借地上の建物の建替えなどをするときに、借地権者は、建替え資金を金融機関から借り入れることが多いです。その際、担保が必要になり、金融機関は借地権を担保に取るために抵当権をつけます。借地権自体は登記されていませんが、借地上の建物に抵当権の登記を着けると、借地権にも抵当権を設定したことになります。この抵当権設定について、法律上は地主の承諾は不要です。
 しかし、金融機関は、地主の承諾を求めます。このような扱いのため、借地権者、地主、金融機関の3者に問題が起こります。このような借地の抵当権設定について、弁護士が解説します。

※借地の譲渡・転貸と地主の承諾や、地主の承諾に変わる裁判所の許可(借地非訟)の手続などについては、「借地の譲渡・転貸と地主の承諾」をご覧ください。
※抵当権が実行されると、借地権が競売になります。これを競落(競売で買い受ける)しようとする人には注意しなければならない点があります。これについては「借地の競売・競落人は要注意」をご覧ください。

【目次】
1.借地権に抵当権を設定するとは
2.建物に抵当権を設定すると借地権にも効力が及びます
3.地主の承諾は本来は不要です
4.金融機関が地主の承諾を求めます
 (1) 金融機関は地主の承諾がないと融資してくれません
 (2) 地主の承諾書の内容
 (3) この扱いどうにかならないのでしょうか
 (4) 融資手続に協力するという合意の効力
5.関連記事

1.借地権に抵当権を設定するとは 

 借地権に抵当権を設定するというのは、地主と借地権者の契約によって成立している借地権に、抵当権を着けるということです。抵当権は、金融機関が貸付をする時に、担保として債務者の財産につけるものです。借地権も借地権者の財産ですから、これに抵当権を着けるということです。
 そして、借地権者がお金を返さない場合には、抵当権が実行されて、借地権は競売になり、競落人(入札で最高価格をつけて、裁判所から売却許可決定をもらい、代金をおさめた人)のものになります。そして、この場合には、競落人が、地主に譲渡承諾料を支払います(これらについては、「借地の競売・競落人は要注意」をご覧ください。クリックするとページが飛ぶのでここに戻るには、画面上の左の「←」をクリックしてください)。

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2.建物に抵当権を設定すると借地権にも効力が及びます

 借地権には、通常、登記が着いていません。法律上、借地権にも登記を着けることはできますが、着けていないのが普通です。
 法律上、借地上の建物が、借地権者の名義で登記されていれば、借地権にも登記があるのと同じように、第三者(借地権設定後に地主から土地を買い受けた第三者など)に、借地権を対抗(借地権者が自分に借地権があることを主張すること)できます。そのため、借地権に登記を着ける必要がない(地主にそのための協力をしてもらう必要がない)ということで、借地権に登記を着けないのが普通です。

 しかし、それでは、借地権に抵当権が着いたことの確認をどうするのでしょうか。
 借地権は建物に付随する権利ということになっています。このため、建物に抵当権をつけると、借地権にも抵当権をつけたことになります(抵当権に限らず、譲渡担保、買い戻し、抵当権の仮登記などを借地権に着ける場合も、建物につけられたこれらの登記によって、借地権にも同様のものが着けられたとされます)。(*1) (*2)

(*1) 正確な説明ということで、少々、ややこしい話をします(結論には関係ないので読み流してください)。例えば、定期借地の場合には、地主にとっても「定期」の借地権だということを対抗できるメリットがあるため、土地に、定期借地権の登記をつけます。しかし、定期借地に限らず、このように借地権の登記がされても、借地権が賃借権による場合には(賃借権による場合が普通です。登記も「賃借権設定」の登記になります)、この土地の登記(賃借権設定登記)に抵当権を付けることはできません(法務局が受け付けません)。これは賃借権には抵当権を付けることができないと法律に書いてあるからです(民法369条2項)。しかし、借地上の建物に抵当権を付けると、本文に書いたように、賃貸借による借地権にも抵当権をつけたことになります(正確には、つけたと同じ効果が発生するということです)。なお、この場合にも土地につけた賃借権設定登記に抵当権の登記を付けることはできません。(▲本文に戻る)2023.08追記

