借地契約は期間満了しても終了しないで更新するのが原則です。その時に更新料でトラブルになることがあります。地主側は更新料を支払うべきだと言って請求しますが、借地権者がそれでは高いとか、そもそも支払い義務がないと言って地主の請求を拒否することがあります。契約内容もそれぞれですし、過去の経緯も違うのですが、更新料については法律上のルールがあります。このような更新料について、弁護士が解説します。ご相談もどうぞ。
※地主が更新を拒否する場合については、「借地の更新拒絶(契約終了の正当事由)」をご覧下さい。
【目次】
1.借地の更新料とは
2.更新料の支払い義務はあるのか?
(1) 契約で決めなければ支払い義務はありません
ア.慣習はありません
イ.過去に払っても将来の約束をしたことにはなりません
ウ.交渉途中で更新料を払うと言っても義務は生じません
(2) 契約書に更新料を支払うと書く場合の書き方
(3) 契約で決めたのに更新料を支払わなかったらどうなる?
3.更新料の相場と金額
(1) 更新料の相場とその意味
(2) 契約書で金額が分からない場合
(3) 高額すぎる更新料の合意について
(4) 前回の更新料が安かった場合や地代が安い場合
(5) 将来の更新料の決め方
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1.借地の更新料とは
借地の更新料とは、借地の更新の時に、借地権者が地主に支払うお金のことです。これは法律で義務づけられたものではありません。
更新には合意で条件を決める合意更新と、合意をしない法定更新があります。更新料は、合意更新のときに、金額を含めて合意して支払うのが通常です。また、法定更新の場合でも、予め、契約で「次回の更新の時に法定更新でも更新料を支払う」と決めてある場合があります。
このように合意があればいいのですが、合意がない場合には、更新料の支払い義務があるのかどうか、また、金額について何か基準があるのかどうか問題になります。
なお、「借地の法律の基礎知識」でお話したように、建物所有を目的とする借地権は、平成4年7月31日以前に設定された借地権とその翌日以降に設定された借地権があり、法律上の契約期間が違います。
しかし、平成4年(1992年)8月1日以降に設定された借地は、更新が問題になるのは早くても2022年(令和4年)8月1日です。また、上記の日以降に設定された借地は、ほとんどが更新のない定期借地と言われています(*1)。そこで、ここでは、平成4年7月31日以前に設定された借地についてお話します。
これらの借地の期間や更新については、旧「借地法」が適用されます。
更新の手続や期間などについては「借地の法律の基礎知識」の「旧借地法が適用される借地の存続期間と更新」とその関連記事の「法定更新後の期間の合意」をご覧ください。
(*1)「借地の法律の基礎知識」でもお話しましたが、前の借地権者から借地権を買い取って、借地権者になる場合があります。その場合、地主と借地契約を結び直すのが普通です。しかし、この契約の時期が平成4年8月以降でも、借地権は、新法の借地権にはなりません。前の借地権者の借地権が引き継がれるので、いわゆる旧法借地のままです。(▲本文へ戻る)
2.更新料の支払い義務はあるのか?
