借地契約が満期になり、地主が更新拒絶をして、それに正当事由があると借地契約は終了します(これについては「借地の更新拒絶(契約終了の正当事由)」をご覧ください)。この場合、借地権者は、借地上の建物を取り壊して、土地を更地にして地主に返還することになります。しかし、建物にはそれなりにお金をかけているので、取り壊すのはもったいない、ということもあり、借地権者は、地主に対して、借地上の建物の買い取りを請求できます。借地権が消滅している前提ですから、借地権価格での買い取りは請求できませんが、代金額は、当事者間で合意できなければ裁判所が決めます。
 ここでは、借地の建物買取請求権の内容、行使の要件、買取金額などについて、弁護士が解説します。ご相談もどうぞ。

【目次】
1.借地の建物買取請求権とは
2.行使する時期
3.行使の効果
4.建物買取請求の代金額
 (1) 時価とは
 (2) 場所的利益とは
 (3) 場所的利益の基準額
  ア.立退料が0円の場合の場所的利益の算定額
  イ.立退料との調整
5.建物に賃借人がいる場合
6.不要な借地と建物買取請求
7.建物買取請求が認められない場合

1.借地の建物買取請求権とは

 借地の建物買取請求権とは、 借地契約が更新しないで終了した場合に、借地権者が地主に対して、建物を買い取らせる権利のことです。(*1)
 建物買取請求権が行使されると(「行使する」と地主に伝えれば足ります)、借地権者と地主の間で、建物の売買契約が成立します
「請求権」とは言いますが、地主にはこれを承諾するか拒否するか選択する権利はありません。
 その結果、建物の所有権が地主に移転します。借地権者は、売主として建物の引き渡し義務があり、地主は、買主として代金の支払い義務が発生します。

 建物買取請求権の行使ができるのは、借地権が期間満了で終了した時に限ります。(*2)
 それ以外の理由では、買取請求権は発生しません。
 例えば、地代不払いなどの契約違反で借地契約が解除された場合には、建物買取請求権を行使することはできません。借地契約を合意解除した場合も、建物買取請求権の行使はできません。
 また、契約期間中に、借地権者が、借地やその上の建物が不要になったので、地主に買い取ってもらいたいと思っても、買い取りに応じるかどうかは地主次第です。つまり、買い取りを請求する権利はありません。


(*1) 建物買取請求権は、契約で排除することはできません。契約書に買取請求を認めないと書いても無効です
 しかし、これには例外があります。定期借地の場合です。定期借地の場合、契約書に買取請求を認めないと書いてあれば、買取請求権がなくなります(定期借地以外の借地契約の場合、契約書にこのように書いてあっても無効です)。また、定期借地のうち、10年以上30年未満の事業用定期借地の場合には、法律上、建物買取請求権がありません。(▲本文へ戻る


(*2) 建物買取請求権は、2種類あって、本文に書いてあるのは、借地借家法13条の買取請求権です(建物買取請求権は、古くからの借地権にも借地借家法が適用されます。この点については、「借地の法律の基礎知識」の「1.古い法律と新しい法律、どちらが適用される借地でしょうか」の(*2)をご覧ください。クリックするとページが飛ぶのでここに戻るときはページの左上の「←」をクリックしてください)。
 この他、借地借家法14条の買取請求権というものがあります。これは、借地権者から借地上の建物と借地権を譲り受けたものの、地主の同意が得られなくて、土地の返還をしなければならない場合に、建物買取請求権の行使ができるというものです(この場合、買取請求権の行使ができるのは、譲り受けた第三者です。なお、この買取請求権は、定期借地の場合にも適用され、合意で排除することはできません)。競売で、借地上の建物と借地権を買ったのに、地主の同意が得られなかったり、裁判所の許可が得られなかった場合(2か月以内に申立をしなかったので申立が認められなかった場合も含みます)も、これに当てはまるので、競落人は建物買取請求権を行為することができます(この点については「借地の競売・競落人は要注意」をご覧ください。ページが飛ぶのでここに戻る場合は画面上の左の「←」をクリックしてください)。実際にこの種の建物買取請求権を行使するのは、競落の場合だけだと思います。通常の借地権売買は、地主の承諾を条件に建物と借地を買い受けるが通常で、地主の承諾がないのに、借地上の建物を買い受けることはないからです。(▲本文へ戻る

