借地権者が遺言書を作成して、借地権を相続人以外の第三者に譲りたい、という場合があります。また、生前の契約で、自分が死んだら遺産をただであげるという契約(これを死因贈与といいます)をする場合もあります。
 借地権以外の財産でも、遺言書で財産を取得する相続人を指定したり、第三者に譲ることは普通に行われています。死因贈与による場合も、同様です。
 しかし、借地権は地主との間の契約で成り立っているため、地主の承諾が必要になります。
 遺言や死因贈与による場合、借地権者はすでに亡くなっているので、誰が地主から承諾をもらうのか、という問題も起こります。また、地主が承諾しない場合どうしたらいいのか、という問題も起こります。
 ここでは、このような遺言や死因贈与による借地権の承継について、弁護士が解説します。 ご相談もどうぞ。

※相続の基礎知識や相続・遺産分割一般については、「相続・弁護士による法律相談」をご覧ください。

【目次】
1.借地の遺贈・借地の死因贈与とは
 (1) 借地権の遺贈とは
 (2) 借地権の死因贈与とは
2.遺贈や死因贈与の場合には原則として地主の承諾が必要です
 (1) 地主の承諾とその時期
 (2) 地主の承諾に代わる裁判所の許可
3.誰がいつ承諾を取るの?
4.地主が承諾してくれない場合は?
 (1) 遺言なら遺言執行者に請求できます
 (2) 承諾料の負担者
 (3) 死因贈与は生前に地主の承諾をもらうのが無難です
5.関連記事

1.借地の遺贈・借地の死因贈与とは

(1) 借地権の遺贈とは

 遺贈とは、相続人ではない第三者に、遺産の全部または一部を譲るという遺言のことです。
 借地権の遺贈とは、借地権付きの建物を遺言によって譲ることを言います。
 正確に言うと、第三者だけでなく、相続人に対しても遺贈はできますが、相続人に遺産を譲る場合は、通常は「相続させる」という文言を使って、遺言者が亡くなると同時に遺産が移転するようにします。以下では、第三者に借地権を遺贈する場合についてお話します。

▲目次へ戻る

(2) 借地権の死因贈与とは

 同じようなものに死因贈与契約というものがあります。死因贈与契約とは、「死んだら贈与する」という契約です。契約なので、贈与を受ける人との間で合意しなければなりません。遺言のように一方的なものではありません。
 死因贈与は口約束でもできますが、書面がないと(契約書に限りません。贈与する人の意思が書いてある書面で足ります)、相続後に相続人に取り消されてしまいます。
 また、書面で死因贈与の契約をしても、贈与する人が亡くなる前は、その人が一方的に取消すことができます(取り消しの形式には要件はなく、遺言の形式でする必要はありません。最高裁昭和47年2月5日)。死因贈与は贈与対象の借地権付き建物に仮登記を付けることができますが、仮登記をしても、贈与する人が生前に死因贈与を取り消してしまうと、仮登記も無効になります。

 死因贈与は、遺贈と効果が変わらないので、遺贈ではなく死因贈与契約をする意味はないのではないかと思います。せいぜい、受贈者(死因贈与を受ける人)に対して、「死んだらあげるよ」と約束して、安心してもらう、という意味しかない、と言えば、ないです。仮登記ができるので、優先的な効力があると誤解して死因贈与契約をする場合もあると思います。

 しかし、遺言書を作ろうとしたら作る前に亡くなった場合に、別の書面が死因贈与契約の書面になったり、遺言書が形式的要件を充たしていないので無効になった場合に、その無効の遺言書が死因贈与契約の書面と認められたという場合もあります。つまり、意図的に死因贈与契約をしようとしたのではないけれども、後になって書面による死因贈与と認められたという例はあります。死因贈与という制度そのものは意味がないわけではありません。
  なお、その場合も、贈与を受ける人が無効になった遺言書の存在を知らされていたなど、贈与者の生前に、贈与者と受贈者との間で、死んだらあげるよ、という贈与契約と認められるものがなければなりません

▲目次へ戻る

2. 遺贈や死因贈与の場合には原則として地主の承諾が必要です

(1) 地主の承諾とその時期

 借地とその上の建物を法定相続人の誰それに相続させる、という遺言の場合、地主の承諾は必要ありません。遺言をした人が亡くなれば、当然にその相続人が建物の所有権者になり、借地権者になります。

