【目次】
1.不動産の評価
(1) なぜ、評価でもめるのか
(2) 不動産の評価額とは
2.自分の経営する会社に土地やお金を貸している場合の評価額
3.関連記事(借地権の評価額)
1.不動産の評価
・なぜ、評価でもめるのか
遺産分割などでは、不動産の評価額でもめることがよくあります。
例えば、相続人が亡くなった人の子・AとBの2人で、相続財産が土地建物(亡くなった人とAが同居していた自宅)と預貯金額・5000万円だった場合を考えます。そして、Aが自宅の土地建物をほしい、と言っている場合を前提にお話します( 預貯金を遺産分割の対象にするためには全員の合意が必要でしたが、平成28年12月19日の最高裁の決定で合意がなくても遺産分割の対象になりました)。
土地建物(不動産)の評価額が例えば5000万円で、この評価額にBも異存がない場合には、Aが土地建物を相続し、Bが預貯金を相続するということで話がまとまります。
不動産の評価額が7000万円だった場合には、相続財産の総額が1億2000万円になるので、AからBに1000万円払わないと、話がまとまりません(この場合、Aが相続財産の不動産を相続した上で、自分のお金の中から1000万円をBに支払うことになります)。
逆に、不動産の評価額が3000万円だった場合、相続財産の総額は8000万円になりますから、Aは不動産の他、預貯金5000万円の中から1000万円を相続し、Bは残りの4000万円を相続することのなります。
このようにお話すると、それほど難しい話ではないように聞こえるかも知れません。ただし、これはあくまでも、不動産の評価額が決まっていることを前提とした話です。
現実には、不動産の評価額というのは、はっきりしません。
そして、評価額がどうなるかによって、AがBにお金を払う場合もあれば、逆にBがAにお金を払う場合もあるというように、逆の結果がでることになります。
・不動産の評価額とは
遺産分割の財産の評価額というのは、そのものの本当の価値ということになります。不動産だったら、売れる値段(実勢価格)ということになりますが、売ってみなければ分からないのでは、決まりません。家庭裁判所が選んだ不動産鑑定士が鑑定で決める場合もありますが、費用もかかるし、結果がどうでるのか分かりません。なんのかんの言って、当事者間で、遺産をどう分けるかが問題なのですから、当事者全員が同意した評価額にすることが多いのです。
とは言え、何も基準がないと何も決められません。不動産業者の査定価格で決める場合もありますが、同じ物件でも、業者によって違う価格の査定が出てきます。複数の業者に査定してもらって、その平均というのもよくやることです(なんで平均でいいのか理由はありません。同意ができればそれでいいのです)。それ以外の方法としては、固定資産評価額や相続税路線価、または、それらを公示価格に修正したものを使いことが多いです。
不動産のうち、土地の価格は、固定資産税の基準となる「固定資産評価額」、相続税の基準となる「路線価」、国が正常価格ということで公示する「公示価格」、そして、実際に取引される「実勢価格」の4種類の価格があります。
公示価格というのは、国が正常な価格として公表する価格です。固定資産評価額は、公示価格の7割を目処に計算することになっています。また、相続税路線価は、公示価格の8割を目処に計算することになっています。ところが、公示価格は、正常な価格とはされていますが、実際に取引される金額と同じとは限りません。土地の値段が上昇している時には、公示価格よりも実際に取引される価格の方が高くなります。逆に土地の値段が下がっている時には、実際に取引される価格が公示価格よりも下がり、路線価と同じくらいになったり、路線価の方が高いということもありました。
このように4種類の価格がありますが、実勢価格は実際に売るか、鑑定しなければ分かりませんし、公示価格は特定の地点の評価額ですから、分割対象の土地の公示価格は分かりません。そこで、分かりやすい固定資産評価額や路線価の評価を使って、これを評価額にすることがよくあります。ただし、建物の場合は、鑑定をやらない限り、固定資産評価額を使うことになります。
とは言え、評価額の問題は、遺産分割の結果、自分が取れる財産の価値の問題と一体の話です。土地について言えば、固定資産評価額は公示価格の7割、相続税路線価は公示価格の8割を目処にして決められているので、土地建物を取りたいAとしては安い方の固定資産評価額がいいと言います。これに対しBは相続税路線価や、不動産会社が査定した取引価格の評価書などを提出してこれらが正しいと主張します。お互いにその方が有利だからです。ただし、それでは話がまとまりません。(*1)
どうしても二人が譲らなければ遺産分割はできません。東京家庭裁判所の調停では、評価の合意ができなければ、鑑定するしかありません(*2)。この場合、裁判所が選んだ不動産鑑定士が鑑定をします。ただし、鑑定料は当事者の負担です(法定相続分の割合でそれぞれ負担します)。しかも、それなりに高額です。また、鑑定の結果、どちらに転ぶのか分かりません。(*3) そこで、費用とリスクを避けて、最終的なお互いの取り分を念頭に置いて不動産の評価額について合意するのが妥当な場合もあります。