(1) 契約で決めなければ支払い義務はありません
ア.慣習はありません
契約で更新料を支払うことになっていなければ、更新料の支払い義務はありません。これが結論です。
借地契約というものは相当昔からあったのですが、更新料の支払いは、「昭和30年代になって東京都内の中心地から発生したものらしい」とものの本に書いてあります。そこから、広がったようです。古い契約書を見ても、更新料の支払いについて何も書いてないのが通常です。
では、何で借地権者は更新料を支払ったのかと言えば、現在でも名残がありますが、借地契約の当事者には、「地主さんから土地を貸してもらっている」という意識があります。また、期間満了で借地権を失うのは、借地権者にとって大変なことなので、トラブルを避けたいという意識もあったと思います。そういうことで、更新料の支払いが広がったのかと思います。
それでも、裁判所は更新料支払いの「慣習はない」、と言っています。
「慣習」とは法律と同じように、拘束力のあるもの、という意味です。「慣習がない」というのは合意がなければ強制されない、という意味です。
合意更新して更新料を払うのは双方納得した上での話ですから問題にはなりません。問題になるのは、法定更新の場合です。法定更新の場合でも、契約で更新料を支払うことになっていれば、更新料を支払う義務があります。しかし、契約で決めてない場合には更新料の支払い義務はありません(必ずしも契約書に書いてある必要はありませんが、契約書に書いてないのに更新料を支払う合意があったことを証明するのは難しいです(*1))。
(*1)契約書に記載がないけれども、過去の支払いの実績から、次回の更新の時に、法定更新だったとしても、更新料を支払う合意があったと認めた例もあります(東京地裁平成28年3月29日判決)。この判決は、過去に複数回の更新料の支払い実績があり、その時の更新料額の算定の方法が一定だったこと、別の地主(複数の地主から土地を借りていた事案です)にも更新料を支払っていたことなど、将来も、同じように算定して更新料を支払うことを合意していたと認められたことが理由になっています。
イ.過去に払っても将来の合意をしたことにはなりません
契約で「法定更新の場合でも更新料を払う」と決めていなければ、更新料の支払い義務はありません。過去に更新料の支払いをしたとしても、それは、その更新の時に、更新料を支払うことを合意して合意更新をしただけで、次の更新の時にも更新料を支払う約束をしたわけではない、と判断されます。更新料の支払いをして合意更新して、更新の契約書を作っても、次回の更新の時に更新料を支払うとは書いてない契約書がほとんどです。(*1)
(*1)不動産会社のホームページの解説に「一度でも合意更新で更新料を支払ったら、以後、更新料の支払義務が発生する」と書いてあるものがあります。
しかし、過去に更新料を支払っても、それは、その時の更新の時に、合意で支払うことにした更新料に過ぎません。過去に更新料を支払っても、将来の更新料の支払いについて契約書に何も書いてない場合には、将来の法定更新の時にも更新料を支払うという合意をしたことにはなりません(東京地裁平成25年5月15日判決など多数)。
つまり、過去に更新料を支払ったというだけでは、次の更新料を支払う合意をしたことにはなりません。更新料を支払うことを合意し、その金額の合意(20年も先の話ですが、少なくとも金額を決める基準の合意)をしなければ、更新料の支払い合意をしたことにはなりません。
東京高裁令和2年7月20日判決は、過去更新料の支払いがあり、契約書に将来の更新料の支払いをすることが書いてあっても、裁判所が更新料の金額が決められない内容の場合(金額の基準が書いていない場合)は無効としました。抽象的に更新料を支払うという合意をしただけでは、更新料支払いの合意にはならない、という意味です。ただし、この判決、画期的なことを言っているわけではありません。金額の基準を決めておくことは重要なことです。地主も借地権者も、いくらでもいいから更新料を払えばいい、とは思っていません。それを決めてない、ということは、更新料の合意をしたことにはなりません。この高裁判決は、あたり前のことを言っています。
ウ.交渉途中で更新料を払うと言っても義務は生じません
それでも、相場程度の更新料だったら更新料を支払って合意更新をするつもりの借地権者が多いようです。
