※増改築禁止特約や、増改築の意味など、増改築禁止特約のある場合の借地上の建物の建て替えについては、「借地上建物の建て替えと禁止特約」をご覧ください。

【目次】
1.地主の承諾は不要です
2.建替え前の建物が朽廃する時期が来ると契約が終了する場合があります
3.地主は異議を述べることができます
4.新法が適用される借地の場合
5.関連記事

1.地主の承諾は不要です

 平成4年7月31日以前に設定された古い借地権(権利の重要部分に、旧借地法が適用される借地権)では、増改築禁止特約がない場合(契約書がない場合も含みます)には、借地権者が建物の建て替えをするのに地主の承諾は不要です。

 しかし、2つ注意する点があります。
 1つは、契約期間の合意をしなかった場合には、もとの建物(建替えのため、すでに取り壊し済み)が朽廃する時期が来ると、建て替えした建物自体が朽廃していない場合でも、借地契約が終了します。
 2つ目は、承諾が不要でも、地主は、建物の建て替えに対して、異議を述べることができるという点です。

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2.建替え前の建物が朽廃する時期が来ると契約が終了する場合があります

(1) 期間の定めがなくて期間前に朽廃すると考えられる場合

  2つの注意点のうち、まず、1つ目からお話します。
  旧借地法が適用される「古い借地権」では、借地契約で期間を定めなかった場合(法定更新の場合も含みます)には、建物が朽廃する(古くなって建物として使い物にならないくらい壊れること)と、借地権が消滅することになっています(期間と「朽廃」の関係については、「借地の法律の基礎知識」の「旧借地法が適用される借地の存続期間と更新」をご覧ください。※ページが飛ぶので戻るときは、画面の上の左「←」をクリックしてください)。このような期間を定めなかった借地の場合でも、増改築禁止特約がなければ増改築や大修繕ができます。

 そして、契約期間の合意をしなかった借地上の建物の建て替えをした場合、建て替え前の建物(すでに取り壊されています)が朽廃すると考えられる時期が来ると、新築の建物が朽廃していなくても借地権は消滅する、とした裁判例があります( 最高裁昭和42年 9月21日判決。最近のものでは大阪地裁平成10年12月18日判決。ただし、いずれも建替えではなくて大修繕) 。
 建て替え前の建物はすでに取り壊されているので、いくら古い建物だったとしても、それがいつ朽廃するはずだったのかは、分からないのが普通だと思います。上の裁判の事例は、建替えではなくて、大修繕の事例だったので、大修繕以前の状態が分かり、また、建設当初の立地や設計が特殊だった(最高裁の事案は低湿地、大阪地裁の事案は柱を直接、地面に埋め込んだというもの)ため、いつごろ朽廃するのか推測できました(専門家の意見によります)。また、いずれも、大修繕の時に地主が反対を表明したなどの事情も考慮されています。(*1)

(*1) いつ朽廃するのかについて、「通常の修繕をしても、朽廃すると考えられる時期」とする裁判例(神戸地裁昭和60年 5月30日判決)があります。その理由は、通常の修理は当然にできるからです(地主は異議を述べることはできません)。この判決の言っていることは当然だと思います。ただし、最高裁や大阪地裁の事例では大修繕の前に柱などの主要構造物が腐っていて、通常の修繕(主要構造物の交換等は通常の修繕を越えます)をしても朽廃時期が延びる可能性がなかった事案です。(▲本文に戻る

(2) 増改築禁止特約があれば事前に解決できます

 建て替えが自由にできると言っても、新築した建物が使用できる状態なのに、途中で借地契約が終了するというのでは、非常に困ります。ところが、これを事前に解決する法律上の手段がありません。借地非訟による裁判所の増改築許可の制度は、増改築禁止特約がある場合に裁判所が地主の承諾に代わる許可をする、という制度です。つまり、増改築禁止特約がない場合には、この申立ができません。(*2)

