借地権も競売されます。借地権の場合は、通常、借地上の建物とそれに付随する借地権が競売の対象になります。競落人は、競売手続で代金を支払うと借地権者になりますが、地主の承諾がないと地主に借地権の対抗(主張)ができません。そこで、競落後に、地主と交渉して、地主に承諾料を支払って、借地権の対抗ができるようになります。
ここでは、借地権の競売が行われる場合と、その手続、そして、競落しようとする場合に注意しなければならない点などについて、弁護士が解説します。ご相談もどうぞ。
【目次】
1.借地権の競売とその手続
(1) 借地が競売になる場合
(2) 借地の競売の手続と地主の関与
2.借地の競落人は要注意
(1) 裁判所への申立は2か月以内
(2) 介入権には注意しましょう
(3) 地代滞納があると物件明細書に書いてある場合
(4) 競落後の地代の支払い
1.借地権の競売とその手続
(1) 借地が競売になる場合
借地権も競売の対象になります。通常は、借地上の建物と一緒に建物に付属する権利として競売の対象になります。
借地上の建物に抵当権が設定されると、借地権にも抵当権が設定されたとみなされます。そして、借地権者が借金を返せなくなって、抵当権が実行され、建物と借地権が競売になるというのが、借地権が競売になる主な場合です(これについては「借地への抵当権設定」をご覧ください)。
抵当権が設定されていない場合でも、借地権者が借金の返済ができなくて、建物と借地権が差し押さえられて強制執行された場合も、建物と借地権の競売が行われます(建物が差押えられると借地権も差し押さえられたことになります)。
また、相続の遺産分割で、現物での分割や、代償分割(一人の相続人が他の相続人に代償金を支払って自分1人のものにする遺産分割の方法)や、任意売却ができない場合には、家庭裁判所は、建物と借地権を競売して、その代金を相続分で分けるように命じる審判を出します。この審判に基づく申立によって、競売が行われる場合もあります。同様に、通常の共有物分割の裁判の判決で競売が行われる場合もあります。
(2) 借地の競売の手続と地主の関与
借地の競売は、借地上の建物の競売申立によって、行われます(*1)。手続は、通常の競売と同じです。
申立人の競売申立によって、裁判所が建物の差押えを行い、執行官による現地調査や不動産鑑定士による基準価格の評価書の作成、権利関係についての裁判所の意見(物件明細書)が作成され、これらを公開して(つまり、物件の情報公開です)、入札を募ります。そして、入札期間中に最高価格で入札した人とその価格が開札期日に決まり、 裁判所が売却許可決定を出し、その後、代金納付期限までに代金が納付されると、競売の対象がその人のものになります(移転登記は、裁判所が建物の登記を法務局に嘱託して登記が行われます)。
競落人は、上記の競売手続で借地権者になります。事前に地主は関与できません。
しかし、地主の承諾がないと地主に借地権の対抗(主張)ができないので、競売の後で、地主と交渉して、地主に承諾料を支払います。
地主が承諾しない場合には、裁判所に地主の承諾に代わる許可を出してもらい、承諾料を決めてもらいます(この手続は、基本的には一般の借地の譲渡・転貸についての地主の承諾に代わる裁判所の許可の申立と同じです。これについては「借地権の譲渡・転貸と地主の承諾」の中の「地主が承諾しない場合(借地非訟)」をご覧ください。ページが飛ぶのでここに戻るときは、画面の上の左の「←」をクリックしてください)。
裁判所は特に問題がなければ承諾料の支払いを条件に許可をします。承諾料は、借地権価格の10%程度と言われています(通常の借地権譲渡の承諾料と同じです)。
これは競売代金とは別です。競売で購入する際にはこの点も考慮する必要があります。(*2)
(*1) 借地権が賃貸借に基づく場合(通常の借地権はこれです)には、借地上の建物の競売を申し立てると、建物に付随している借地権も競売の申立があったことになります。申立人は、競売の申立書の他に、借地権の内容についての書面(借地の契約書など)を裁判所に提出する必要があります。(▲本文に戻る)
(*2) 地主の承諾前でも、誰かが地代を払わないと地代不払いで解除される可能性があります。この点については、2の「借地の競落人は要注意」の(4)「競落後の地代の支払い」をご覧ください。(▲本文に戻る)
2. 借地の競落人は要注意
(1)裁判所への申立は2か月以内
ア.2か月以内に申立をしないと申立できなくなります
借地の競売が行われた場合、競落人は、代金を裁判所に支払うと、借地権者になります。そして、競落後に、地主と承諾料などについて交渉することになります。
交渉できない場合には、通常の借地権譲渡と同じく、裁判所に地主の承諾に代わる許可の裁判を求めることができます(通常の借地権譲渡と違うのは、すでに借地権付き建物の移転登記が完了していることです)。