そのため、更新の時に更新料の交渉をして、金額が折り合わずに交渉が決裂することがあります。この場合には、合意が成立しなかったのですから、更新料の支払い義務は発生しません。(*1) (*2)
借地権者が前回程度の更新料を支払うつもりだったのに、話合いが決裂するケースというのは、地主が代替わりしたり、管理している不動産会社が変わり、過去の更新の時と比較して高額な更新料を地主側が要求するようなケースです。しかし、行き着く先は、法定更新して更新料も取れない、というケースです。
それが原則ですし、更新料を支払ったからと言って法的なメリットは、特殊なケースを除いてありません。
例えば、更新料を支払ったからと言って、更新後に増改築をする場合に承諾料を払わなくてもいいということにはなりません(契約書にそのように書いてあれば話は別です)。更新料を支払ったからと言って、増改築の承諾料が安くなるわけではない、というのが東京地裁の取り扱いです。
また、更新料を支払ったからと言って、次回の期間満了時に地主側の更新拒絶が認められにくくなる、ということもありません。(*3)
更新料の性質については色々言われていますが、契約書に書いてないのに合意で支払うのは、おつきあい料というのが一番実態に近いと思います。
(*1) 更新料の交渉をしている時に「前回の更新と同じくらいなら支払う」と言ったとしても、地主側でそれに同意して合意が成立して初めて、更新料の支払い義務が発生します。「交渉途中で更新料を支払うと言ったのだから、金額はともかく、更新料の支払い義務を認めた」ということにはなりません(東京地裁平成21年 3月13日判決。東京高裁令和3年 3月18日判決)。(▲本文へ戻る)
(*2) 金額の合意ができなければ更新料の支払い義務がない、というのは、事前に「更新料を支払う」という合意がなく、合意更新で決めようとする場合です。予め契約書に「法定更新の場合でも相場相当の更新料を支払う」と書いてあった場合には、具体的な金額が書いてなくても(前回更新の時には20年後のことは分からないので具体的な金額が書けないのが普通です)、更新料の支払い義務はあります。ただし、「相場相当」について当事者の認識が全然違い、金額について裁判所が決められない場合には、「相場相当」と書いてあっても無効になる場合があります(東京高裁令和2年7月20日判決)。(▲本文へ戻る)
(*3) 更新が認められるかどうか(更新拒絶に正当事由があるかどうか)が問題になっている裁判の判決で、過去、更新料を支払ったことを借地権者に有利な材料として更新を認めたり、逆に更新料を支払っていなかったことを借地権者に不利な材料として更新を認めないという判決があります。しかし、更新拒絶が認められるかどうかは、借地権者と地主双方の土地使用の必要性が最重要の問題です。過去の更新料支払いの有無は、判決の理由のおまけみたいなものです。過去に更新料を支払っていない場合でも、それだけの理由で、借地を自宅の敷地に使っている借地権者の更新が認められなくなる、ということはありません(この点については、「借地の更新拒絶(契約終了の正当事由)」をご覧下さい)。(▲本文へ戻る) 2023年8月 追記
(2) 契約書に更新料を支払うと書く場合の書き方
契約書に法定更新の場合にも更新料を支払うと書いてあれば、更新料の支払い義務があります。
ところが、契約書の書き方によっては、支払い義務が認められない場合もあります。
「法定更新の場合にも更新料を支払う」と明確に書いてあれば間違いないのですが、そうでない場合には微妙です。
例えば、契約書の内容が
「期間満了時に建物が存在するときは、賃借人と賃貸人が協議のうえ更新することができる。この場合には相場相当の更新料を支払わなければならない」と書いてあった場合、法定更新には適用されないとされる可能性があります。文章の途中の「この場合には」は、その前の「協議のうえ更新することができる」(合意更新)を指していると言えるからです。(*1)
それでは、「この場合には」のような余計なことを書かなければいいのかと言うと、必ずしもそうではありません。「本件契約が更新されたときは、賃借人は賃貸人に対して相場による更新料を支払わなければならない」
となっていた事案について、
裁判所は「この条項は合意更新の場合にのみ更新料を支払うことを約束したもので、法定更新には適用されない」とした例があります(東京地裁平成23年 7月25日判決)。