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2.行使する時期

 借地権者が更新請求したり、満了後も土地の使用を続けている場合に、地主が異議を述べ、その異議に正当事由が認められると、借地契約は期間満了で終了します。
 しかし、正当事由があるかどうかは、最終的には裁判所が決めます。
 そのため、地主は、借地権者に対して、建物収去土地明渡の裁判を起こします(建物を取り壊して土地を返せという裁判です)。

 問題は、この裁判の途中で、借地権者は建物買取請求権を行使する必要があるかどうか、です。
 結論を言うと、建物収去土地明渡を命じる判決が確定した後(控訴期間中に控訴しなかったり、最高裁まで争っても借地権者が敗訴して、もうこれ以上争えなくなった状態)でも、借地権者(借地権は終了しているので元借地権者になります)は、建物買取請求権を行使できます(最高裁平成 7年12月15日判決)。

 もしも、裁判の途中で、建物買取請求権を行使しなければならない、とした場合、借地権者は、借地権が継続すると主張しながら、「もしも、負けた場合には建物買取請求権を行使する」と言わなければならないことになります。正面から正当事由を争っている場合には、そのような弱気の対応をすることなく、最後まで、強気の主張ができることになります。
 しかし、裁判の途中で、借地権が消滅したと裁判所が認めることを条件に、建物買取請求権を行使するのはかまいません。この場合は、1つの裁判の中で、借地権が消滅したかどうか、その場合の建物買取請求権の代金額などが判断されます。敗訴の裁判の後で建物買取代金の裁判をするのも手間です。

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3.行使の効果

 建物買取請求権を行使する、という意思が地主に伝わると、その時に、建物について売買契約が成立したことになります。
 代金額も決まっていないのに、売買契約が成立した、というのは、違和感を感じるかも知れませんが、法律上、そうなっています。
 また、通常の売買契約では、特約で代金支払いの時点で所有権が移転する場合がほとんどですが、建物買取請求権の場合、権利行使をすると、その時点で、建物の所有権が地主に移転します。

 しかし、建物の所有権が移転しても、建物の引き渡しをする必要があります。建物の内部に荷物がある場合には、売主(元借地権者)は、内部の荷物などを撤去して、建物を引き渡すことになります(*1)
 これに対し、建物を第三者に賃貸している場合には、建物の賃借人がいる状態のまま、地主に引き渡すことになります(建物の賃借人を退去させた上で地主に引き渡さなければならないのではありません)。

 問題は、代金額です。これについては後でお話しますが、当事者で合意して代金額が決まった場合には、建物の明け渡しと引き換えに支払うことになります。代金額が決まらない場合には、裁判所が決めることになります。

(*1) 正確には、建物の引き渡しだけでなく、建物の移転登記をする必要があります。これらは建物の買取代金と引き換えでもかまいません。ただし、代金が支払われなくても、建物の引き渡しをしないと建物の占有を続けていることになり、その間の、地代相当の損害金を支払う必要があります(その分が代金額から差し引かれます。東京高裁平成17.6.29判決)。地主側が建物買取請求やその金額を争い、建物の受け取りを拒否した場合には、「引き渡すので受け取るように」という通知をすれば足ります(内部の家具等は撤去して、すぐに引渡ができる状態にしておく必要があります)。これでやるべきことをやったことになるので、損害金の支払い義務はそこで止まります(地主が引き取ると言ったらすぐに引き渡せるようにしておく必要があるので、使用を再開してはいけません)。(▲本文に戻る

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4.建物買取請求の代金額

(1) 時価とは 

 法律上、建物買取請求権が行使された場合の建物の代金額は「時価」ということになっています。
 借地権が終了して、敷地を利用する権利がないことが前提ですから、「建物の時価」とは、建物を取り壊した材木としての価値しかないようですが、そうではない、というのが判例です。

 判例は「建物が現存するままの状態の価格であって、敷地の借地権の価格は加算すべきでないが、この建物の存在する場所的環境は参酌して算定すべき」と言っています(最高裁昭和35年12月20日判決)。
 何だそれは、という感じですが、建物の固定資産評価額のようなもの(土地や土地の利用権の価格とは別に、建物が建っている状態で建物の価格を評価したもの。つまり、建物の建築費用を時間経過で減額したもの)に、「場所的利益」を加えたものとされています。