ここで絶対に注意しなければならないことがあります。
競売で借地権を取得した場合には、裁判所に競売の代金を納付した日から2か月以内に、地主の承諾に代わる許可の申立をしなければなりません。(*1)
もしも2か月以内にこの申立をしない場合は、もう申立ができません。地主との交渉が長引いたとしても、期間は延長されません。地主から「承諾するかどうか考えるので待ってくれ」と言われていたとしても、期間内に裁判所に申し立てをするしかありません。
(*1) 借地非訟の申立のためには色々な書類を添付する(申立書と一緒に提出する)必要があります。また、書類を見ないと申立書自体も書けません。そのため、明日が期限なので申立をしてほしいと弁護士にお願いされても、「無理です」ということになります。今日、明日は極端だとしても、期限に間に合わないと申立ができなくなるため、責任上、期限が差し迫った時点では「お引き受けできません」ということになります。(▲本文に戻る)
イ.建物買取請求権の行使ができます
裁判所に申し立てができなくなれば、地主が承諾しない限り、借地権の主張ができません。
地主が承諾しなければ、競落した借地権を失うことになります。しかし、建物の所有権は持っているので、この場合、建物の買い取りを地主に求めることができます(地主は拒否できません)。(*1)
買取価格には借地権が考慮されないため、競売での買い取り価格を大きく下回ることになります。建物価格は、建物を解体した材木の価格ではなくて、建物が建てられている状態の価格です(ただし、敷地の利用権がないので、建築費が経過年数で減額された金額になります)。
そして、「場所的利益」が考慮されます。場所的利益は、更地価格の1割が基準とされています(法律で決められているわけではないので、これ以下、ということもあります)。
借地上の建物の買取請求については、「借地の建物買取請求権」をご覧ください。 また、「場所的利益」については、その中の「買取請求の代金額」をご覧ください(ページが飛ぶので、ここに戻る場合は、画面の上の左の「←」をクリックしてください)。
建物の買い取り請求をしなければ自分で建物を取り壊さなければなりません。無論、競売の取消を求めることはできません。
(*1) 建物買取請求権は、借地借家法13条の買取請求権と、14条の買取請求権があります。ここでお話しているのは、14条の建物買取請求権です。13条の建物買取請求権というのは、期間満了で借地権が消滅した場合の建物買取請求権で、ここでは関係ありません。
14条の買取請求権というのは、借地上の建物を借地権者から買い取ったのに、地主が借地権譲渡の承諾をしてくれず、裁判所の許可ももらえなかった場合の建物の買取請求権です。
定期借地の場合には、13条の建物買取請求権はありませんが(法律で排除されていたり、特約で排除することが認められているためです。法律、特約で排除されていない場合には買取請求ができます)、14条の買取請求権はあります。こちらは特約で排除することができません。
ただし、後でお話するように、競売で建物を買い取っても、借地権が地代不払いで解除されると(代金納付すると裁判所が登記嘱託をします。ところが、解除は前の借地権者に対してされるので裁判所も競落人も解除されたことを知らないで代金納付して登記されることもあり得ます)、14条の買取請求権も行使できなくなります。(▲本文へ戻る)
(2) 介入権には注意しましょう
ア.競売後の借地非訟でも地主に介入権があります
競落人が、裁判所に地主の承諾に代わる許可を申し立てた場合、地主は、介入権の行使をすることができます。
介入権というのは、地主が自分で競落人から建物と借地権を買い取ることを求めることで、地主にはその権利があります(介入権については、「地主の介入権」をご覧ください。ページが飛ぶので、ここに戻る場合は、画面の上の左の「←」をクリックしてください)。
この場合の買取代金は、裁判所の鑑定委員会(不動産鑑定士がいる場合が多いです)が意見を出して、最終的には裁判官が決めます。
鑑定委員会は、鑑定に基づいて適正な金額を決めます。基本的に借地部分は、借地権価格から承諾料を引いた金額になります(つまり、借地権価格の9割相当です)。
この金額が、競落代金よりも高ければ、競落人は、借地権者になれなくても、経済的には利益を得ることになります。
イ.競売代金よりも介入権の金額が下回ることもあります
しかし、そうなる保証はありません。鑑定委員会は、競売の代金額と関係なく、借地の適正金額を出します。
相談を受けた話ですが、鑑定委員会の意見書の金額が、競売代金として支払った金額よりも低かったというのです。そして、裁判官から、競売代金と同じ金額で地主に買い取らせるという和解を勧められたとのことでした(競売代金よりも低いのでは可哀想だという理由です)。