しかし、この事案はかなり混み入っているので、上記のような条項の場合、法定更新には適用されないのが原則、ということはできないと思います。これと似たような条項で、法定更新の場合にも更新料の支払い義務があるとした裁判例もあります。
また、東京地裁平成25年 2月22日判決は「合意更新の場合には」と契約書に書いてあったのに法定更新の場合にも適用されるとしました。
協議したけれども、金額について合意が成立しなかったため、法定更新になったケースですが、更新料を支払うという条項を契約書に記載した理由がポイントになったようです。
借地の契約書では、将来の更新料の条項が何もないのが普通です。契約書に何も書いてなくても、更新の時に更新料を支払う合意をした場合に更新料の支払い義務が発生するのは当然です。この場合には予め契約書に書いておく必要はありません。そのため、更新料について契約書に書いたのはそれなりの理由があるだろうという判断があったと思います。
とは言え、合意更新をする場合の条件として書いたとも言えるので、このような条項の場合、法定更新の場合には更新料の支払い義務を否定するのが主流ではないかと思います。東京高裁令和3年 3月18日判決は「『合意により更新する場合』と明記されているから,法定更新の場合に適用することができない」として、更新料の支払い義務を否定しました。
このように契約書に、将来の更新料について書いてあっても、争いになるケースがあります。争いを避けようと思えば、明確に「法定更新の場合にも更新料を支払う」と書くべきです。そのように書こうとしたら借地権者が納得しなかったので書けなかった、というのなら、それは、「法定更新の場合にも更新料を支払う」という合意が成立しなかったということです。
(*1) 本文に書いたことを理由に更新料の支払い義務を否定した判決はあります。しかし、必ずそうなるかどうかは何とも言えません。合意更新は、更新料の合意ができたことで成立するのが通常です。つまり、合意更新の場合に更新料を払うのは当然と言えます。「合意更新の場合に更新料を支払う」というのは契約書に書く必要はないのです。それなのに、契約書に書いてあるのは、何らかの意味があるとも考えられます。つまり、「この場合には」とは、法定更新を含めて「更新した」ことを指すと解釈することもできます。どちらに解釈するのかは、過去の経緯などその借地契約の事案ごとになる可能性があります。(▲本文に戻る)
(3) 契約で決めたのに更新料を支払わなかったらどうなる?
更新料の支払い義務があるのに、更新料を支払わなかった場合にどうなるか、ということですが、更新の時に更新料を支払うことを約束して、更新料の金額も決めたのに、その支払いをしなかったために、借地契約を解除された例があります(最高裁昭和59.4.20日判決)。ただし、これは「金額まで決めた」のに支払わなかった場合です。(*1)、 ( *2)
契約書で「相場相当の更新料を支払う」と書いてあった場合には、更新料の支払い義務はありますが、「相場相当」というのは、当事者の頭の中では、自分に有利な金額で考えます。話し合いにも応じないのは、状況によっては問題ですが、話し合っても決まらなければ、裁判で決めるしかありません。地主側が自分が思う相場相当の金額の更新料を請求して、借地権者がそれを払わなかったからと言って、解除が認められる、ということにはなりません(借地権者側の対応があまりにもひどいと客観的に認められる場合には、解除が認められることもないとは言えませんが、相当に極端な場合だと思います)。
なお、最近の契約書の中には「更新の年の相続税路線価の1.25倍で求めた更地価格に借地権割合を掛けて求めた借地権価格の5%の更新料を支払う」というように、契約書で更新料額が具体的に算定できるものもあります。この場合に更新料を支払わないときは、契約の解除が認められることもあり得ると思います(相続税路線価を1.25倍するのは、路線価から公示価格を算定するためです。路線価は公示価格の8割を基準に定められている建前なので、0.8で割り戻す=1.25倍する、ということです)。
(*1) この最高裁判決は、更新料の支払いを合意した事情を認定した上で、「その更新料が 更新後の賃貸借契約の重要な要素として組み込まれ、当事者の信頼関係を維持する基盤をなしている」として、更新料の不払いによる解除を認めました。そこまで言えない場合には、「更新料の支払い義務はある(判決で強制執行して支払わせることができる)けれども、借地契約の解除は認められない」という場合もあることになります。しかし、金額まで決めたのに払わなかった場合には、解除が認められる可能性が高いと言えます。 (▲本文へ戻る)
