不動産がずっと昔に亡くなったおじいさんの名義のままになっていませんか(遺産分割の放置)

 自宅の土地建物を、亡くなった人の名義のままにして、そのまま長男が住んでいるということがあります。年月が経過してその長男が亡くなり、長男の子がそのまま住んでいる場合もあります。しかし、他に相続人がいれば、何十年経っても、 全員の共有のままです。その間に固定資産税を払っていたとしても、時効が成立して使っていた人のものになる、ということはありません。そして、時間が経つほど遺産分割の手続が面倒になります。そんな遺産分割の放置について、弁護士が解説します。

【目次】
1.名義を変えないともっと面倒なことになります
2.時効で取得したということにはなりません
3.遺産分割協議と登記手続
4.取得時効には税金がかかります

1.名義を変えないともっと面倒なことになります

 不動産の登記の名義が亡くなったおじいさんのままになっている、ということは、世の中、珍しくありません。

 おじいさんが亡くなった時に遺産分割の話もなく、だいたいはおじいさんの長男やその子(おじいさんの孫)がそのままおじいさん名義の土地や家に住んでいたりします。

 おじいさんが亡くなった後でおばあさんが亡くなり、その後で、長男(おじいさんの子、孫からみるとお父さん)も亡くなると話はややこしくなります。
 それでも、お父さんが一人っ子で兄弟がいなければ、そんなに面倒なことにはなりませんが、今と違って、昔は一人っ子というのは少なく、4人、5人、それ以上の兄弟も珍しくありません。
 そんな状態で何十年も経っていることがあります。
 誰も文句を言わなかったので、そのままにしておいてもいいかと思ってしまいます。
 しかし、家を建て替えようとしても、土地を担保に金融機関からお金を借りることができません。お金を借りる必要がない場合でも、孫・子の代になり、親戚づきあいも希薄になり、この種の問題の解決は難しくなります。時間が経てば関係者の数が増え、ますます面倒なことになります。住所が分からなかったり、住所が分かっても遠方に住んでいたり、海外に住んでいる場合もあります。すぐに不動産を担保にお金を借りたいという場合には、手の打ちようがないことになります。(*1) (*2)


(*1)不都合がないので放置していたという場合もありますが、おじいさんが亡くなった時に名義を変えられない何らかの事情があった場合もあります。例えば、長男が遺産を自分のものにしようとして、他の兄弟姉妹に相続放棄するように言ったのに、応じてもらえなかったのでそのままにしている、という話は昔からあります。おじいさんが亡くなる半年前に再婚して家を出てしまい、その後、亡くなったものの、先妻の子どもたちと後妻やその子(後妻の連れ子で、おじいさんが亡くなった後で後妻が亡くなると相続します)と面識がなく、遺産分割の話ができないまま、先妻の長男がおじいさん名義の家に住んでいた、という場合もあります(妻は昭和55年以前でも1/3の法定相続分があったので話にくかったこともあったようです) 。また、何となく原因が想像できるけれども、今となっては確かめようがない場合もあります。


(*2) 遺産分割協議をしたのに、不動産の登記名義をそのままにしていた、というケースもないわけではありません。しかし、通常は、不動産の名義を変えるために遺産分割協議をします。その名義が変わっていないということは、何か、変えられない事情があったと思われます。分割協議をして、登記名義を変えるための正式な分割協議書を作る前に、話がひっくり返り、分割協議が成立した、しないでもめて、そのままになっているという場合もあります。話がひっくり返る前に、共同相続人全員の署名のある書面を作っていないと、分割協議が成立したと認めらるのは難しいと思います(これについては、「相続の法律の基礎知識」の「遺産分割協議の方法」の中の「話がまとまったのに印鑑をもらえない」をご覧ください)。

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2.時効で取得した、ということにはなりません

 もう何十年もおじいさん名義の土地や家を使っているのだから、時効で自分のものになるんじゃないか、と誰でも考えます。このようなケースでも、住んでいる家に、亡くなったおじいさん宛てに固定資産税の請求が来るので、その家に住んでいる長男がずっと固定資産税などを払っています。ただで使っていたわけじゃないのだから、自分のものになるだろうと考えます。20年以上も占有していれば、他人の物でも時効で自分のものになるのだから、この場合も時効で自分のものになるのではないかと考えるわけです。
 しかし、裁判所は、この場合には取得時効は成立しないと言います。(*1)
 つまり、遺産分割協議をしない限り、何十年経っても、自分のものにはならないのです。(*2)

(*1)他に相続人がいることを承知していた場合には、取得時効は認めない、というのが、裁判所の考え方です(最高裁昭和54年4月17日判決)。自分以外に相続人がいることを知らなかった場合は、例外として取得時効が認められることがありますが、自分以外に相続人がいることを知らなかったというのは、通常はあり得ません。

(*2) 相続に関する時効として、相続回復請求権の消滅時効というものがあります(民法884条)。これは、相続によって取得した権利が侵害された場合でも、権利が侵害されたことを知った時から5年、侵害の時から20年の時効で権利が消滅する、というものです。権利を侵害している者に有利な規定です。しかし、ほんどと利用されていない、と言いますか、判例によって骨抜きになったので使えないと言っていいと思います(判例の態度は妥当だと思います)。共同相続人間でも一応、適用されることになっていますが、自分に権利があると信じる合理的な理由がないと、時効の援用(時効成立の主張)ができないとされています(最高裁昭和53年12月20日判決)。つまり、他に相続人がいることを知っている場合(通常は知っています)には時効の援用はできません。

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3.遺産分割協議と登記手続

 この場合の分割協議ですが、おじいさんの相続人が亡くなっている場合(おじいさんが亡くなった後で相続人が亡くなった場合)には、その相続人の相続人が、「相続人○○の相続人」という立場で分割協議に参加することになります。かなり複雑な感じになります。そして、亡くなったお父さんが問題の不動産を取得したという分割協議書を作成します。次に亡くなったお父さんからの相続でその不動産を自分(おじいさんの孫)が取得したという分割協議書を作成します。
 登記簿には、一旦、亡くなったお父さんが所有者として表示されます。そして、そこから自分が相続で所有権を取得したことが表示されます。こうして、おじいさん名義の土地が自分の名義になります。

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4.取得時効には税金がかかります

 特別な例外的な事情のある場合、取得時効が認められることもあります。
 しかし、裁判で取得時効が認められると、税金の問題が発生します。時効で取得したと主張した時に、土地の価額(時価)の半分が一時所得となり、他の所得(給料など)と一緒に課税されます。これがかなりの高額になる場合があります。ある程度、関係者(共同相続人)にお金を払ってでも遺産分割協議をした方が安いかも知れません。

 取得時効の場合は税金がかかりますが、遺産分割の場合には、相続税の申告期限から5年で時効が成立します。つまり、おじいさんが亡くなってから何十年も経っていれば、おじいさんの相続については時効により相続税を納める必要はありません。ただし、登記がおじいさん名義のままでも、おじいさんの相続人(例えばお父さん)が亡くなれば、別の相続が発生したことになります。つまり、最近亡くなった人の分については、相続税を納める必要がある場合があります。

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弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13白井ビル4階  電話 03-3459-6391