(*2) ここでお話しているのは、建物の所有者と借地権者が同じ場合です。違う場合には建物に抵当権を付けても、借地権に抵当権をつけたことにならない場合があります。例えば、父親が借地権者で、家を建て直す際、長男が父親から借地権をただで借りて長男名義で家を建てる場合があります。この場合、借地の転貸になるので地主の承諾が必要ですが、地主の承諾があっても、借地権者が長男になるわけではありません(転貸ではなくて借地権の譲渡の場合は長男が借地権者になります)。そして、長男が家を建てるときに建設資金を借りて、その貸主が長男名義の建物に抵当権をつけても、長男の敷地に対する権利は、使用貸借(ただで土地を借りること)ですから、父親の借地権には抵当権の効力が及びません。父親が抵当権の効力が及ぶことを承諾した場合でも、その承諾は無効です。そのため、このような無償の転貸の場合には金融機関からの借入ができません。(▲本文に戻る)2023.08追記

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3.地主の承諾は本来は不要です 

 建物に抵当権をつける場合、本来は地主の承諾は不要です。借地権にも抵当権をつけたことになりますが、地主の承諾は不要です。
 つまり、地主に無断で抵当権を設定しても、契約違反にはなりません(*1)。
  抵当権をつけても、土地と建物は借地権者が使用していて、地主に不利益がないからです。抵当権が実行されて競売になり、第三者が買い受けると地主も影響を受けますが、これについては、地主と買受人が処理することになります(地主の承諾に代わる裁判所の許可も、競売が終了した後で買受人が申立をすることになります)。

(*1)まれに、「地主の承諾がなければ、建物に抵当権をつけてはならない」という特約のある借地契約書があります。これも一種の借地の条件ですから、特約は有効で、地主に無断で建物に抵当権を設定すると、契約違反(特約違反)になります。
 しかし、抵当権をつけるだけでは地主に不利なことは起きません。抵当権が実行されて買受人が現れると問題が起きますが、それについての法律上の手続は用意されてます。つまり、抵当権を付けるだけなら、形式的には特約違反になるけれども、信頼関係は破壊されていない、ということで借地契約は解除されないと考えます。
 なお、古い裁判例ですが、東京地裁昭和44年3月27日判決は、特約は有効で、抵当権を多数回にわたって着けた点で違反が軽微とは言えないとして解除を認めました。しかし、この判決は、競売後の裁判所の許可の制度が新設される前の事案なので、現在とは地主に対する影響が異なります。制度が施行された後の浦和地裁昭和60年 9月30日判決は、特約自体を無効としました。最近のものでは、東京地裁平成25年 8月 8日判決が、特約は有効だが、承諾なしに担保権を設定しても、信頼関係破壊とは言えない場合には解除されないとしました。(▲本文へ戻る

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4.金融機関が地主の承諾を求めます

(1) 金融機関は地主の承諾がないと融資してくれません

 法律上、借地権に抵当権を設定することについて、地主の承諾は不要なのですが、借地権者に融資をしようとする銀行は、地主の承諾を求めます。承諾がないと融資してくれません。金融機関によっては承諾書なしでも融資を認めるところもあるようです(当然、金利が高くなります)が、ほとんどの金融機関では承諾書を要求しているのが実情です。
 地主が承諾をしない場合ですが、これについては地主の承諾に代わる裁判所の許可の制度はありません。つまり、地主が承諾してくれないと借地権者は、金融機関からの借入ができません。

 なお、このような取り扱いは、金融機関が借地権者に融資をする場合の取り扱いです。個人間で貸付をして、その担保として借地上の建物と借地権に抵当権を設定する場合には、地主の承諾を取るかどうかはお金を貸す人の自由です(普通は取らないでしょう)。

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(2) 地主の承諾書の内容

 銀行が地主から取る承諾書の内容は、単に、抵当権をつけることを承諾する、というだけではありません。はっきり言えば、それが目的ではありません。
 承諾書にはほぼ例外なく、「借地権者が地代を滞納したら、借地契約を解除する前に銀行に連絡する」ことを地主が約束することが記載されています。これが金融機関の目的です。このため、抵当権設定の承諾ではなく、銀行への連絡を地主に約束させることだけを条件に融資する金融機関もあります(*1)