(*1) 概ね、公示価格と実勢価格は同じだとされています(実際は違うようですが)。そして、固定資産評価額や相続税路線価から、公表されている地点以外の物件の公示価格を算定する方法があります。固定資産評価額は、公示価格をもとに算定した評価額の0.7、路線価は公示価格をもとに算定した評価額の0.8とされています。このため、固定資産評価額を0.7で割った金額、相続税路線価で算定した金額を0.8で割った金額(0.8で割った金額というのは、1.25をかけた金額と同じです)が、公示価格になります(正確には「なる建前です」と言った方が正しいのですが)。
(*2)遺留分減殺請求などの地方裁判所の相続事件では、裁判所が判断します。裁判所が選んだ鑑定人の評価と違う判断を裁判所がすることもあります。これに対して、東京家庭裁判所での遺産分割は、建前はともかく、裁判所が選んだ鑑定人が出した評価を裁判所が変更することはないし、当事者も文句を言わないことを前提に行われています。
(*3) 居宅と収益物件が1つになったビルの事案ですが、複数の不動産業者の査定があり、知り合いの不動産鑑定士にも鑑定の予想額を聞いた上で、裁判所が選任した鑑定士の評価を予想していましたが、予想外に有利な鑑定が出たことがあります。建前上はどの鑑定士が鑑定しても同じ結論がでるはずですが、必ずしもそうではないように思います。
2.自分の経営する会社に土地やお金を貸している場合の評価額
個人企業に近い場合ですが、自分の土地を会社の施設(建物など)のために貸している場合があります。通常、普通よりも低い地代しか取りません。
また、自分の会社にお金を貸す場合、自分のお金と会社のお金をそれほど厳密に区別しないため、会社の資金繰りが苦しいときに個人のお金を回すという程度の考えで貸すのが通常です。利息を取ることは考えませんし、利益がでたら返してもらえばいいというつもりで貸しています。そのため、会社の経営状況によっては回収できないままになっていることがあります。
さて、そんな会社経営者のご主人が亡くなりました。生前、奥さんに会社の経営権を移していたので(奥さんが株式を買い取っていました)、会社の株式の相続は問題になりませんでした。ご主人は遺言書を作っていました。自分が亡くなった後は奥さんに会社の経営を続けてほしかったので、会社に貸している土地と会社に対する債権、そして、自宅の土地建物を奥さんに相続させることにしました。
また、相続人は、奥さん、ご主人と奥さんとの間の子どもの他、ご主人が再婚だったため、前の奥さんとの間の子どもがいました。ご主人は、他にも不動産を持っていて、子どもたちにそれぞれ土地をただで貸していて、子どもたちはそれぞれ家を建てて済んでいました。このため、それぞれの子どもたちにその土地を相続させることにしました。
そして、ご主人が亡くなりました。その後、先妻の子が奥さんに対して、遺留分減殺の裁判を起こしました。
奥さんが相続した財産全体の金額が大きかったからですが、その中でも金額が大きかったのは、会社に貸しているお金(貸付金)と会社に貸している土地の底地です。
会社への貸付金は、会社が債務超過で返してもらえないという状態でない限りは、額面どおりで評価されます。ところが会社は債務超過ではありません。それでも、返してしまったら会社の資金繰りができなくなったり、会社資産を処分しなければならなくなって会社の運営ができなくなります。だから返してもらえません。奥さんにとっては価値がないのと同じです。それでも、額面評価です。
また、普通の借地権が付いている底地の場合なら、更地価格から借地権割合で計算した借地権価格を引いたものが底地の評価額になります。借地権割合が7割なら3割が底地の価格です。ところが、自分の経営する会社に貸している場合は、賃料(地代)が安くても、底地価格が、更地価格の7割、8割に評価されます(借地権価格ではなく、底地価格が7割、8割に評価されます)。会社との関係から、いつでも返してもらえるから、というのが理由ですが、なんか納得できません。このような場合、税務署に「会社はいつでも土地を返します」という一筆を入れているのが普通です(「土地の無償返還の届出」といいます)。税務署はこれを根拠に底地を高く評価するのですが、遺産分割や遺留分減殺でも、同じように評価されるというのが裁判所の考えです。
さて、遺留分減殺請求の裁判ですが、不動産の評価方法について、固定資産評価額を使うか、路線価の評価額を使うかでもめることがありますが、この件でも問題になりました。
とは言え、当事者双方ともに不動産鑑定は論外でした。なんと言っても、相続財産全体でかなりの不動産があるため、鑑定料がいくらかかるのか分からないからです(問題になっているのは、会社に貸してある敷地だけですが、遺留分の計算をするためには、その他の土地も全部評価する必要あります)。目の玉が飛び出るくらいの金額が予想され、そんなに払うくらいなら、その分をお互いで分けた方がいいということで意見が一致しました。
結果的には、双方が不動産の評価額を合意して、それなりのお金を払って解決しました。
ただし、会社に対する貸金を額面額で計算することや、会社が借地権を持っている底地の評価額が一般の底地よりも高く計算することは前提でした。互いに妥協して解決することを優先させたので結果については文句はありません。
しかし、貸金や底地の評価については、何か釈然としませんがこれが税務署や裁判所の考え方です。遺言書を作る時に、一応頭に入れておいた方がいいと思います。
3.関連記事(借地権の評価額)
借地権や底地権の評価については、「借地の相続」の中の「借地権や底地権の評価額」をご覧ください。
弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13白井ビル4階 電話 03-3459-6391