( *2) 解除とともに、未払いの更新料を支払えと請求することはできるのでしょうか。上記の最高裁の事案は、更新料の総額を100万円と決め、これを2回に分けて支払うことにして、50万円は支払ったのに、残りの50万円を支払わなかったという事案です。これで解除が認められました。この裁判では地主側は、解除だけを求めていた(解除の結果としての借地上の建物の収去と土地の明渡)ので、未払いの50万円については裁判所は何も判断していません。また、支払い済みの50万円についてもどうするのか(借地権者に返す必要があるのかどうか)判断していません。賃料不払いの解除の場合、解除の前後を通じて、物件の明渡までの賃料と使用損害金を請求できることになっていますが、これは実際に使用していたのだから当然です。これに対し、更新料は更新の全期間の更新の対価(前払い賃料のようなもの)という性質もあるので、契約解除したら、未払い分全額を支払えということはできないと思います。(▲本文へ戻る)
3.更新料の相場と金額
(1) 更新料の相場とその意味
契約書には更新料を支払うという条項がない場合でも、更新の時に地主から更新料の請求を受け、相場相当程度だったら、払って合意更新をしたいと考える借地権者はいます。しかし、相場が分からないと請求された額が相場よりも高いのかどうか分かりません。また、契約書で更新料を支払うことになっていても、算定方法が書いてなかったり、「その時の相場」とか「近隣慣習その時の相場にしたがって協議の上決定する」などという記載になっている例が多いと思います。
更新料の相場については、東京都内の場合、更地価格の3%と言われることがあります(堅固建物所有の期間30年の借地もこの中に含まれます)。あるいは、借地権価格の5%と言われることもあります。こちらの方がよく耳にします(借地権割合6割の場合、更地価格の3%が借地権価格の5%になります)。ただし、借地権価格の5%は、「言われている」というだけで、根拠は分かりません。しかし、「言われている」とそれで相場が形成されるということはあるかも知れません(*1)。
増改築や借地権の譲渡の地主の承諾料は、ある程度相場があります。これらは、地主の承諾に代えて裁判所が許可をする制度があり、承諾料も裁判所が決めます。そのため裁判所には承諾料算定の基準があり、これが承諾料の相場になっています。ところが、更新料の場合は、裁判所の基準はありません。(*2)
そもそも、更新料の額は、相場で決まるのではなくて、当事者が契約で決めることです。契約書で、相場で決めるとなっていれば、相場で決めることになりますが、その場合も、契約でそうなっているから、相場で決めるのです。
ただし、契約書で「相場」と書いてあっても、当事者双方で「相場」を自分に有利に解釈する傾向があります。そのため、「相場」と書いてあっても、当事者の考える「相場」の意味が大きく異なる場合には、合意自体が成立していなかったと解釈される場合もあります(つまり、更新料の合意として無効になります)。(*3)
(*1)不動産鑑定士と税理士の2つ資格持つ人たちの集まりが東京区部を調査したところ、更地価格の5%が23区の平均だったという結果が公表されています。しかし、この種の調査は公共機関が統計を取るような幅広い調査ができるわけではないので、サンプル数が少ない上に、地域的に偏ったりしています。地代との関係も様々です。公表した側も、あくまでも参考程度と言っています。(▲本文へ戻る)
(*2) 裁判になった場合、最終的に裁判官が判断することになりますが、裁判所が更新料の相場を決めるのは、契約書の内容が「近隣相場を更新料額とする」と記載されていた場合や、記載がなくてもそのように解釈できる場合です。つまり、裁判所の基準が相場になるのではなくて、裁判所が「契約書に書いてある『相場』とは何か」を判断することになります。そのような裁判の中には、不動産鑑定士に鑑定を依頼したケースもあり、鑑定士は、周辺の更新料を調査して結論を出しました。調査方法やサンプル数などの問題はありますが、裁判所としては、何らかの方法で決めなければ解決しないのですから、仕方ありません。ちなみにそのケースでは、借地権価格の6%という判決になりました(あくまでも当該事案の契約上の「更新料の相場」という意味です)。(▲本文へ戻る)