 それではどうするのかと言えば、建物がある程度古くて、建て替え後にトラブルになりそうな場合には、事前に建築士に確認してもらうことです。木造建物の場合には、築100年でも、人が住んで手入れをしていれば、朽廃が迫っていない場合が多いです。そこで取り壊す前に建築士に確認してもらい、その証拠を残しておきます(次にお話するように、満期までに朽廃しないと予想される場合には、問題はなくなります)。これが建て替え後にトラブルになった時の証拠になります。
 なお、建築士の意見で、満期前に朽廃する、という場合には、建て替えを諦めるしかありません。

(*2) 増改築禁止特約があれば、裁判所に借地非訟の申立をすることができます。この場合、裁判所が期間途中で建物が朽廃すると判断すれば申立は棄却されるので、建物を新築した後で借地契約が終了するという事態は避けられます。また、裁判所が許可した場合には、裁判所が期間途中で建物が朽廃しないと判断したことになります。このように、借地非訟手続で裁判所が許可しても、しない場合でも、建物を建ててから借地権が消滅するかどうかというトラブルを事前に回避できます。増改築禁止特約があった方が、借地権者にとっても有利な場合がある、ということです。(▲本文に戻る

(3) 満期後に朽廃すると考えられる場合は古い建物の寿命は関係ありません

 取り壊された建物が朽廃すると考えられる時期が、借地契約の期間をまたぐ場合(法定更新後の場合)には、建て替え前の建物の朽廃時期は問題にならず、更新前に新築した建物が朽廃しない限り、借地権消滅の問題は起こりません(最高裁昭和47年 2月22日判決)。なお、最高裁の事例は法定更新の事例ですが、合意更新の場合も一応、同じことが言えます。しかし、合意更新の場合には期間を定めるのが通常なので問題にはならないでしょう。

(4) 期間の定めがある場合は関係ありません

 以上は、あくまでも期間の定めがない場合(期間の合意をしないで法定更新した場合など)の話です。更新の時に期間を定めている場合には朽廃しても借地権が消滅することはないので、上記のような問題は起こりません。

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3.地主は異議を述べることができます

 次に2つ目の注意点についてお話します。
 建て替えをすると、借地の契約期間を過ぎてもしっかりとした建物が建っていることになるのが通常と思います。そして、増改築禁止特約がない場合でも、地主は、この建て替え工事に対し、「異議」を述べることができると法律に書いてあります(「異議を述べない」と建物取り壊しの時から通常の法定更新と同じだけ期間が延長するという規定になっています)。借地権者が異議を無視しても、増改築禁止特約がある場合と違い、契約が解除されることはありません。

 古い解説書には、地主が異議を述べたのに建て替え工事をした場合、借地権者は更新の時に不利益に扱われる(更新が認められない)と書いてあります。しかし、更新拒絶の正当事由には、地主が土地を使う必要性があるのが原則です( この点については、「借地の更新拒絶(借地契約の終了)」をご覧ください )。建て替えの時に、地主の異議を無視してもそれだけで更新が認められないということにはなりません(借地権者に不利な材料の1つにはなると思います。)。(*1)


(*1) この規定は旧借地法7条の規定ですが(新法=借地借家法7条にも似た規定があります)、増改築禁止特約がある場合にも適用されます。その場合に、地主が建て替えの承諾をした場合、条文を読むと古い建物の取り壊しの時から期間が延長するように読めます。しかし、実務ではほとんどこの規定は忘れられています。
 この点について、「 建物の建築そのものは承認するが、契約期間の延長は承認しないとした場合には、この異議を述べたことになる」という最近の判決があります(東京地裁平成30年 6月27日判決)。つまり、建て替えは承諾するが、期間延長は認めない、と言うこともできるということです。実際には、そこまで具体的に言って承諾することはないのですが、単に「建物の建て替え」の承諾をしただけの場合でも、期間延長は認めないと言っていたことになる、ということで実務上処理されていると考えると納得できます。(▲本文へ戻る

