兄弟が遺産分割前に持分を第三者に譲渡した

 親が亡くなり、遺言書もないので、共同相続人になった3人の兄弟で遺産分割をしようと思っていたら、兄弟の1人が自分の持分を第三者に売ってしまった。。。。
 第三者から話し合いを求められても、何をどうすればいいのか分かりません。話し合いができない場合は、遺産分割調停でしょうか。第三者を遺産分割調停にひっぱり込むのでしょうか。そんなことができるのでしょうか。
 これが、遺産共有と通常共有が併存する場合の一例です。他にも遺産共有と通常共有が併存する場合があります。  
 また、人により利害が違います。お金だけもらえばいい人もいれば、その物件を単独で自分のものにしたい人もいます。これをどう解決すればいいのでしょうか。
 このような、遺産共有と通常共有の併存と、その解決の手続について、弁護士が解説します。ご相談もどうぞ。

【目次】
1.遺産共有・通常共有とは
 (1) 遺産共有とは
 (2) 通常共有とは

2.遺産共有と通常共有が併存する場合とは
 (1) 通常共有者の1人に相続が起こった場合
 (2) 遺産共有者の1人が持分を第三者に譲渡した場合
  ア.第三者に持分を譲渡する手続
  イ.譲渡された後の遺産分割の手続

3.遺産共有・通常共有の併存の場合の分割手続
 (1) 通常共有の共有持分権者からの分割請求が認められています
  ア.通常共有者からの訴えは認められます
  イ.通常共有者の全面的価格賠償と競売の分割は可能です
  ウ.遺産共有者による全面的価格賠償はできません
 (2) 遺産共有の持分権者からの分割請求はできるのか

1.遺産共有・通常共有とは

(1) 遺産共有とは

 不動産などの遺産は、相続が発生すると共同相続人間で法定相続分で共有している状態になります(遺言があって特定の相続人のものになる場合には別です)。
 これを遺産共有といいます。遺産共有は、遺産分割の手続によらなければ分割できません。話し合いで解決できなければ、家庭裁判所の遺産分割調停や審判で解決することになります。通常共有と違って、地方裁判所で共有物分割の裁判をすることはできません。

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(2) 通常共有とは

 通常共有(一般共有とも言います)とは、ざっくり言えば、遺産共有以外の共有のことです。

 夫婦で家を買って、夫婦で1/2ずつの共有にした場合など契約で共有にする場合があります。また、遺産分割の手続で、共有のままにするという遺産分割の合意をすると、遺産共有の状態から通常共有の状態になります。

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2.遺産共有と通常共有の併存とは

 遺産共有と通常共有が併存する場合というのは、1つのもの(例えば土地)の持分の一部が遺産共有で、その他の持分が通常共有の状態をいいます。

 このような共有の併存が起こるのは、大きく分けて2つの場合があります。

(1) 通常共有者の1人に相続が発生した場合

 第1は、最初は通常共有だったものが、一部、遺産共有になった場合です。
 例えば、A、B、Cの3名の通常共有だったのに、Cが亡くなり、共同相続になった場合です。つまり、AとBの持分は通常共有の持分ですが、Cの持分だった部分は、Cの相続人の遺産共有になります。
 なお、全部が遺産共有で、その遺産分割前に共同相続人の1人が亡くなり、その人の持分について妻や子などの共同相続が発生した場合には、手続が若干複雑になりますが、遺産分割手続で処理することになります。つまり、遺産共有と通常共有の併存の問題は発生しません。

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(2) 遺産共有者の1人が持分を第三者に譲渡した場合

 第2は、最初は遺産共有だったものが、一部、通常共有になった場合です。
 例えば、A、B、Cの3名が共同相続人で遺産共有だったのに、Cが第三者Dに自分の持分を譲渡した場合です(冒頭の例です)。

ア.第三者に持分を譲渡する手続

 CはA、Bに対する関係では、遺産分割手続によらないと遺産分割ができなかったのですが、第三者に対する関係では、通常共有の持分と同じように、自分の持分(法定相続分の持分)の譲渡ができます。このようにCの持分の譲渡を受けたDは相続人になるわけではありません。Dは通常共有の持分権者になります。(*1)

 なお、CがDに持分を譲渡してその登記をするためには、登記名義が亡くなった被相続人名義のままではできません。まずCが単独で相続登記をして(A、B、Cの法定相続分での共有名義の登記になります)、Cの共有持分をDに譲渡してその移転登記をします。このようにCはA、Bの了解なしに持分譲渡ができます。(*2)

