際にあった話ですが、以前にあった建物を取り壊して新築した(地主の承諾は取っていました)のに、新築建物の登記がなく、取り壊した建物の登記がそのままになっていました(取り壊したのに、その建物が建っているという登記しかなかった、ということです)。この場合、取り壊した建物の登記では、第三者に借地権を主張できません。

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(3) 相続問題が再燃する可能性もあります

 表示の登記がないと、権利の登記(通常の登記)もできないので、とにかく、表示の登記をする必要があります
 問題になるのは、表示登記の場合、建物の現在の所有者の名義でないと申請できないことです(相続人の1人という立場で、所有者だった被相続人名義の申請をすることはできません)。

 申請のためには、まず誰が家を建てたのか、そして、その人が亡くなり遺産分割協議などによって現在の借地権者が建物の所有者になったことを証明する必要があります。
 ところが、家を建ててから何十年も経っているような場合には、誰が建てたのか直接証明することはできません。 ただし、表示登記もないような建物でも、固定資産税を取られています。そして、固定資産税評価証明書を取り寄せると、しっかりと亡くなった元の借地権者(おじいちゃんだったりします)の名前が書いてあります。この固定資産税評価証明書では、第三者に借地権を主張できませんが、これを手がかりに表示の登記をすることができます。

 そこで問題になるのが、おじいちゃんから現在の借地権者まで所有権が移ったという証明です。要するに相続の問題です。
 家を建てたのに登記していないのは、何か問題があったはずです(ただし、前記のとおり地主の承諾はありました)。何十年も前の話になると、推測はできても、証拠はありません。とにかく、固定資産評価証明書に記載された権利者(おじいちゃん)から、遺産分割の結果、現在の借地権者が建物を所有しているということにならないと、建物の所有者だという証明ができません。そのためには、他の相続人(その間に2回くらい相続が発生したりしています)との関係で遺産分割協議書が必要です(*1)

 実際に、その建物に住んでいて、地代も払っているので、何らかの事情があってそうなったはずです。しかし、建物の登記をしていないので、そこがあいまいです。分割協議書はありません。
 このため、改めて遺産分割協議をして、分割協議書を作る必要がありました。ところが、過去の相続の時にトラブルがあって、遺産分割協議をしないままになっていたことが分かりました。改めて遺産分割の話をすると寝た子を起こすことになります。しかし、それでも、遺産分割協議書がないと表示登記ができません。
 しかも、建物の登記がないことに気付いたのは、すでに土地が第三者に売られた後だったりします(そこで初めて登記がないことに気付くわけです)。今現在トラブルになっているのに、さらに、別の第三者に売られてしまうとますます問題が大きくなります(登記がなくても借地権の主張ができる場合がありますが、現在の土地の所有者からさらに別の第三者に土地の所有権を移されると、借地権の主張ができなくなる場合があります)。そのため、相続でもめていても、第三者に売られる前に分割協議をして建物の登記をする必要があります(実際のケースは何とかなりました)。

(*1) 借地に限らず、共同相続した後で、遺産分割協議をしないまま、相続人の一人がその家に住んで、そのまま10年、20年が経過することがあります。この場合、取得時効は使えません。遺産分割しない限り、共同相続人間で共有のままになります(この点については、「相続コラム」の「遺産分割の放置・亡くなった人の名義のまま」をご覧ください)。しかし、ここで問題になっているのは、借地権者が誰かは決まっていることを前提として、建物を借地権者の名義で登記するために(法務局に借地権者が相続で権利を取得したことを証明するために)、遺産分割協議をする、ということで、結果(契約上の借地権者が権利者)に合わせるための手段という意味になります。(▲本文へ戻る)

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弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13白井ビル4階  電話 03-3459-6391