借地の地代は、月額いくら、というように、一定額を決めるのが普通です。
  しかし、その後で地価の上昇や下落、固定資産税の増減などなど、地代を変更したくなる事態が起こります。その場合に、一々対応するのも煩わしく思います。
 そこで、一定期間、地代を変更をしないようにする、とか、逆に、固定資産税などの変動に応じて、地代を自動的に変更させるなど、地代に関して、特別な契約をする場合があります。
 ところが、借地の契約は、20年、30年、さらには更新によってそれ以上の期間の契約になるため、将来のことは分かりません。どんな特約をしても、後になって不都合が起こる可能性があります。
 その場合にどうなるのか。これについて弁護士が解説します。ご相談もどうぞ。

※ 通常の借地の地代の増額・減額請求については、「借地の賃料(地代)増額請求・減額請求」をご覧ください。

【目次】
1.地代を増額しない特約、減額しない特約
 (1) 地代を増額しない特約
 (2) 地代を減額しない特約

2.地代の自動改定条項
 (1) 自動改定条項とは
 (2) 一定期間ごとに増額する特約がある場合の裁判例
 (3) 他の自動改定条項にも使えるか
 (4) 固定資産税に連動する自動改定条項

3.地代の特約がある場合の増額・減額の手続

1.地代を増額しない特約、減額しない特約

(1) 地代を増額しない特約

 法律(借地借家法)には、一つだけ地代に関する特約について書いてあります。
 それは、一定期間地代の増額をしないという特約です。
 この特約を結んだ場合、その期間内に地価の上昇や固定資産税等の増額があって、決めていた地代が安過ぎるようになっても、この特約の効果で地代の増額はできません。

 しかし、例外はあります。ただし、例外中の例外と思った方がいいです。合意をした後で、合意をした時には予想できなかったような経済的な変動が起こって、地代を増額しなければ当事者の不公平が著しい場合には、合意自体が無効になったと判断される場合があり得ます。無効になる場合の要件は、地代の増額請求の要件の「事情の変更」よりも、かなり厳しくなります(相当にハードルは高いです)一般の地代の増減額請求は、通常に予想できるような地価や固定資産税等の変動があっても、変動によって地代が不相当になれば認められます。しかし、増額しない特約がある場合には、通常予想されるような変動では認められません。また、不相当と判断される金額も、通常の場合よりも大きくなります。

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(2) 地代を減額しない特約

 逆に、地代を一定期間減額しないという特約を結ぶ場合もあります。これについては法律には何も書いてありません。この場合、特約自体が無効というわけではありません。
 しかし、特約があっても、借地権者は、地主に対して、地代の減額請求ができます。地代の減額が認められるためには、一般の減額請求と同じ要件(地代減額請求の要件)が必要になります。地代増額を制限する特約と違い、要件が厳しくなることはありません。つまり、特約としての効果はあって、ないようなものです(はっきり言えば、法的には意味がないと言えます)。

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2.地代の自動改定条項

(1)自動改定条項とは

 地代の自動改定条項というのは、一定の基準に基づいて、自動的に将来の地代額が改定されるという特約です。

 一定の基準というのは色々で、「一定の期間ごとに地代が一定割合ごとに増額する」(例えば、「3年ごとに地代が10%上がる」など)というものや、消費者物価指数、固定資産税、相続税路線価などに連動して、地代が自動的に変動するものなどがあります(相続税路線価は現在は土地の公示価格の8割を基礎に定められているので、相続税路線価に連動して、将来の地代額が変動するという特約は、土地の価格によって地代額を変更するということになります)。

 借地は長期間の契約のため、どうしても、地代の増額、減額が問題になります。自動改定条項は、 予め改定のルールを決めて将来のことは、それで文句なしとしましょう、ということで合意されるのが通常です。ところが、時間が経つと合意した時には思ってもみなかったことが起こります。相手方に「何とかならないか」と相談しても「将来のことについても合意したことではないですか」と拒否されます。しかし、最高裁の判例によると、自動改定条項があっても、地代の増減額の請求ができます。

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(2) 一定期間ごとに増額する特約がある場合の裁判例

 バブル崩壊前は、土地神話があり、土地の値段は上がるが下がることはない、と考えられていました(今から見るとトンデモない話に思えますが、当時は、地代の減額請求なんてものは法律に書いてあるけど、実際に使うことはないと思われていました)。自動改定条項のうち、「一定の期間ごとに地代が一定割合ごとに増額する」という特約は、当然、バブルのころの条項です。時間が経つに従って、地価は上がる一方というのが合意の基礎になっています。ところが、バブル崩壊で土地の値段は急激に下がり、その後もしばらくの間、じわじわと下がり続けました。

  それなのに、地代が上がるのはとんでもない、ということで借地権者が、減額の請求をして、裁判になりました(3年ごとに地代が10%増額するという合意でした)。

 これに対して、最高裁は、「当事者が改定条項を決める時に、基礎になった事情が失われ、地代額が不相当になった場合には、減額請求できる」としました(最高裁平成15年6月12日判決 )。この判決では、特約自体が無効になるわけではないので、減額請求前の地代は有効で、減額になるのは、減額請求があった時からだとしました(通常の場合と同じということです)。

 ただし、この最高裁の判決は、この事案について、具体的に地代がいくらになるのか、判断していません。金額について判断するように、ということで、高等裁判所に差し戻しました。差し戻しを受けた東京高裁はどうしたのかと言うと、不動産鑑定の結果の適正賃料額(合意をした時の賃料額を基点として、その後の経済事情の変動を考慮した適正な賃料額)で和解が成立しました。