 建物それ自体の価格は不動産鑑定士が通常の鑑定方法で算定できますが、「場所的利益」は、通常の鑑定手法では出てこないはずです(場所的利益が取引の対象になるものではありませんから)。しかし、鑑定を依頼すると算定してくれるようです。

 しかし、競売で買い取ったのに、借地非訟の申立をしなかったために、建物買取請求をする場合(*1)はともかく(その場合、地主が支払うのは建物買取額だけになります)、期間満了で借地権が消滅する場合(地主の異議に正当事由が認められた場合)には、地主は、場所的利益を含めた建物買取額だけでなく、立退料も支払う必要がある場合がほとんどです。そのため、その調整が必要になります。
 (2024.5月、文中の一部を改訂しました。)

(*1) 建物買取請求権が、借地借家法13条と14条の2つあることについては、1の(*2)をご覧ください。ここに戻るには、目次にから4の(1) をクリックしてください。(▲本文に戻る

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(2) 場所的利益とは

 そもそも、「場所的利益」というのが、わけの分からないものです。判例は「建物の敷地、その所在位置、周辺土地に関する諸般の事情」と言っています。
 つまり、駅に近いとか、住宅街だとか、道路との関係その他の場所の価値ということです。

 しかし、場所の持つ価値は、土地の価格に反映されているはずです。
 そのため、「実質的には借地権価格の一部を借地権者に還元することになるが、借地権はすでに消滅したという建前なので、『場所的利益』という言葉を使っている」と解説する学者もいます。それによると、「借地権割合が6割の借地だった場合、地主の持っていた底地の権利は更地の4割だったのに、借地権の消滅で、10割の権利が地主に入る。それは、少々もうけ過ぎだし、6割の権利がなくなる借地権者も可哀想なので、地主が得た利益の一部を借地権者に戻す」のが、建物買取請求権だと説明しています。

 建前上、裁判所はこの考え方を取っていません。ただし、実際に、場所的利益を算定した裁判例を見ると、更地価格を基準にして、場所的利益を算定している例が多いです。

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(3) 場所的利益の基準額

ア.立退料が0円の場合の場所的利益の算定額

 実際の判決の場合はどうかと思い、判例検索システムで、「場所的利益」を判決全文の中から探してみました。その結果、かなりの数の判決が出てきました。しかし、マンションの買取請求(借地上マンションの専有部分が敷地利用権を喪失した場合の、地主の買取請求)や共有物分割など、ここでのテーマとあまり関係しないものが多く出てきました。

 そのため、ここでのテーマと関連性がありそうな「建物収去土地明渡請求」の裁判例の中から探してみると、それらのほとんどは、場所的利益を借地部分の更地価格の10%としていました(全てがそうだということではありません)。それらは、裁判所が選任した鑑定人(不動産鑑定士の中から選任されます)が鑑定書にそのように記載していて、それを引用しているものもあれば、鑑定をしないで、裁判官が、更地価格から、上記のように算定しているものもありました。

 ただし、そのほとんどが先にお話しした「競売で借地上の建物を取得したのに2か月の期間内に借地非訟の申立をしなかったため、借地権の取得ができず、建物買取請求をしたもの」(借地借家法14条の建物買取請求)でした。この場合、地主は、建物買取代金を支払うものの、それ以外、立退料などの支払いをする必要がありません。この場合の場所的利益の算定は、裁判所の基準になっているのではないかと思います。(*1)

 それ以外、つまり、借地権の期間が満了したので、地主が異議を述べて、その正当事由が認められたケース(借地借家法13条の建物買取請求)でも、建物買取請求の場所的利益を更地価格の10%(正確には12~13%)としている例がいくつかありました。
 ところが、それらの事例の立退料額がどうなっているのか確認したら、全部が、立退料0円で、地主の正当事由を認めたものでした(東京地裁平成28年 2月25日判決、東京地裁平成 3年 6月20日判決など)。
(2024.05文章の一部を改訂しました。)

