借地借家法の保護を受ける借地は、「建物所有目的」の借地権でなければなりません。通常は、契約書に「建物所有目的」と書いてあるのが通常です(昔ながらの定型の契約書用紙に書いてあります)。そして、実際にその土地の上に建物を建てて借地権者が所有するので、問題にはなりません。
問題になるのは、建物所有目的の借地に隣接して、建物所有目的の借地と一体として使用しているけれども、その土地の契約書に「建物所有目的」と書いていない土地の場合です。また、「建物所有目的」と契約書に書いてあっても、土地の一部が、建物の敷地ではなく、建物の付属施設でもなく、建物所有とは違う目的で使用されている場合も問題になります。
このように建物所有目的の借地かどうか問題になる場合について、弁護士が解説します。
【目次】
1.建物所有目的の借地かどうかの意義
2.契約で明記されていること
(1) 不可分一体の関係にあっても他の目的で借りていれば建物所有目的とは認められません
(2) 用途によっては建物所有目的と認められる場合があります
3.客観的な使用状況
4.借地権ではなく地益権が認められた例
1.建物所有目的の借地かどうかの意義
建物所有目的の借地かどうかの問題は、その土地が、借地法や借地借家法の保護を受けるかどうかの問題です。
建物所有目的の借地でない場合、借地法や借地借家法の保護を受けらせれません。特に問題になるのは、期間満了の際、法定更新が認められないことです。借地法などの保護を受ける場合、地主が更新をしたくないと思っても、地主と借地権者との土地の使用の必要性などについて、地主に正当事由が認められないと法定更新します。平成4年8月以前に成立した、古い借地権の場合、木造建物所有目的の借地権なら、期間満了後、20年の更新が認められます。
ところが、建物所有目的の借地権が認められない場合には、期間満了と同時に、土地の使用契約は終了し、法定更新は成立しません。地主に正当事由があるかどうかは関係ありません。土地の賃借人は、土地を地主に返さなければなりません。
2.契約で明記されていること
(1) 不可分一体の関係にあっても他の目的で借りていれば建物所有目的とは認められません
建物所有目的の借地と認められるためには、まず、契約書に「建物所有目的」と書いてある必要があります。
「建物所有目的」と書いてなくて、「幼稚園の運動場用地として」と契約書に書いてあった事案では、建物所有目的の借地契約ではないと判断されました(最高裁平成 7年 6月29日判決)。
この判決の事案は、幼稚園の建物に隣接して運動場があり、幼稚園の経営のためには運動場はどうしても必要な施設でした。つまり、運動場は隣接する幼稚園の建物と不可分一体の関係にあると言えました。
それでも、判決は、「建物所有目的の借地」とは認められないとしました。
なお、この事案では、運動場の土地は、契約期間も契約書では2年程度にして、期間満了時に合意更新を繰り返してきました。このことも、運動場の賃貸借契約が、建物所有目的ではない、という理由になっています。
次にお話しする「自動車教習場用地」の例と違うのは、契約時点で、その用途が建物の所有ではなくて、建物と一体不可分の関係にあるとは言え、運動場用地として借りたことが明らかだったことです。
なお、同様の例で、パチンコ店の駐車場があります。パチンコ店の駐車場も、パチンコ店の建物と1つの契約で「パチンコ店用地として」ということで借りていれば、全体が建物所有の借地と認められます。しかし、パチンコ店の建物部分の契約とは別に、「駐車場」という内容で、契約している場合には、その部分は、建物所有目的の借地とは認められません(東京地裁平成14年10月30日判決)。
(2) 用途によっては建物所有目的と認められる場合があります
ア.自動車教習場の場合
特殊な用途に使用する場合には、契約書に「建物所有目的」と書いてなくて、例えば「自動車教習場の用地として」などと書いてある場合があります。
自動車教習場の場合には、教習用の自動車のコースの他、教習場を管理したり、教官や教習生が待機したり、学科の授業のためなどのため、建物があるのが通常です。自動車のコースと教習場の管理や教習のための建物が一体になった施設が、自動車教習場だと言えます。
そのため、裁判例では「建物所有目的の借地」と認められました(最高裁昭和58年 9月 9日判決)。しかも、この判決の事案では、複数の地主から土地を借りて1つの自動車教習場を作った事案で、問題になったのは、建物がない部分でした。それでも、教習場の建物と一体として使用されていることを理由として、建物使用目的の借地と認めました。
なお、この契約書は「自動車教習場の用地として」と書いてあった事案です(おそらく、土地を借りる時にはまだ全体の設計が明確ではなかったのではないかと思います)。契約の段階から「教習場のコース用地として」と書いてあった場合には、建物所有目的とは認められなかったと思います。
イ.貸し駐車場の用地
同様な例として、「貸し駐車場の用地」などというものがあります。しかし、貸し駐車場の場合、建物を当然に伴うかと言えば、そうではありません。タワーパーキングのように、建物を建てて、その中に駐車場が設置されている場合もありますが(単なる立体駐車場では建物とは認められません)、貸し駐車場全体の中で言えば、非常に例外的な場合です。その場合には、契約書にタワーパーキングだということが分かる記載になっていなければ、「建物所有目的」ということにはなりません。