(*1) 共有持分の譲渡とは別に「相続分の譲渡」というものがあります。こちらは個別の財産の持分譲渡ではなくて、相続人の相続分をまるごと譲渡するというものです。相続人間ではよく利用されますが、第三者に譲渡することはあまりありません(相続分の譲渡については「相続分の譲渡」をご覧ください。ページが飛ぶのでここに戻る場合には、画面左上の「←」をクリックしてください)。ここで言っているのは個別の財産の持分譲渡です。( ▲本文に戻る

(*2) 共同相続人Cが遺産分割前に、第三者に遺産共有の持分を譲渡するというのは、A、Bと仲が悪く、顔も合わせたくないような場合が多いと思います。また、このような持分を買い取るDも、一般の人ではありません。最近は、このような物件を買い取る業者もいます 。怖い人という事ではありませんが、それでも、このような物件を買い取って仕事にしているのですから、安易な交渉は避けて弁護士に相談した方がいいです。
 この持分を買い取るように言われても、AもBも遺産共有者のため、金額で合意できてもその後の手続がややこしくなります。AだけがDから買い取って移転登記することは可能ですが、その場合、Dから買い取った部分についてだけ、Aは通常共有の持分を持っていることになり、それ以外の部分(もともと相続した部分)は遺産共有のため、遺産分割手続が必要になります。この場合は合意さえできれば処理は比較的簡単ですが、そもそも、話し合いだけで、DがAに持分譲渡をするかどうかが問題です。( ▲本文に戻る)

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イ.譲渡された後の遺産分割の手続

 第2の場合、AとBの共有持分は遺産共有のままの状態です。そのため、AとBの共有持分は遺産分割の手続によることになります。この場合の遺産分割手続は、A、B、C3名での遺産分割手続になります(Cは遺産分割手続から除外されるわけではありません。そのため、Cも合意しないと遺産分割手続は終わりません)。
 遺産分割では、Cが持っていた持分(すでに遺産としては存在していせん)を計算上、遺産に組み入れて分割することもできます。この場合の遺産分割は、現実に存在しない遺産(CがDに譲渡した持分)をCに取得させたことにして(現実には存在しないので取得できません)、その価格分、他の財産に対する権利を減少させるという処理をするのが通常です。ややこしい話になるので、ここでは詳しい説明は省略します(「亡くなった人の預金の使途不明」の「2.亡くなった後で預金が引き出されていた場合」の(*2)で、相続人の1人が相続開始後に、預金を引き出した場合の遺産分割について若干の解説をしています。なお、ページが飛ぶのでここに戻る場合には、URLの左横の「←」をクリックしてください)。
 なお、遺産分割をこのようにしても、Dに移転した持分の解決にはなりません。

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3.遺産共有・通常共有の併存の場合の分割手続

(1) 通常共有の共有持分権者からの分割請求が認められています

ア.通常共有者からの訴えは認められます

 遺産共有と通常共有が併存する場合、基本的には、遺産共有部分について、遺産分割手続を完了させ、その部分も通常共有の状態にして(共同相続人の1人が単独の共有持分権者になる場合もあれば、共同相続人間で通常共有にするという遺産分割の合意をする場合、または第三者に売却して売ったお金を分けて第三者が共有者になる場合もあります)、その後で、通常共有の持分権者間で共有物分割の手続をすることなります。

 しかし、相続人間でもめているような場合には、遺産分割手続が完了するまでに時間がかかります。特に、他にも財産があり、その財産を含めて遺産分割でもめている場合には、通常共有の持分権者は、ただ待たされるだけの状態になってしまいます。

 そのようなこともあり、通常共有の持分権者が、遺産共有の持分権者を含めた形で、通常共有財産の分割裁判をすることが認められています(最高裁平成25年11月29日判決)。

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イ.通常共有者の全面的価格賠償と競売の分割は可能です

 しかし、この裁判の中で、遺産分割の手続をすることはできません(民法258条2)。ではどうなるのかと言うと、上記の平成25年の最高裁は、通常共有の持分権者が、全面的価格賠償による分割(相続で言う代償分割と同じです。他の共有者の持分を買い取って共有物全部を自分のものにして、分割手続を完了することです)で処理した事案です。この場合、共有物全体を取得した通常共有の持分権者は、遺産共有の持分権者にも代金も支払わなければなりません。これで通常共有の持分権者は不動産全体の権利者になり、問題は解決します。しかし、遺産共有者に支払われた代金は、複数の遺産共有持分権者のものになり、最終的にどうなるのかは遺産分割手続の中で処理しなければなりません。その処理が終わるまで、遺産共有の持分権者の誰かが預かることになります(*1)

 その他の形で共有物分割をする場合について、最高裁判決は何も言っていませんが、競売をして、代金を持分に応じて分ける場合でも、同様の処理(遺産共有の持分権者に対する競売代金の分配金をどこかにストックしておく)が出来ると考えられます。