(*1) 基準になっていると思う、というのは、あくまでも、普通の借地権(定期借地以外の建物所有目的の借地権)の場合です。定期借地の場合でも、借地借家法14条で建物買取請求権(競売したのに借地権の取得できなかった場合の建物買取請求権)の行使ができます(契約で排除はできません)。ところが、定期借地の場合、借地期間が50年で残存期間がかなりある場合でも、20%程度の評価額にしかなりません。普通の借地権の場合には、借地権価格は、更地の60%前後に評価されます。このため、定期借地の場合も場所的利益が、更地価格の10%だとするのは、不均衡です。つまり、定期借地の場合は、場所的利益額は更地価格の10%にはならないのではないかと思います(裁判例は見つけられませんでした)。(▲本文に戻る

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イ.立退料との調整

(ア)立退料と調整する必要があります

 立退料と建物買取請求の代金額に重複する点がないとします。そうだとすると、期間満了で立ち退きが認められた場合、借地権者には、立退料と建物買取請求の代金額を合わせたものが支払われることになりそうです。

 しかし、建物買取請求の建物の代金額(場所的利益を含むもの)は、立退料と関連します。

 地主の土地の返還請求が認められることが前提ですが、立退料は、借地権者と地主の土地使用の必要性などを比較して、地主と借地権者の利害を調整するために支払われるものです。
 その調整の過程で、建物が取り壊しによってなくなる補償として、建物の現状の価値や、場所的利益が考慮されることになります。このため、建物の価値や場所的利益に当たるものが、立退料に含まる可能性があります。

 この点を調整しないと、二重取りになる可能性があります。このため、立退料と建物買取請求の代金額(場所的利益を含みます)は、二重取りにならないよう、調整して決めるのが相当です。

(イ) 建物買取請求が権利濫用とされた例もあります

 ところが、立退料を決める裁判が確定した後でも、借地権者は、建物買取請求権の行使をすることができます(この記事の「2.行使の時期」をご覧ください)。

 先にお話したように、場所的利益は更地価格の10%が標準ですが、後で建物買取請求権が行使されることを考慮しないで、前の裁判で立退料額を決めたのに、後になって建物買取請求権を行使するのは、法律上は問題ないとしても、いかがなものかと言う場合もあり得ます。東京地裁平成13年11月26日判決は、建物買取請求権の行使を、「権利の濫用であり認められない」としました。すでに決まった立退料額以上に、地主にお金を払わせるのは妥当でないという判断です。(*1)

 この判決は、あくまでも当該事例での判断です。どんな場合でも買取請求が認められないという意味ではありません。しかし、立退料を判断するときに、建物の価値や場所的利益に相当する事情も考慮している場合(これが普通だと思います)には、後で建物買取請求を行使しても、一部は立退料で考慮されているとして、減額されることは考えられます。

(*1) これ以上地主にお金を払わせるのが妥当でないとしても、場所的利益を含む建物価格を0円にして、建物の所有権を地主に移転させてもいいのではないかという場合もあり得ます。しかし、この事案は、建物の所有権が地主に移転しても、建物が特殊なため、地主は使用できない上、取り壊しに多額の費用がかかる、というものでした。(▲本文に戻る

(ウ) 将来の建物買取請求を考慮して立退料を決めた判決もあります

 このようなこともあるので、立退料と建物買取請求額は、まとめて検討するのが妥当だというのは、裁判官も一般に認めていることだと思います。
 しかし、最高裁の判例で、建物買取請求権の行使は、立退料の裁判が終わった後でもいいことになっているため、立退料を決める裁判の時には借地権者が、建物買取請求をしない場合もあります。それでも、借地権者が、後でその行使をするのは当然に予想されます。

 そこで、後で建物買取請求権が行使されることを予想して、この金額を踏まえて、立退料額を決めた裁判例もあります。どうしたのかと言うと、立退料の裁判の中で、立退料額と将来、建物買取請求権が行使された場合の代金額を調整して合計したものを算定した上で、そこから建物買取額を引いたものを立退料額としました(東京地裁平25年3月14日判決、東京地裁令和 2年 9月 8日判決。なお、これらの裁判は、場所的利益を更地価格の10%とはしていません)。
 この裁判が終わった後で、借地権者は、建物買取請求権を行使して、前の判決が言っているよりも高額の建物買取価格を主張することは可能です。しかし、建物買取請求の裁判を担当する裁判官も、前の判決を尊重すると思います。