これは仕方がないとしか言えません(鑑定委員会の算定が明らかに間違っていると指摘できなければ争いようがありません)。
地主は、宗教法人で、競売の時の入札に参加して、第2順位の入札価格を出したそうです。入札で負けているので、入札価格は競落人が出した価格の方が高かったはずですが、 上記の和解に応じたようです。ある程度高くても、借地を取り戻したかったのだと思います。
ウ.競売の評価書の仕組みを考えると特別な話ではないかも知れません
問題は、競売の入札前に一般公開される評価書の基準価格も、裁判所が選任した、不動産鑑定士が出した価格だと言うことです。基準価格の前提となっている評価額(競売修正などをする前の評価額)は、競売で物件が売れるように、ある程度、低めに設定されると思われます(裁判所としても売れ残ると困りますから)。
そして、競落後の借地非訟(地主の承諾に代わる許可の裁判)の鑑定委員会でも、不動産鑑定士が借地の適正な価格を決めます。同じ不動産鑑定士ではないのですが、どちらも裁判所に選任された鑑定士ですから、競売の評価書の価格をある程度参考にしている可能性があります(正確なところは分かりません)。参考にしなくても、評価時点がそれほど変わらないので、土地の更地価格はあまり変わらない額になる可能性があります。また、借地権割合もほとんど同じだと思います。そうなると借地権価格はほとんど同じになる可能性があります。
競売の評価書では、競売の段階の調査等には不確定要素がある、ということで市場修正と競売修正という減価項目でそれぞれ3割の減価をして基準価格を決めます。つまり、評価額の49%が基準価格になります(基準価格よりもかなり高額で競落される例が多かったため、東京地裁では2019年から、市場減価、競売減価をそれぞれ2割に変更しました。その結果、評価額の64%が基準価格になります)。しかし、借地非訟の鑑定委員会は、そのような減価はしません。このため、競売の基準価格と鑑定委員会が算定した介入権価格(適正な借地権価格の9割)を比較すると、介入権価格の方が高くなるのが通常と思います。
しかし、競落人にとって大事なのは、自分が裁判所に納めた競売代金額と介入権価格の比較です。
競落人は、その物件を手に入れたいので、他の入札者よりも高値と思われる金額で入札します。コロナ禍の数年前から、基準価格の2倍くらいで競落されるケースがかなりあり、最近(2024年) も同様の傾向にあります。それは、借地の場合でも同様です。そのため、競売代金額の方が、借地非訟の鑑定委員会が算定した適正な介入権価格(借地権価格の9割)よりも高くなることはあり得ることです。
入札で決まった価格こそが適正な価格だと思うので、悩ましい話ですが、介入権価格の方が低額に評価されることもあり得る、ということも考慮した上で、入札した方がいいことになります(こんなことが起こると借地権の競売が制限されることになりますが、今のところ見直そうという声は聞きません)。
(3) 地代滞納があると物件明細書に書いてある場合
これは、競落するかどうかの要注意事項です。
借地が競売に出ているケースは、借地権者が金融機関からの借入の返済ができなくなっために、競売申立をされたケースがほとんどです(それ以外に共有物分割のための競売などもあります)。金融機関からの返済ができない場合には、地代も支払っていない可能性があります。地代を支払わないと、地主から、借地契約を解除される可能性があります。解除されると借地権は消滅します。金融機関からすると、債務者の財産が消滅してしまい、債権の回収ができなくなります。
そうならないように、金融機関は、借地権者に代わって、地代の代払いをして借地契約が解除されないようにします。
これが普通だと思いますが、借地権が競売になっているケースで、裁判所が公開している競売の3点セットのうち、物件明細書を見ると「地代滞納あり」と書いてある例があります。滞納があるのに、金融機関が代払いをしていないということです。裁判所が調査をした時点では、地主も解除していないことになりますが、調査後も解除していないことを裁判所が保証するものではありません。
これは要注意というか、競落するのを止めた方がいいと強く勧めるケースです。このまま競落しようとした場合、地主が解除する可能性が高いからです。解除される前に滞納していた地代を全額払えば、解除される可能性がなくなるとは言えますが、うまくいくとは限りません。しかも、競売の手続で建物の所有権は移転しますが、地主が同意するまでは、地主は以前の借地権者だけを相手にすれば足ります。このため、競落の前後を問わず、地主が前の借地権者を相手に借地契約の解除をする可能性があります。地主がもとの借地権者相手に解除しても、競売手続をしている裁判所に知らせる義務はありません。そのため、裁判所が知らないうちに解除が行われ、競売の手続が進むこともあります。