 なぜ、こんな約束をさせるのかと言うと、地代の滞納によって、借地契約が解除されてしまうと、銀行が担保にとっていた借地権が消滅するからです(担保がなくなれば、貸していたお金の回収もできません)。銀行は、地代が支払われていないことを知ると、借地契約が解除されないように、借地権の競売が完了するまで、借地権者に代わって地代を支払うのが普通です。

 このような約束をしたのに、地主が、地代の滞納を銀行に知らせないで、地代の滞納を理由に借地契約を解除した事例について、銀行から地主に対する損害賠償を認めた裁判例もあります(最高裁平成22年 9月 9日判決など)。
 地主自身がお金を借りるわけではなく、地代の滞納があったとしても銀行に連絡する義務がないのに、抵当権設定の承諾ということでそんな約束をさせられて、約束を守らなかったら損害賠償をしなければならない、というのでは、地主にとって迷惑でしかありません。

 なお、金融機関にもよりますが、地主の承諾書の中に、「借地権者が金融機関に対して弁済を怠った場合には、借地権の任意売却を行うので、地主は、その任意売却に同意する」(要するに金融機関が連れてきた買受人に対して、地主が同意するという意味です)とか、「競売になった場合、競落人が借地権者となることに同意する」ということが書いてあるものがあります。
 しかし、地主にはそんな義務はありません(そもそも、地代の支払いが遅れた場合に金融機関に連絡する義務もありません)。地主自身がお金を借りるわけではないのですから、地主には何のメリットもなく、かえって、任意売却や競売になった時に不利になる可能性があります。このため、地主がそのような承諾書に署名を拒否するのは当然です(拒否しなかったとしたら、よく書面を読んでいなかったとしか思えません)。
 このような書式の承諾書を使っている金融機関は、借地権者に融資する意思がないとしか思えません。


(*1) フラット35は、実際に融資をするのは独立行政法人住宅金融支援機構(昔の住宅金融公庫)ですが、複数の金融関連会社が窓口として関与しているため、承諾書の内容も様々のようです。その中には「土地(底地)に抵当権を着けること」を地主に求め、地主がそれを承諾しない(通常承諾しません)と、「借地契約の解除前に金融機関に通知する」ことを承諾したことになるという形式のものがあります。地主の承諾を取ろうとして姑息なことをやっている印象があります。なお、この場合にも、金融機関は借地に抵当権を設定します(担保は必要だから当然です)がこれについて地主の承諾は求めません。借地に抵当権を設定するのに、法律上、地主の承諾は不要だからです。しかし、「解除前に金融機関に通知すること」を地主に約束させる点では、他の金融機関の融資の場合と同じです。フラット35の場合、「抵当権設定の承諾」についての地主の承諾は不要との話がネットに掲載されたりしていますが、実質的には他の金融機関と同じ取り扱いです。(▲本文に戻る

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(3) この扱いどうにかならないのでしょうか

 銀行が地主の承諾書を求める理由は、担保にとった借地権が解除で消滅することを防止することです。どうしても地主の承諾書でなければいけない理由はありません。
 借地権者にとって、地代を払わないで借地契約が解除されると、家は取り壊されて、ローンだけが残るという最悪の事態になります。ローンが払えなくなっても、借地権が残っていれば、借地権が競売になり、その分、ローンが減ります。つまり、ローンを払うよりも地代を払った方が(地代の方が安いはずです)遙かに有利です。このことを理解しないで、ローンは払っているのに、地代を滞納する借地権者がいます。銀行は怖いけど地主は甘いと見ているとしか思えません。

 地代が払えなくなったら、銀行に相談するように借地権者に念を押し理解してもらうとか、 地代の支払いをしたことの証明(振込、領収書など)をその都度、借地権者から送らせるなど、銀行が知らないうちに借地権が解除される事態を防ぐ手段はあるはずです。そもそも融資先の信用状態の把握は銀行の仕事のはずです。
 とは言え、地主の承諾書を求める取り扱いは、銀行の担当者レベルではどうにもなりません。どこかの金融機関、扱いを変えて積極的に借地権者に融資したらどうですか?