(エ) 建物買取請求を考慮して、立退料額を0円とした判決もあります

 先に、立退料額が0円になった場合の建物買取請求額について、お話しました。
 これらの判決に明確には書いてありませんが、更地価格の10%程度の建物買取代金が支払われることを考慮して立退料額を決め、その結果、立退料額を0円にした可能性があります(立退料を0円とする代わりに場所的利益の額を更地価格の10%ではなく、少々上乗せして12~13%にしたのではないかとも思います)。

 つまり、これも、立退料と建物買取請求額を調整した結果と思われます。

 これらの裁判は、立退料の裁判の中で建物買取請求権が行使されているため、1つの裁判の中で、立退料額と建物買取請求額を判断することが可能でした。

(オ)建物買取請求の時期によって借地権者が得られる利益を有利にすることは難しいかも知れません

 裁判の後でも建物買取請求が可能ですから、裁判の中のどの段階でも、建物買取請求の行使が可能だということになります。そのため、同じ裁判の中での話ですが、地主側が立退料額の提示をした後になってから、借地権者が建物買取請求権を行使する場合もあり得ます。また、裁判官が和解の席で、立退料額について意見を述べた後で、借地権者が建物買取請求権を行使してその代金額を求める場合もあり得ます。

 しかし、これらの場合でも、裁判官は、建物買取請求額と立退料額を調整して、二重取りにならないように、それぞれの金額を決めると考えられます。つまり、借地権者が、建物買取請求権の行使の時期を選んで、有利な結論を出そうと思っても、そうはならないのです。

(この部分は2024.05に改訂しました。)

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5.建物に賃借人がいる場合

 借地権者が借地上に賃貸建物を所有していて、建物に賃借人がいる場合があります。この場合に、建物買取請求権が行使されると、地主は、賃借人がいる状態の建物の所有権を取得することになります。つまり、地主が、建物の賃貸人になります。

 もしも、建物買取請求権が行使されないと、建物は借地権者によって取り壊されます。借地権者が取り壊さなくても、建物収去土地明渡の判決によって強制執行手続で取り壊しが行われます。つまり、賃借人は建物から退去するしかありません。(*1)
 ところが、建物買取請求権が行使されると、賃借人は、建物の所有者(建物の賃貸人)が元借地権者から地主に代わるだけで、とりあえず、建物の使用を続けることができます。

 そこで、元借地権者が建物買取請求権を行使しない場合、建物の賃借人が、元借地権者に代わって、建物買取請求権を行使できないか、問題になりました(*2)
 しかし、この点について、最高裁判決は「できない」としました(最高裁昭和38年 4月23日判決)。

 なお、元借地権者が建物買取請求権を行使した場合ですが、賃料収入がガンガンはいってくるような物件なら、地主も建物の賃借人を引き受けることは大歓迎です。しかし、そのような物件だったら、借地権の更新拒絶に正当事由が認められることは考えにくいです。どちらかと言えば、地主にお荷物になるような物件が多いと思います。老朽化して建て替えた方がいいような物件なら、建物の賃借人に立ち退き料を払って、退去させることになります(当然、地主が立退料を負担します)。いずれにしても、お荷物です。建物買取請求権の価格を決める時に考慮されることになります(一応収益物件なので、単なる空き家よりは高く評価されると思われます)。


(*1) 建物の賃借人は退去するしかない、と言っても、拒否されることもあり得ます。その場合には、建物の所有者(元の借地権者)は、立退料を支払うなどして退去してもらわなければなりません。(▲本文へ戻る


(*2) 民法423条に「債権者代位権」という規定があります。これは、権利のある人(債権者と呼びますが、お金を貸している場合にはかぎられません)は、義務のある人に代わって、義務のある人ができる法律上の権利行使ができるという規定です。建物の賃借人は、建物の賃貸人(建物の所有者、つまり借地権者)に、その建物を貸すように請求する権利があるので、この権利に基づいて、建物買取請求権を代わって行使できないか、というのがここでの問題でした。 (▲本文へ戻る