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4.新法が適用される借地権の場合

 平成4年8月1日以降に設定された借地権は、全面的に借地借家法(新法)が適用されます。
 増改築禁止特約がある場合の増改築については、古い借地権と同じです。

 問題は、定期借地権でない場合で、更新があった場合です(更新前の建物の建て替えは古い借地権と同じで、原則として自由にできます)。この場合
 ①更新後に借地上の建物が滅失したとき(原因は限定されません。朽廃した場合、自分で壊した場合、火事、地震などの災害による場合もこれに該当します)、借地権者は、借地権の解約の申入ができ、それから3か月が経過すると借地権が消滅します。借地権者が、自分から「建物がなくなったので、もう借地権はいらない」という権利です。
 ②更新後に建物が滅失した場合、借地権者が、地主の承諾を得ないで、建物を建てると、地主は借地契約の解約の申入ができます。それから3か月が経過すると借地権は消滅します。
 なお、これは建物が滅失して建物を再築する場合の話です。建物の再築に当たらない増改築は、これに当たりません(増改築禁止特約があれば、無断増改築として解除される場合があります)。
 ③上の①と②の解約権は、特約で排除できます。ただし、②の規定を排除した場合に限り①は排除できることになっています。
 ④借地権者は、更新後の再築について、裁判所に、地主の承諾に代わる許可の申立(借地非訟の申立)ができます。ただし、上記②の地主の解約権が特約で排除されている場合には、この申立はできません(借地権者は自由に再築ができるので、申立をする必要がないからです)。
 裁判所の許可について「やむを得ない事情」が要件になっています。増改築禁止特約がある場合の裁判所の許可よりも厳しくなっています。
 しかし、まだ、裁判例がないので、この点どうなるのか分かりません。現在の増改築禁止特約のある場合の増改築と同じ条件で認めるのではないかという見方が有力です。

 しかし、この規定の適用が問題になることは、あまりないと思います。
 平成4年8月1日の新法施行後は、定期借地以外の通常の借地契約(古い借地と同じ借地契約)の設定は、ほとんどないと言われています。定期借地は、更新がないので、上記の問題(更新後の建物の滅失や再築)は起こりません。

 通常の借地契約が結ばれる例があまりない理由は、古い借地権のように、権利金の授受がないのに、更地の5割~7割の借地権価格が成立するというのでは、地主(契約前なのでこれから地主になろうとする土地の所有者)が納得しません。また、税務署も納得しません。つまり、多額の権利金を払わないと通常の借地権を成立させることができません。このため、通常の借地契約を結ぶことはほとんどないと思われます。

 これに対して、土地の所有者が自分が経営する会社に、土地を貸す例があります。この場合、税務署は会社に、「地主から土地を返せと言われたらすぐに返します」という無償返還の届出を提出するよう求めます(提出しないと多額の税金が課されます)。無償返還の届出をすると、税務署は、地主の相続税の計算の時に、借地権価格を差し引かない金額で土地を評価します。これでも法律上は借地権ですが、このような特殊な関係にあるので、建替えが問題になることは考えられません。

 例外的に、通常の借地権が成立する場合もあります。宗教法人では、地代収入を得るため、新法施行後も借地契約を結ぶ例があるとのことです。このような宗教法人は、長く地代収入を確保することを望むと思われます。つまり、更新後に建物の滅失があった場合でも、相当額の承諾料が支払われれば、再築を認め、あまりトラブルにならないのではないかと思います。

 なお、旧法適用か新法適用かは、借地権が、平成4年8月1日以降に設定されたのか、それ以前に設定されたのかによって決まります。更新や、借地権の譲渡があっても、その借地権が最初に設定された時がいつかで決まります。特に借地権の譲渡があった場合、借地権の譲受人と地主との間で、改めて契約書を結ぶ場合があり、それだけを見ると、その日に初めて借地契約を結んだよう見える場合があります。しかし、契約期間が20年になっていたり、堅固非堅固建物の区別が書いてあるなど、契約書をよく見ると古い借地契約だと分かる場合もあります。また、借地上の建物が登記簿上、平成4年以前に地主以外の名義で建てられている場合なども、古い借地権だと分かります。そもそも、上記のように、平成4年以降は、定期借地以外は、建物の所有目的の借地契約を結ぶ例はあまりありません。
 

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5.関連記事

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 古くからの借地契約について、増改築禁止特約がある場合について、特約の効果、増改築の意味、裁判所の許可(借地非訟)の手続などを解説しています。
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弁護士 内藤寿彦(東京弁護士会所属)
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