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(4) 融資手続に協力するという合意の効力

ア 融資手続に協力するという合意

 借地権者と地主との間で、「借地権者が融資を受けるときに、地主が協力する」という合意をすることが希にあります。

 例えば、更新で更新料の合意をするときに、賃借人が若干高めの更新料を支払うことにした上で、

「賃借人が、本件土地上の建物の増改築(建替えを含む)の費用を調達するために金融機関等の融資を利用する際、本件建物に抵当権設定登記をつけることを承諾し、金融機関等所定の承諾書面に押印するなど賃借人の融資手続に無償で協力する。ただし、賃借人は増改築のときに賃貸人の承諾及び相当の承諾料の支払いを要する」

という合意をして書面にします。そして、同じ内容を借地の更新契約にも書きます。

 この合意自体は、有効です。しかし、それで実際にうまくいくかどうかは別問題です。

イ 有効とは言え実効性に問題があります

 このような合意をしたとは言え、この書面や契約書を金融機関に提出すれば、融資が実行されるわけではありません。
 実際に金融機関所定の承諾書に、地主が判子を押す必要があります。
 通常は、このような合意をすれば、地主も、借地権者が融資を受けるのに協力するのが普通だと思います。
 しかし、万一、このような合意をして、しかも、増改築承諾料も支払ったのに、地主が金融機関の書面に判子を押さない場合、これを強制することができません。

 間接強制と言って、特定の義務を履行しない場合に、1日につきいくら払えなどという強制執行の方法があります。しかし、金融機関の承諾書は、各金融機関で色々なパターンがあり、実際に融資を受けようとする場合でなければ具体的に何を強制するのか上記の合意では分かりません。そもそも、上記の合意内容では、書類に判子を押せという判決が取れるのか疑問です。また、書類に判子押させるのに、強制執行の方法を使うことができるかどうか疑問です。

 そうすると、賠償金を請求して、「その支払いをするくらいなら、判子を押してやろう」という気持ちにさせるくらいしか手はありません。ところが、賠償金の金額が問題になります。少なくとも承諾料を返せとは言えるでしょう。しかし、それ以上はどうかというと問題があります。更新料が高くなったと言っても、高くなった分がいくらなのか、更新料の契約書には書いてないと思います。また、建替えができなくなりますが、その賠償額は算定できないと思います。予め違約金額を決めて、契約書に書いておくことはできますが、それも合意しないとできません(ここで揉めると融資に協力するという合意もできない可能性があります)。

 実際に上記の合意があったケース(違約金の定めはありません)では、再築についての当事者本人間の交渉の経緯からして、融資に協力するという合意が実行されるのか不安がありました。しかし、やってみないと分からない、ということで借地非訟の依頼を受けました。
 そして、増改築許可の借地非訟の手続の中で、承諾料の金額について妥協して和解した上で、和解の条項の中に、改めて「融資に協力する」という条項を入れてもらいました。今度は、具体的に金融機関も決まっていたので、詳細かつ具体的にどんな書面のどこに判子を押すのか特定して条項を作りました。裁判官や相手方の弁護士も協力してくれて、地主も納得して何とか合意が設立しました。しかし、和解成立後、金融機関の承諾書に判子をもらう前にもちょっとしたゴタゴタがあり、相手方の弁護士にお願いして協力してもらい、何しか地主の判子をもらうことができました。ホトホト疲れました。(2024年3月追記)

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5.関連記事

●建築資金の調達が目処が立った場合でも、借地契約には増改築禁止特約が付いているので、借地上の建物の建替えには地主の承諾か、地主の承諾の代わる裁判所の許可が必要になります。これについては「借地上の建物の建て替えと禁止特約」をご覧ください。

●増改築禁止特約がない場合は建物の建替えには、地主の承諾は必要ありませんが、その場合にも注意事項があります。これについては「増改築禁止特約がない場合」をご覧ください。

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弁護士 内藤寿彦(東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13 白井ビル4階  電話 03-3459-6391