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6.不要な借地と建物買取請求

 建物買取請求権が行使できるのは、借地契約が期間満了で終了した場合です。
 借地権者の中には、もう借地も建物もいらないので、期間満了で契約を終了させたい、しかし、建物の取り壊し費用を負担したくないので、建物買取請求権の行使ができないか、と考える人もいます。

 この点については、そのような場合でも、建物買取請求権の行使はできる、とされています。

 しかし、地主が更新を望んでいる場合には、建物買取請求はできない。というのが、有力な学説(法律学者の見解)です。地主も土地を返してもらった方がいいので、本心では更新を望まないのですが、不要な建物を引き受けたくないので、更新すると言って建物買取請求を拒むという状況が想定されます。

 借地権者が、事前に更新しないという通知をして、期間満了で一方的に借地契約を終了させることができるという法律上の根拠はありません(法律は借地権者を保護するため、更新することを原則にしています)。地主が同意すれば終了しますが、それは、合意解除とみなされる可能性があります。そして、合意解除の場合、借地権者に建物買取請求権は認められません。合意ですから、地主が買取請求を認めた上で合意解除することは可能ですが、そうでない場合には、借地権者は建物買取請求権を放棄したと解されます(地主がほしがるような建物なら話は別ですが、解体するしかない建物を、あえて地主が引き取って取り壊すことは考えにくいです)。

 更新請求をしないで期間満了になった場合、借地の上に建物がある限り、借地権者はその土地を使っていることになります。そのため、遅滞なく地主が異議を述べないと、借地権は法定更新してしまいます。
 この規定は、期間満了で借地契約が終了することを前提にしています。そして、借地権者がその後も使用を続けて、更新を希望している場合には、これを保護しようとしていると言えます。
 そこで考えられるのは、期間満了の直後に建物買取請求権を行使することです。建物買取請求権の行使と同時に、建物の所有権が地主に移転するので、借地権に基づいて土地の使用を続けていることにはなりません。これだと、借地権者から一方的に、建物買取請求権を行使できることになります。

 しかし、有名な解説書(法律学者の見解)には、このような場合でも「地主は更新を認める意思を表明して買い取りを免れることができる」と書いてあります。根拠は特に書いてありません。借地契約を続ける意思はないが、取り壊し費用を押しつけるために建物買取請求権を利用する、というのは、法律がこの権利を借地権者に認めた趣旨とは違うので、それが理由かも知れません。(*1) 

 裁判例ですが、更新請求をしないで、建物買取請求の通知をした事例について、借地権者の建物買取請求を認めたものがあります(東京地裁平成30年 3月29日判決)。この裁判で地主は、「借地権者が更新を求めないのだから、建物買取請求権も放棄したとするべきだ」と主張しました。しかし、裁判所は地主の主張を否定して、建物買取請求を認めました。
 この事案は地主側も契約終了を望んだようなので、「地主側が更新を希望した場合でも建物買取請求ができるか」、というものではありません(その場合どうなるのかはこの判決では分かりません)。物件が賃貸物件なので、地主は建物の賃借人ごと建物を引き受けることになります。建物の賃料も安いようですが、地代よりは高いはずです。借地権者がいらないと言っている物件なので、地主も引き受けたくなかったとは思いますが、地主側に酷とまでは言えなかったと思います。
 ただし、この判決は、法律情報誌には掲載されていません。また、判決には、建物買取請求権がなぜ認められるのか、詳細な理由が書いてあるわけでもありません。控訴したのかどうかも分かりません。このため、どこまで他の事例にも通用するのか分かりません。それでも、条文を読むとこの判決のとおりかなとは思います。

(*1) 借地の上に大きな商業施設が建っていて、そこが経営不振のため廃業予定で、借地を返還して建物買取請求権を行使すると予告されたという相談がありました。施設の解体費用は、更地価格の数倍もします。地主側は、そのような解体費用を押しつけられたら、破産ものです。このような話を聞くと、地主側から建物買取請求権の行使を拒否できる手段があってもいいように思います。ただし、相談の事例は、跨がり建物のようですので、買取請求が認められないことになりそうです(これについては次の「7」の(3)をご覧ください)。なお、現在では、このような場合、借地権設定の段階で定期借地を利用するのが普通だと思います。定期借地であれば特約で買取請求権を排除することができ、また、もともと買取請求権がない定期借地契約もあります(この点については、次の7の(4)をご覧ください)。(▲本文に戻る