(*3) ネットには「借地権価格の3%から10%が更新料の相場」と書いてあるものがあります。しかし、3%から10%では、倍以上の差があることになり、更新料を決める手かがりにはなりません。これを相場と呼ぶことはできません。
なお、この範囲ならまだしも、契約書に「相場相当」と書いてあるのに、地主側の不動産業者が借地権者に、更地価格の10%の更新料を「相場だ」として請求した例もあります。借地権者は前回の更新のときと同じ額のつもりだったので、高額の請求にびっくりしてしまいます(借地権割合が70%なら、更地価格の10%は借地権価格の14%相当です)。当事者双方で「相場相当」の認識が違うのですから、契約書の合意自体が無効になる場合もあります。(▲本文へ戻る)2023年8月追記
(2) 契約書で金額が分からない場合
更新料の金額は契約で決めてある、と言っても、現実に、契約書に算定方法が書いてなければ、どうするつもりだったのか、更新料の契約をした時の当事者の意思を検討することになります。(*1)
前回更新して更新料を払っている場合は、どうしてその時にその金額に決めたのかが有力な材料になります。
ただし、20年や30年も前の話ですから、「前回の更新の交渉をしたのはおじいちゃんだったけど、もう亡くなっている」ということで、当事者から話が聞けない場合もあります。
それでも、当時の更地の価格と更新料の金額が分かれば、多分、こんな風に計算したのではないか、ということがある程度、分かります。無論、前回の更新料も、交渉で決めたことですから(地主が一方的に算定してそれを支払ったということもありますが)、最後は、高過ぎる、安過ぎると言い合って、折り合うところで決めたのかも知れません。それでも、当時の更地価格や借地価格の何%というのがある程度は分かるので、次の更新(今回の更新ですが)も同じように決めることにしていたのではないか、ということになります。
ただし、前回の更新の時には、増改築の承諾料と一緒に更新料を支払ったが、今回は更新だけ、というようなケースもあります。前回の時に承諾料はいくら、更新料はいくらと決めていれば話は別ですが、通常は、大雑把に両方合わせていくらと決めることが多いのではないかと思います。このため、前回の金額を参考にして今回の更新料を決めるのは難しくなります。
結局、分からない場合には、その時の相場で決めることにしたのではないか、ということで 落ち着くことが多いと思います。
ただし、相場と言っても、かなり曖昧です。賃貸人と賃借人が合意して決着を着ける場合(裁判所の和解を含みます)は、改めてそこで決めるようなものですから、何とでもなります。しかし、どうしても合意ができず、判決になった場合には、どうなるのか一概には言えません。「相場」で決まるのか、契約で基準を定めていないので更新料の支払い条項自体が無効になる(その場合、更新料の支払い義務はありません)のか、事案ごとに違います。
(*1) 東京高裁令和2年7月20日判決によると、将来の更新の時に更新料を支払うと契約書に書いてあった場合でも、裁判所が更新料の金額を決める基準が書いてない場合には、その条項は無効だとしました。どこまで具体的な基準が必要なのかまでは判決には書いてありません。「近隣相場」でも有効かどうかは分かりません(近隣相場というものがあるのか、と言えば「ない」が正解ですから)。裁判所が契約書の意味を解釈しようとしても、更新料の金額を決める基準が不明の場合には、更新料を支払うという条項は無効だというのが、この判決の内容です。裁判所が決められないということは、当事者間でも金額の合意ができていなかったと言えます。(▲本文に戻る )
(3) 高額すぎる更新料の合意について
「更新料は法定更新の場合でも、借地権の2割とする」という条項のある契約について、立て続けに相談を受けました(互いに関係のない人たちです)。
通常は、契約書に明記してあれば、その効力は争えません。相場よりも高いから無効だということにはなりません。また、借地について、ある程度の法律の知識があれば「更新料は借地の2割」というのは、借地権価格の2割を更新料として支払うという意味だと分かります。契約書は多かれ少なかれ、法律用語が書いてあり、もの凄く専門的な用語でない限り、「意味が分からなかった」という理由では無効にならないのが普通です。