  これに対して、第三者に対する遺贈や死因贈与で借地権を譲渡する場合には、地主の承諾が必要になります。
 この承諾は、借地の上の建物の登記名義を移す前、または、建物の引渡をする前に、もらう必要があります。登記や引渡の前に承諾をもらわないと、借地契約を解除されるおそれがあります。
 なお、遺言をした人や、死因贈与で贈与する人が亡くなる前でも、地主の承諾をもらうことができ、もらえればその後も有効です。つまり、遺言や死因贈与の効力発生前でも、有効に承諾をもらうことができます(裁判所の許可の申立は、遺言などをした人が亡くなって遺言などの効力が発生しないと申立できません)。

 遺贈を受けたり、死因贈与を受ける人が、借地権者が亡くなる前から、その家に一緒に住んでいたという場合には、地主の事前承諾がなくても、解除が認められないこともあります。しかし、それはその事案について、可哀想だから裁判所に助けてもらったようなものです。原則として事前に承諾をもらう必要があります。

▲目次へ戻る

(2) 地主の承諾に代わる裁判所の許可

 地主の承諾がもらえない場合には、裁判所の許可が必要になります(地主の承諾に代わる許可です)。

 これらの地主の承諾や、裁判所の許可の手続は、一般の借地権の譲渡、転貸の場合と基本的には同じです(一般の借地権譲渡の手続などについては、「借地権の譲渡・転貸」の中の「地主が承諾しない場合(裁判所の許可)」をご覧下さい)。※ページが飛ぶのでここに戻るときは、画面上の左の「←」をクリックしてください。

 なお、一般の借地権譲渡の場合、裁判所に地主の承諾に代わる許可の申立をした場合、地主は自分が代わりに借地権を買い取ることができます。これを地主の介入権と言いますが、遺贈や死因贈与で借地権を譲る場合には、地主の介入権が認められないことがあります(近親者への譲渡は介入権が認められない場合があります。地主の介入権については、「借地権の譲渡・転貸」の中の 「地主の介入権」をご覧ください)。※ページが飛ぶのでここに戻るときは、画面上の左の「←」をクリックしてください。

▲目次へ戻る

3.誰がいつ承諾を取るの?

 問題は誰がいつ承諾を取るのか、ということです。
 遺贈や死因贈与について、特別な規定はありません。
 地主が承諾してくれればいいので、生前に地主の承諾をもらっておいてもかまいません。「自分が死んだら○○に借地を譲ることを地主が承諾する」という合意を書面でして、遺贈や死因贈与をすることも考えられます。

 遺贈の場合は遺言書とは別に地主の承諾書を作る必要があります。
 死因贈与の場合には、地主の承諾書が死因贈与の書面になり、また、地主が承諾した証拠を兼ねる場合があります。ただし、この場合でも、贈与を受ける人との合意がないと死因贈与は成立しません。(*1)

 また、借地権者が亡くなった後で、遺贈や死因贈与を受ける人が地主の承諾をもらっても問題ありません(あくまでも地主が承諾する場合です)。

(*1) 死因贈与は、書面がないと相続人が取り消すことができますが、その書面は契約書の形でなくてもかまいません。実際にあった例ですが、借地の更新の契約書の中に、「借地権者が亡くなったら、借地権を○○に贈与する。これについて地主は承諾する」という特約が書いてあった例があります。これは死因贈与の承諾も兼ねていることになります。なお、死因贈与契約自体は、口頭(口約束)で交わされました。(▲本文へ戻る

▲目次へ戻る

4.地主が承諾してくれない場合は?

(1) 遺言なら遺言執行者に請求できます

 遺贈や死因贈与を受けた人が地主と交渉できない場合には、相続人全員に対して、地主から承諾をもらったり、裁判所の許可を取るように請求することになります(承諾後に、建物の登記名義を変更するのにも、相続人全員の協力が必要になります)。

 しかし、 移転登記や引き渡しは強制できますが、 地主から承諾をもらったり、これに代わる裁判所の許可申立について、相続人が協力してくれない場合は、これを強制する手段がありません(この点は、借地権を第三者に売る場合に、売主(借地権者)が協力してくれない場合と同じです。これについては「借地権の譲渡・転貸」の「買主のリスク」をご欄ください)。※ページが飛ぶのでここに戻るときは、画面上の左の「←」をクリックしてください