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7.建物買取請求が認められない場合

(1) 契約違反による解除などの場合

 建物買取請求が認められるのは、地主が更新拒絶をして、それに正当事由が認められて、借地権が消滅する場合です(その他、借地権を譲り受けたのに、地主の承諾が得られなかった場合です)。
 借地契約が、地代の不払い、無断譲渡・無断転貸、無断の増改築など、借地権者の契約違反で解除された場合、建物買取請求は認められません。なお、無断譲渡の場合には譲渡の結果、建物の所有権がなくなるため、その意味でも建物買取請求権はありません。(*1)

(*1) 借地上の建物を譲渡する(建物の移転登記をする)と、借地権も譲渡したことになり、地主の承諾を得ていないと、地主に解除されます。しかし、もとの借地権者が無断譲渡を理由に解除されても、建物の譲渡を受けた者は、建物買取請求権があります(最高裁昭和53年 9月 7日判決)。ただし、これは無断譲渡による解除の前に、地代の不払いがなかった事案です。無断譲渡ではなくて地代の不払いを理由に解除された場合には建物買取請求権はありません(最高裁昭和49年 2月21日判決)。

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(2) 合意解除による場合

 借地権者と地主との間で、合意解除(合意解約)をすると借地契約は終了します。しかし、この場合には、建物買取請求権はありません。
 この場合、借地権者は、建物買取請求権を放棄したとみなされます。無論、合意解除も契約ですから、その契約の中で建物買取請求ができることになっていれば、話は別です。

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(3) 建物が跨がり建物の場合

 跨がり(またがり)建物とは、一個の建物が、借地の他に、別の人が所有する土地(借地権者の所有の土地も含みます)に、またがって建っている場合をいいます。
 このような建物に建物買取請求を認めると、地主は、他人の土地の上の建物部分も買い取ることになります(そのような建物全体の所有権を取得することになります)。しかし、他人の土地の上の部分は、地主は取り壊しを含めて、何もすることができません。
 そのため、跨がり建物の場合には、借地権者は建物買取請求権がありません(最高裁昭和50年 3月25日判決)。借地からはみだした部分について、建物の所有者(借地権者)が所有権の放棄をしても、同様です。
 地主は、借地上の建物(一棟の建物の一部になります)の取り壊しと、土地の明渡を求めることができます。

 なお、上記の判決は、建物が区分所有権の対象の場合は、例外的に建物買取請求を認めると言っています(土地の境界で専有部分が分かれているようなものを言っていると思います)。
 しかし、借地権譲渡の借地非訟の介入権の行使(跨がり建物に対する介入権行使)や、跨がり建物建築のための増改築の許可の借地非訟では、建物が区分所有建物の場合でも、認められないという意見が強いです。地主の負担が大きいことなどが理由です。
 とは言え、借地権者が更地にして土地の返還をしようとしても、他の区分所有者の同意がないとその部分だけの取り壊しはできません。例外的な場合だと思いますが、区分所有建物の場合には、建物買取請求を認めることになりそうです(押しつけられる地主も大変ですが)。介入権行使の場合には地主が選択できるので、地主が不利益を承知で行使するなら、認められる場合もあるのではないかと思います。(2023年11月改訂)

(4) 定期借地で買取請求権が排除される場合

 借地借家法(平成4年8月施行)で新たに認められた定期借地には、期間50年以上の一般の定期借地と、事業用の定期借地があります。このうち、一般の定期借地と、期間が30年以上50年未満の事業用定期借地の場合、契約で、借地借家法13条の建物買取請求権を排除することができます(一般の借地契約の場合には、特約で建物買取請求権を排除することはできません)。また、期間が10年以上30年未満の事業用定期借では、法律上、借地借家法13条の建物買取請求権が排除されています(定期借地契約については、「借地の契約の基礎知識」の「定期借地」をご覧ください)。

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弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13 白井ビル4階 電話・03-3459-6391