しかし、たまたま、2つの相談とも、過去の更新料額が契約書に書いてありました。つまり、「今回の更新料は○○円とする。次回の更新料は法定更新の場合でも、借地権の2割とする」というように書いてありました。
問題は、そこに書いてある前回の更新料の額で、今回の更新料額(借地権価格の2割)の金額の1/10程度でした。20年前の地価は具体的に調べていませんが、平成15年ころですから、バブル後の地価が一番安かったころと思います。そうだとしても、前回の更新時の更新料は、借地権価格の3%~5%程度で計算したと思います。
問題なのは、前回の更新料額が借地権価格の3%~5%程度だったのに、次回(今回)の更新の更新料を借地権価格の20%にする理由が見当たらないことです。契約書(前回の更新の契約書)は、地主側が用意したもので、地主側は更新料が高くなるのを望むのは当然です。しかし、借地権者が借地権価格の20%もの高額の更新料の支払いに応じる合理的な理由がありません。「よく分からないまま署名した」というのも納得できる状況です。
契約書を交わしているのですから、後になって「そんなつもりではなかった」は通常通用しません(そんなことを言ったら、契約書を作る意味がなくなります)。
しかし、「借地の2割」と契約書に書いてあったからと言って、借地の法律に詳しくない借地権者が、それを借地権価格の2割と理解出来るのか疑問です(そもそも、借地権価格の計算方法も理解していたのかどうか分かりません。そのため、具体的にいくらになるのか理解していたとも思えません。請求を受けてびっくりしていました)。また、前回の約10倍の更新料の支払いに応じる客観的な理由もありません。しかも、借地権価格の20%の更新料を支払うとすると、借地上の建物(収益物件です)の売上げ額の数年分になりました。つまり、あまりに不合理な合意をしたことになります。合意をしたとき(前回の更新契約のとき)に合意内容を理解していなかったと言えます。合意自体が無効になる可能性もあるのではないかと思いました。
これに対する反論として予想できることは、「商業地の収益物件の場合、借地権価格の10%を更新料とする例は結構ある。その倍程度なのだから、問題ない」という反論です。しかし、前回の更新料の金額をここまで上げる合理的な理由がないことは前記のとおりです。
現時点では、裁判例が見当たらないので何とも言えないとしか言えません。
(2023年7月に追記)
(4) 前回の更新料が安かった場合や地代が安い場合
「前回の更新の時には、相場よりも随分安くしたのだから、今回は高くするべきだ」と主張する地主もいます。
しかし、契約書にそのように書いてあるなら話は別ですが、「前回、安い更新料で更新したのだから、今回も同じようにすることにしたと考えられる」というのが、普通の考え方です。
また、「地代を安くしていたのだから、更新料は高くするべきだ」というのも気持ちは分からないではないですが、契約書に書いていない限り、「地代の増額理由があるなら地代を上げればよい。更新料は別」というのが普通だと思います。
(5) 将来の更新料の決め方
話し合いや裁判で、とりあえず、更新料が決まっても、20年ないし30年経つと、また更新料の問題が起こります。
法定更新でも更新料を支払ってもらうためには、契約書に「法定更新の場合でも更新料を支払う」としておく必要がありますが、金額が分かりません。「相場」と書いても、賃貸人、賃借人、それぞれ、自分に有利に考えるのが普通です(賃借人はより高く、賃借人はより低く考えます)。しかも、客観的な意味で「更新料の相場」が決まっているわけではありません。このため、更新料を支払う義務があることになっても、金額を巡って、トラブルになります。
将来、トラブルにならないようにしたいと思えば、「相場」という曖昧なものではなく、算定方法を具体的に決めておけばいいことになります。「その時の相続税路線価で算定した更地価格の何%」と決めておけば、自動的に決まる可能性が高いと思います。
しかし、実際に20年、30年経った時に、本当にそれでよかったのか、分かりません。また、当然の話ですが、具体的な算定方法を決める段階で(要するに、今このときに、特に何%の部分で)、揉める可能性は大いにあります。
4.関連記事
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弁護士 内藤寿彦(東京弁護士会所属)
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