 ところが、遺産共有の持分者の中に、特別な利害を持つ人がいる場合には、この方法は不都合です。例えば、遺産共有者が、共有している土地建物に居住している場合です。その人が他の共有持分権者に支払うお金がなければ話になりませんが、お金がある場合には、自分が他の共有者の持分を買い取って、共有だった土地建物を自分1人のものにしたいです。通常共有の持分権者が全面的価格賠償で財産を取得したり、競売になってしまえば、住む場所を失ってしまいます。そのため、そんな酷な判決ができるか、という問題が起こります。

(*1) 最高裁は、遺産共有者の誰が、どんな方法で預かるのかまで言っていません。担当する裁判所の判断で決めるように、とのことです。
 しかし、担当裁判所も特定の1人に保管させるのは不安です。結局、法定相続分で共同相続人に預からせて、その後、遺産分割で処理させるのが、無難なところで、そのように処理されています(東京地裁令和 3年10月28日判決、東京地裁令和 2年 2月18日判決など)。
 ただし、共有の併存が発生する場合の第2の例(1の(3)の第2)のC(第三者に持分を譲渡した者)は登記簿上の共有者にはなっていませんし、共有物分割の裁判の当事者にもなりません。また、Cに法定相続分相当のお金を渡すのはトラブルのもとです。そのため、AとBに1/2ずつ渡すという方法を取るのではないかと思います(あとの処理はA、B、Cでやることになります)。(▲本文に戻る

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ウ.遺産共有者による全面的価格賠償はできません

 上記のとおり、通常共有者は、遺産共有者を含めて、共有物分割の裁判を起こすことはできます(遺産共有者を含めないと共有物の分割はできません)。

 しかし、その裁判の中で、遺産共有者の1人が、お金を出して他の持分権者から持分を買い取って、その財産を自分1人のものにしたいと思っても、通常の共有物分割の裁判では、これができません。これができれば、その財産についての遺産分割もそれで完了することになって、便利ですが、法律は通常の共有物分割の手続の中で、遺産分割をすることはできないと書いてあります(民法258条2)。できたばかりの法律ですが、この種の問題の全面的解決にはなりません。 

 そうすると、遺産共有者の希望とは関係なく、通常分割の裁判が進んでしまって、通常共有者がその財産を全面的価格賠償で取得したり、競売になってしまうのか、と言うと、そんなことはありません(黙っていればそうなります)。
 通常共有者に全面的価格賠償で共有物を取得させるのが適当ではない(遺産分割共有者に取得させるのが適当)と裁判所が判断した場合には、裁判所は訴えを取り下げさせるか、遺産分割を待つことになると思います(競売にしてしまうというのも、あり得ないと思います)。なお、この点は、判例検索システムでも裁判例を調べられませんでしたが、このようにするしかないと思います。

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(2) 遺産共有の持分者からの分割請求はできるのか

 先ほどの平成25年の最高裁の事案は、通常共有の持分権者から遺産共有の持分権者に対して、共有物の分割請求があった事案でした。

 しかし、遺産共有者の1人または全員から、通常共有者に対して、共有物分割請求の裁判ができるか、という話になると、できない、というのが一般的な見解です(このような裁判を認めたという例も見つかりません)。

 また、通常共有の持分権者を遺産分割の手続に引き込む、という手続もありません。

 このため、遺産共有者は、遺産分割を終わらせて誰かが通常共有者にならないと(前記のとおり、遺産共有者の1人が遺産共有部分の持分を全部取得するなどしないと)共有物分割の訴えができません。

 つまり、遺産共有者は、遺産分割を終わらせて(問題になっている共有財産だけの一部遺産分割を利用することも考えられます)、通常共有者になって、通常共有の共有物分割の裁判を起こすことになります。

 無論、遺産分割前に、通常共有者が共有物分割の訴えを起こすこともあり得ます。その場合でも、お金さえもらえればいい、という場合には、問題はありません。しかし、遺産共有者が、共有財産の土地・建物に現実に住んでいて、他の持分権者から持分を買い取る資金がある場合には、遺産分割協議が終わるまで、共有物分割の裁判が進行するのを止めてもらうことになります。(*1)

(*1) なんだ結局、原則どおりか、ということになりますが、そもそも前記の平成25年の最高裁の判決も、とりあえず、制度として利用できるところを利用して解決を図ろう、という発想だと思います。そのため、遺産分割にまで入り込むのは止めて、それは遺産共有者間で処理してください、としています。この判決の分割方法は、最初は一般共有だったのが、共有者の1人が亡くなり遺産共有になったような場合の処理には適している場合が多いと思います。

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この記事は2023年10月に作成しました。

内藤寿彦法律事務所 弁護士 内藤寿彦(東京弁護士会所属)
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