【債務と相続の放棄】

 亡くなった人の借金も相続の対象になります。資産(プラスの財産)よりも借金の方が多い場合は相続すると不利益になるので、相続の放棄をします。しかし、資産の方が多い場合には、放棄はしませんが、相続人が複数の場合、誰がいくら払うのか、という問題が起きます。ただし、この点は法律で決まっています。

【目次】
.法定相続分で債務を相続
2.分割協議や遺言で変更しても債権者しだい
3.遺産がなければ相続放棄
4.3か月後に請求が来たら
5.限定承認

 

 

1.法定相続分で債務を相続

 亡くなられた方の債務も相続の対象になります。
 債務と言っても色々な債務がありますが、典型的な例として借金などの金銭支払い債務について、お話をします。

 このような債務は、遺言がなければ、共同相続人の間で法定相続分で自動的に分割されて相続したことになります。
 例えば、債務額が900万円で、相続人が3人の子だけだった場合(この3人をA、B、Cとします)、法定相続分はそれぞれ1/3ですから、A、B、Cは、1人あたり300万円ずつ(900万円を3で割った金額)債務を負担することになります。連帯保証とは違いますから、例えば、A、B、Cの中に支払い能力のない者がいたとしても、他の者がその肩代わりをする必要はありません。

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2.分割協議や遺言で変更しても債権者しだい

 遺言や遺産分割協議で、共同相続人の中で負担する債務額を変更することができます。前の例で言うと、A、B、C3人の子が共同相続人の場合に、借金900万円をAだけが全額負担する(支払う)とすることは可能です(分割協議の場合は、共同相続人全員の同意が必要です。Aに財産をやる代わりに借金を引き受けさせるとするのが一般的だと思います)。

 ただし、遺言や遺産分割でこのように決めても、債権者は無視できます。債権者は、本来の法定相続分のとおり、BやCにそれぞれ300万円ずつ請求することができます。また、遺言や遺産分割協議の取り決めのとおりにAにだけ900万円を請求することもできます。どちらを選ぶのかは債権者しだいです。

 では、遺言や遺産分割は意味がないのかと言うとそうではありません。Aが900万円全部を支払うことになっていたのに、BやCが債権者から300万円を支払わされた場合には、BやCは、Aに対して、自分が債権者に支払った300万円を請求することができます。

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3.遺産がなければ相続放棄

・3か月以内に相続放棄

 債務があってもそれを上回る遺産があれば、問題ありませんが、それがなければ借金だけ背負わされることになります(自分がもともと持っていた財産で借金を返すことになります)。
 それを避けたいと思えば、相続を知った時から3か月以内に家庭裁判所に相続放棄の届出(申述といいます)をしなければなりません。
 相続放棄をすると、最初から相続人でなかったことになります。遺産の相続ができなくなりますが、債務の相続もしません。

他の相続人や親戚が債務を負う場合があります

 相続放棄をすると、他の相続人や親戚に迷惑がかかる場合があります。

 例えば、相続債務が900万円の場合、A、B、C3名のうち、Cが相続の放棄をすると、Cは相続人ではなかったことになります。その結果、相続人はA、Bの2人だけだったことになり、それぞれ450万円ずつの債務を負担することになります。Cが放棄したため、A、Bの負担額が増えたことになります。
 また、A、B、Cの3人が全員相続の放棄をすると、亡くなった方の兄弟姉妹(Aらにとってはおじさん、おばさん)が相続人になります(亡くなった方の親がいれば親が相続人になります)。
 遺産がほとんどなくて、債務だけ負担するような場合には、相続放棄をするのが一般ですが、おじさん、おばさんに迷惑がかからないように全員で放棄をする必要があります(*1)。自分たちは相続放棄をするので、おじさんたちも相続放棄をした方がいい、くらいは伝えておくべきです。

 なお、相続の放棄をしても、相続人の子(亡くなられた方の孫)が代わりに相続人になることはありません。前の例で言うと、A、B、Cが相続放棄をする場合に、その子(亡くなった方の孫)まで相続放棄をさせる必要はありません。

 

(*1)子どもたちとおじさん、おばさんが同時に放棄の申述をすることはできません。子の放棄の申述が認められた後でないと、おじさん、おばさんは放棄の申述ができません。ただし、おじさん、おばさんの放棄の期間は、子の放棄が認められた後の3か月間になります。

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4.3か月後に請求が来たら

 わざわざ3か月が過ぎてから、相続人に請求をする債権者がいたりします。

 同居していた人が亡くなった場合なら、借金があるかどうかある程度分かりますが、何年も前から音信不通だったおじさんが亡くなり、相続人になるような場合もあります(おじさんに子がいなくて、お父さんがすでに亡くなっていた場合です)。このような場合、相続人になったという意識も薄く、財産や借金に興味もありません。

 ところが、おじさんが亡くなって3か月が過ぎてから、債権者から請求が来て、初めて亡くなったおじさんに借金があったことが分かります。

 この場合どうなるかということですが、例外的に3か月が過ぎても相続放棄が認められる場合もありますが、例外的な場合です。借金があることは知らなかったけれど、少しは財産があると知っていたような場合には、例外が認められません(あまりにも財産の価値が少ない場合などは例外が認められる場合があります)。
 どちらにしてもすぐに弁護士に相談するべきです。

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5.限定承認

 相続放棄のできる3か月の期間は、家庭裁判所に延長してもらうことができます(ただし、3か月の期間内に延長してもらわなければなりません)。
 しかし、期間を延長してもらっても、調べようがない場合があります。
 遺産がなければ念のため相続放棄をしてもいいのですが、遺産がある場合はそうは行きません。あるのかないのか分からない借金のために遺産が受け取れなくなるのは悔しいです。
 限定承認というのは、借金の清算をしてプラスがあれば遺産を相続し、プラスがなければそれで終わり(自分の財産から借金の返済をする必要がない)という制度です。

 なかなかいい制度のようですが、相続人全員でする必要があります(1人でも反対するとできません)。その上、手続が面倒です。そして、何よりも問題なのが税金です。遺産に不動産などがある場合、限定承認をすると、その時、全ての不動産を時価で売却したことになって税金(譲渡所得税)がかかります。

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