駐車場の中に簡易な管理施設を設ける場合もありますが、そのようなものがあるのも希です。しかも、自動車教習場と違って、駐車場に不可欠な施設でもありません。つまり、そのような施設を設けることが契約書に書いてあっても、駐車場と一体として、「建物所有目的」の借地と言えるかは疑問です。駐車場に不可欠な施設と言えるかどうかも疑問ですから、その部分だけ建物所有目的の借地と認められるかも疑問です。
結局、タワーパーキングだとはっきり契約書に書いてある場合を除くと、「貸し駐車場用地」の場合には、建物所有目的の借地と認められる場合は、ほんどとないと思います。
3. 客観的な使用状況
契約書に「建物所有目的」と書いてあり、契約上の借地の範囲内だったとしても、その一部について、「建物所有目的」が否定される場合もあります。
例えば、土地の一部が貸し駐車場として利用されている場合です。この場合に問題になる貸し駐車場とは、建物の使用者のための駐車場ではない場合です。例えば、借地上の建物がアパートなどで、住人のための駐車場とか、建物がレストランでそこに来るお客さんのための駐車場などは、建物のために必要な施設と言えます。ところが、第三者に貸すための駐車場の場合、建物とは関係のない施設ということになります。
つまり、建物所有目的の借地の中に、建物所有と関係のない施設があることになります。
貸し駐車場以外にも、建物と関係のない施設というのはあります。庭など建物に通常付属しているものや、建物(住宅に限らないので、当該建物の用途によって違いますが)に必要な施設は、「建物所有目的の借地」の客観的な要件を充たしています。しかし、それ以外の施設がある部分は、建物所有目的の借地に含まれないことになります。なお、第三者のための貸し駐車場でも、建物の敷地内と区別できない場所にある場合には、その部分が建物所有目的の借地ではない、とは言えません。
東京地裁平成4年9月28日判決は、借地内の貸し駐車場について、地主が駐車場の設置を認めている場合でも、駐車場部分のみ、建物所有目的の借地の範囲から外れるので、その部分だけは期間満了によって契約終了する(法定更新しない)としました。
なお、地主が承諾していない場合には、貸し駐車場の設置は、契約違反(用途違反や転貸)になります。その場合、期間満了を待たないで、借地全体について、契約が解除される場合もあります。
そして、地主が貸し駐車場の設置を同意したとしても、貸し駐車場の部分は、満期になると、地主に土地の使用の必要性その他の正当事由がなくても、法定更新が認められず、その部分だけ地主に返還する必要があります(地主が更新に同意すれば、更新します)。
4.借地権ではなく地益権が認められた例
マンションの敷地が借地権の場合があります。この場合、1人の地主からマンションの敷地(付属の施設等を含む)全体を借りているのではあれば問題はありません。
ところが、複数の地主から、複数の土地を借りて、マンションの付属設備を含む敷地としている場合もあります。
東京地裁平成27年 5月25日判決の事例は少々ややこしいのですが、マンションに隣接する土地がもともと、マンション分譲前に施主が地主から、貸し駐車場(マンションの区分所有者専用の駐車場)にするために借りた土地で、分譲後も施主が駐車場を経営してマンションの住人に駐車場として貸していたという事例です。先にお話した自動車教習場の例と違うのは、その部分について、特に駐車場にすることを前提に契約したと認められました。そのため、裁判所は建物所有目的の借地契約を否定しました。
しかし、その土地は地上は貸し駐車場ですが、地下には、電気幹線、動力線、電話線、下水道管等のマンションのインフラ設備が埋設されていました。そのため、裁判所は、その土地についてマンションの区分所有者(管理組合)に、地益権を認めました。
なお、この事例では、裁判になった時の土地の所有者は、契約をした時の地主から、その土地を買い受けています。このような場合、地益権の登記をしていないと、権利を新所有者に対抗できないのですが、地下にインフラ設備があることは客観的事実であり、新所有者も土地を買い受けたときに、地下にインフラ設備が埋設されて利用されていることを知っていたか,少なくとも認識することが可能だったとして、登記がなくても、地役権を対抗できるとしました。
地役権とは、ある土地(この場合はマンションの敷地)のために、他人の土地を利用することができる権利のことです。裁判所は、貸し駐車場の土地(地価にインフラの設置された土地)について建物所有目的の借地だというのは、否定したものの、地役権を認めて、地下のインフラ設備の利用ができるとしました。判決では駐車場については何も言っていないので、駐車場としての利用はできなくなるようです(判決後に今後の利用について話し合いをしたとは思いますが、その結果は分かりません)。
マンション敷地が借地の場合、複数の所有者から土地を借りて建てられる例があり、マンションの建物が建っていない部分について、土地の返還を求められるケースもあるようです。建物所有目的の借地と認められなくても、地役権があるという理由で返還を免れるケースもあるということです。(*1)
(*1) 似たようなケースとして、ガソリンスタンドの用地が、2筆に分かれていて、契約上は建物所有目的になっていたのですが、1筆はガソリンスタンドに必要な施設が設置されていたものの、建物が建っていなかったのに、そちらの土地が第三者に売られたという事案がありました。これについては、「借地権の対抗のための建物登記」の中の「対抗できる借地権の範囲」をご覧ください。
この記事は2025年1月に書きました。
弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎の門5-12-13白井ビル4階(電話 03-3459-6391)