 そこで、遺贈の場合(遺言書がある場合)には、遺言執行者がいれば、遺言執行者が承諾を取り、または裁判所に対して地主の承諾に代わる許可の申立(借非訟による譲渡許可の申立)をします(遺言執行者にこれらの権限があることについては、東京高裁昭和55年 2月13日決定)。承諾が取れた後の名義変更も遺言執行者がします。
 遺言執行者がいない(遺言書で遺言執行者が指定されていない)場合には、家庭裁判所に遺言執行者の選任を請求できます。家庭裁判所では、通常は弁護士の中から遺言執行者を選任をします。

 ただし、遺言執行者がいても、借地非訟の申立をするよう、強制する手段はありません。遺言書で指定された遺言執行者が何もしないということはあり得ます。特に共同相続人など弁護士以外の人が遺言執行者に指定された場合です。そのような場合は、 家庭裁判所に遺言執行者の解任を請求して、新しい遺言執行者を選任してもらうしかありません。

▲目次へ戻る

(2) 承諾料の負担者

 遺言執行者や相続人全員の協力してもらい、借地権を譲り受ける場合にも、承諾料の最終的な負担はどうするのか、という問題が起こります。遺言書に書いてあればそれによりますが、書いていない場合は原則として相続人の負担(通常は、相続財産の負担)になります。
 ただし、遺言書の解釈の問題として、承諾料は借地権を譲り受ける者が最終的に負担すると解釈できる場合もあります。承諾料は金額もそれなりに高額(借地権価格の1割が原則)になるので、トラブル防止のため、承諾料を誰が負担するのか遺言に書いておくのが望ましいです。

▲目次へ戻る

(3) 死因贈与は生前に地主の承諾をもらうのが無難です

 これに対して、死因贈与の場合には、やっかいな問題が起こる可能性があります。

 死因贈与の場合も、贈与を受けた人は、相続人に対して、地主の承諾を得るように求めたり、承諾が得られないなら、裁判所に地主の承諾に代わる許可の申立をするように、相続人に求めることができます。また、承諾が得られたら移転登記をするように相続人に求めることはできます。
 しかし、相続人に対し、地主の承諾を求めることを強制したり、裁判所に借地非訟の申立をするように強制したり、贈与を受けた人が代わって申立を行うことはできません。

 遺贈の遺言執行者と同じように、死因贈与契約書でも死因贈与執行者の指定をしたり、家庭裁判所に死因贈与執行者を選任してもらうことはできることになってはいます。しかし、死因贈与契約書が公正証書でない場合(当事者どおしの契約書の場合)、死因贈与契約書に亡くなった人の印鑑登録してある印鑑が押されている必要があります(その証明のために亡くなった人の印鑑証明書も必要になります)。そうでないと、亡くなった人が死因贈与契約を作成したのか証明できないからです(また、公正証書でない場合や印鑑証明がない場合には、地主が承諾しても、移転登記ができない場合があります。判決が必要になります)。

 また、死因贈与執行者に、借地非訟の申立が認められるか、明確な前例を見つけることができません。遺言執行者に申立権限があるから、当然、認められるという見解もあろうかと思います。しかし、地主側が介入権を行使した場合、死因贈与執行者に地主からの代金の受領権限があるのか問題です(受領権限がないとすると、申立自体が認められないこともあり得ます。受領権限があるとすると、そのお金を死因贈与の受贈者に渡すことになりますが、遺言の推定や解釈と違って契約ですから、そこまで言えるか何とも言えません)。

 借地の遺贈や死因贈与をする場合には、地主の承諾をどうするのか考えた上で、遺贈や死因贈与をするのかどうか検討する必要があります。特に死因贈与の場合には、生前に地主の承諾をもらっておいた方が無難です(すでに亡くなられている場合には、死因贈与契約に基づいて、手続を進めるしかありませんが)。

▲目次へ戻る

5. 関連記事

●借地や底地の相続について、他の記事をお探しのときは、「借地の相続」をご覧ください。そこに他の記事の一覧が記載してあり、そこから当該記事に移動できます

▲目次へ戻る

▲TOPへ

弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13白井ビル4階  電話 03-3459-6391