地主からの解除が認められると、借地権が消滅します。解除されたら、借地非訟の申立をしても無意味です。
しかも、悪いことに建物の所有権は、競売の手続で競落人のものになります。借地権がないので、建物の取り壊し義務が発生します。
この場合でも、建物買取請求権があれば、建物の所有権は地主に移転して、競落人は建物の取り壊し費用を支払わなくても済みます。しかし、競落前後にかかわらず、地代の不払いで借地契約が解除された場合には、競落人の建物買取請求権は成立しません(競落後の解除について、最高裁昭和49年 2月21日判決)。買い取り請求権があれば、建物の所有権は地主に移転しますが、それができないのですから、競落人は、建物の取り壊し費用まで負担させられることになります。
では、競落代金を取り戻すことができるかというと、物件明細書に「地代滞納あり」と書いてある場合は、取り戻しは認められません(大阪高裁平成21. 5.28判決)。
物件明細書に書いてなくて、3点セットからは地代滞納が分からなかった場合には、競売代金を受け取った金融機関から取り戻すことができるという裁判例があります(最高裁平成8.1.26判決)。この場合、競落人は地代滞納を知ることができなかったので、代金を取り戻せて当然だと思いますが、非常に例外的なケースです。
競売代金も戻ってこなくて、しかも、建物の解体費用まで負担させられるというのは、とんでもない話です。それなのに、物件明細書には「地代滞納あり」としか書いてありません(東京地裁のケースです)。これだけだと「競落したら、滞納地代を払えばいいのかな」と軽く考えてしまう可能性があります。せめて「地代の滞納があるので、解除されて、借地権が消滅する可能性があります」くらいの警告は書いてほしいと思います。
問題なのは、地代の代払いをしない金融機関です。代払いしないのですから、債権の回収ができなくても仕方がないのですが、間違って競落する人がいると、代金が入って債権の回収ができます。借地契約が解除されて競落人がひどい目にあっても、代金を返す必要がないのです。
ということで、「地代滞納あり」と物件明細書に書いてある場合には、入札しないか、入札の前に地主と交渉して話をまとめた上で競落しないと、踏んだり蹴ったりのおそろしいことが起こります。
(4) 競落後の地代の支払い
競売の代金納付をすると、借地上建物の所有権は競落人に移転します。借地権は、建物に付随して競落人に移転します。しかし、地主に対する関係では、無断譲渡の譲受人と同じで、地主の承諾がないと地主との関係では借地権者になれません。
競落人は、代金納付後2か月以内に裁判所に対して、地主の承諾に代わる許可の申立ができます。しかし、申立が認められるまで、誰も地代を支払わなくてもいい、ということにはなりません。
競売の手続中、金融機関が借地権者に代わって代払いをしていたとしても、それは競落人の代金納付までです。借地権者も、建物の所有権が移転してしまえば、地代を支払うことは期待できません。
この状態で、競落人までもが地代を支払わない場合には、地代の不払いを理由に地主が借地契約を解除するおそれがあります。
この場合、解除は、地主から元の借地権者に対して行われます。解除の前提になる催告も、元の借地権者にされます。元の借地権者と競落人とは接点がないので、競落人に知らせてはくれません。地主が、この機会に借地権を消滅させたい場合には、競落人に連絡する可能性はありません。つまり、競落人が知らないうちにことが進み、知った時には手遅れになる可能性があります。なお、解除されると、競落人が取得した借地権が消滅します。
これを回避するためには、競落人が地代を支払うしかありません(地主に対抗できないとは言え、借地権を取得したのだから、地代を払うのは当然と言えば、当然です)。
ただし、地主が承諾しない限りは、競落人は、借地権者(土地の賃借人)ではありません。そのため、承諾や裁判所の許可の前は、競落人は、地主に対する関係では、債務者以外の第三者として、地代を支払うことになります。
地主が、競落人の地代の支払いについて受領拒否した場合ですが、競落人は借地上の建物の所有者で、これに付随して借地権も譲り受けているので、地代の支払いについて「法律上、正当な利益を有する者」になります。このため、地主が競落人の地代の支払いを拒否した場合には、競落人は地代の供託ができます。なお、供託書の書き方の問題ですが、競落人が借地権者として地代を支払う、ということで供託しても、実際に地代として支払うのですから、後になってそれを理由に解除されることはありません(こちらで供託するのが通常と思います)。
弁護士 内藤寿彦(東京弁護士会所属)
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