【目次】
1.ただで住んでいる者を多数決で追い出せるか
2.家賃の支払いを請求できるか
3.家賃を払うことになっていたのに払わない場合
4.遺産分割はどうなる?

※以前、記事を書いた後で、2021年に共有関係の管理について法律が改正され、それが2023年4月1日から施行されました。これは共有関係がいつから始まったのかに関係なく適用されます。そのため、法改正の影響について記事を追加しました

1.ただで住んでいる者を多数決で追い出せるか

 親が亡くなり、3人の兄弟A、B、Cが相続人になりました。このうち、Aは相続開始前は親と同居していました。同居していたのは親が土地建物を所有していた家(自宅)です。そして、Aは相続開始後も、その家に住んでいます。

 Aはその家の土地建物を相続したいと主張し、B、Cは他の財産が少ないので、家を売却してその代金を均等に分けることを主張しました。
 そんなことで遺産分割協議がまとまらず、どんどん時間が経ちました。

 そして、B、Cは思います。相続財産は3人の共有なのに、Aは1人で、しかも、ただで家に住んでいる。これはおかしい・・・・・と。

 亡くなった親が遺言を遺していなければ、A、B、Cはそれぞれ1/3の相続分を持っています。家は3人の共有の状態になります。持分は1/3ずつです。つまり、B、Cの2人合わせると2/3の持分を持っていることになります。多数決をやれば過半数です。

 しかし、B、Cにとって残念な話ですが、持分の過半数があってもAを家から立ち退かせることはできません(最高裁昭和41年5月19日判決)。理由は、Aも持分権を持っていて、持分に応じて家を利用する権利があるからです。
 この理屈は、遺産分割前の場合だけでなく、共有の場合に全て当てはまります。(*1)

(*1) この点については2021年に法改正があり、2023年4月1日から施行されました(いつ共有が成立したかに関係なく、改正法が適用されます)。そして、上記の最高裁の判例を変更して、共有者の過半数で共有物の利用者の変更ができることになりました(特別な影響がある場合には現実に使用している者の同意が必要です)。しかし、相続の場合には、次の2でお話するように、遺産分割が成立するまで、親と同居していたAを借主とする使用貸借が他の相続人B、Cとの間に成立した推定されるため、BとCの過半数の合意があっても、Aを退去させることはできません。

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2.家賃の請求ができるか

 共有持分のある共有者でも、共有物(この場合は自宅)を独占して利用して、他の共有者が利用することを妨げることはできません。妨げた場合はその賠償として家賃相当のお金を支払う義務があります。
 Aは1/3の持分しかないので、本来は、BとCに、家賃の1/3ずつ(合わせて2/3)のお金を払わなければなりません。

 しかし、これには例外があります。予め、家賃は払わなくてもいい、という取り決めがある場合などは、AはB、Cに家賃相当のお金を払う必要がなくなります。

 相続の場合ですが、 裁判例によると、親と同居していたAは、親との生前の合意で、親が亡くなった後、他の相続人を貸主として、ただで家に住む契約(使用貸借契約)をしたと推認されます。この使用貸借契約は、遺産分割協議が成立するまで続くとされています(最高裁平成 8年12月17日判決)。使用貸借はただで物件を利用させる契約ですから、当然、家賃の請求はできません。
 従って、B、CはAに対して家賃の請求もできません。(*1)

(*1)この場合、親が亡くなる前にAが建物に住んでいたことが、特別受益になるのではないか、という質問もよく受けますが、原則として特別受益は認められません。逆に、Aが親と同居して面倒を見ていた場合、寄与分が認められないか、という質問も受けますが、これも認められません。

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3.家賃を払うことになっていた場合

 ただし、これは、あくまでもAが親からただで住むことを許されていた場合です。
 例えば、親が自宅の他にも土地建物を持っていて、そのうちの1つをAに家賃を払わせて貸していた場合は話が違います。
 親が亡くなると、A、B、Cの3人でこの建物を相続したことになりますから、Aはそれまでに払っていた家賃の1/3は自分がその建物の共有者になるため払う必要がなくなりますが、2/3は、BとCにそれぞれ半分ずつ(要するに1/3ずつ)払う必要があります。

 しかし、AがB、Cに家賃を支払わず、この賃料が何か月分にもなった場合、B、Cの2人が合意すれば、賃貸借契約の解除ができます。この場合には、2021年の改正法が2023年4月1日から施行されて、改正法が適用されます。そのため、BとCは、Aに対して、建物から出て行くように請求できます(改正法の施行前は、賃貸借契約を解除しても、Aも共有者の1人だからという理由で退去を求めることはできませんでした)。

 なお、家賃については、相続開始前に発生した家賃も、相続開始後に発生した家賃も、BとCは1/3ずつ、直接、Aに請求できます。しかし、全員が合意すれば、遺産分割調停の中で対応することもできます。

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4.遺産分割はどうなる? 

 ところで、このような場合、最終的に遺産分割はどうなるのでしょうか。
 親が自宅の他にも土地建物を所有していた場合は、複数の相続財産があるケースですから、それぞれの財産を3人で分けることが可能かも知れません。
 自宅の土地建物以外ほとんど財産がない、という場合は、通常は、Aが自宅の土地建物の2/3相当の代償金をB、Cに支払って、自宅を自分のものします(代償分割です)。Aにお金がなければ、土地建物を売却して代金を分け合うしかありません。
 面倒なので3名の共有にするという選択も理屈の上ではできますが、問題の先送りにしかならないことが多いと言われています。

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弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13白井ビル4階  電話 03-3459-6391