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(3) 他の自動改定条項にも使えるか

 この事例自体は、バブルという特殊な時期に定めた特殊な条項のため、判決も、バブル期の地価の急上昇とバブル崩壊後の地価の下落のような特殊な場合でないと、自動改定条項が常に優先するかのように読めます。
 しかし、この最高裁の判例は、そのような特殊な場合だけを言っているのではないと理解されています。

 この判決の後の、最高裁平成20年2月29日判決は、「借地借家法の賃料増減額請求の規定は強行法規であり、賃料自動改定特約によってその適用を排除することはできない」と明確に言っています。そして、「賃料自動改定特約が存在したとしても,これに拘束されることはない。賃料の増額減額の相当額を判断する際の事情の一つとして考慮の対象となるにすぎない」と言っています。

 つまり、自動改定条項があっても、地代の増減額請求ができる、ということです。
 しかし、普通の場合と違って、自動改定条項の合意をした後で、地代が自動的に上がったり、下がったりします。そのため、どの時点を最終合意時(直近合意時)とするのか問題になります。この点、上記の最高裁判決は、自動改定条項の合意をした時(最初の合意の時)が最終合意時だとしました。
 このため、自動改定条項を決めた時の地代額を基準にして、そのままその地代額が続いていたと仮定して、賃料の増額請求、減額請求の時の適正な地代を鑑定によって算定すれば、その地代が適正地代になります。増額請求をした時点で、適正地代額が不相当に低ければ、地代の増額が認められることになります。

 そして、他の自動改定条項の場合でも、同じようにして、地代の増額請求・減額請求が認められ、地代額が判断されることになります。

 なお、このように判決で地代の増額・減額が認められた場合、その金額(一定の金額)が増減額の請求時以降の地代額になります。つまり、以後は自動改定することなく、地代は一定の金額になります。

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(4) 固定資産税に連動する自動改定条項

 固定資産税は、建前上は、土地の値段と連動して変動します。そのため、土地の値段の変動で地代を自動的に変動させるために、固定資産税の○倍で地代が自動的に決まる、という特約を結ぶ例がありました。

 ところが、税金の計算方法は政策で変わります。固定資産税は、平成9年度から、土地の所有者の「負担軽減」のため、計算方法が変わり、土地の評価額の変動とあまり関係なく、ひたすら低くなるようになりました(その後、都の減免措置なども導入されて、ますます低くなりました)。土地の値段が下がっている時は目立たなかったのですが、土地の値段が上がってくると、固定資産税額が土地に連動して上がらないため、地代は低いままになっているという現象が起こりました。
 都心部のビル敷地の借地について、平成9年に固定資産税の2倍を地代にする、という特約をした例では、平成30年に、固定資産税の土地の評価額が平成9年度とほぼ同額なのに、固定資産税が平成9年度の60%になり、そのため、地代も平成9年の時の6割まで下がっていました。地主としては納得できない話です。

 このように固定資産税額に連動して地代が自動的に変わるという特約がある場合ですが、この場合も借地借家法の賃料増減額の規定が優先します。
 適正地代の計算の方法は、自動改定する合意をした時点での地代額がそのまま維持されていると仮定して、増額請求をした時点での適正地代の算定をします。その結果、自動改定した地代額が不相当に低いと判断されると、地代の増額が認められます(増額請求を認めたものとして東京地裁令和 2年 2月20日判決 。ただし、筆が滑ったのか結論には関係ありませんが、 理由の最後の方に 誤記があります)。
 なお、この場合は、裁判所で決着が付くと、その金額で地代は固定して以後(増減額請求の時以降)は自動改定で変動しません。

 ところでこのような特約をした場合、地代の増減額が認められるかどうかは、一般の場合と同様、いつ「自動改定の合意をしたのか」によって結論が変わります。例えば、バブル絶頂期で土地の値段が高く、固定資産税額が低い時に合意をした場合には、その合意時期と地代増額請求の時を比較すると、逆に、地代の減額が相当になる場合があり得ます(ただし、借地権者が減額請求をしていないと減額の判決にはならず、単に増額請求が棄却される判決がでるだけです)。

 固定資産税額に連動するという特約以外の特約、例えば、相続税路線価に応じて地代が自動改定するという特約も、他の指数などと比べて土地の値段だけが上昇している場合には、継続地代の鑑定結果とかけ離れている場合もあり得ます(固定資産税や物価などが上昇しないのに、地価だけが上昇しているような場合には、そうなる可能性があります)。その場合には、減額請求が認められる可能性があります。

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3.地代の特約がある場合の増額・減額の手続

 地代の特約がある場合に、地代の増減額の請求をする場合の手続は、一般の地代の増減額の請求の手続と全く同じです( 一定期間地代の増額をしないという特約のある場合は、特約の無効を主張する必要がありますが、それ以外のは、一般の場合と同じです)。

 つまり、不当に低くなった、不当に高くなったと地主側や借地権者側が思ったら、地代の増額または減額の請求の通知を相手方に送ります。相手方が応じなければ、まずは調停の申立をする必要があります。調停が不成立の場合には、正式な裁判を起こして、裁判所に決めてもらう必要があります(裁判官が和解を勧めて和解で終了する場合も多いですが)。請求後、判決までの間は、従来どおりの金額の地代を支払うことになります。自動改定条項がある場合には、自動改定条項に従って自動的に決められた地代の支払うことになります。
 これらの手続については、「 借地の賃料(地代)増額請求・減額請求 」をご覧ください。

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弁護士・内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13白井ビル4階 03-3459-6391