【遺言書と遺留分】

 遺言書は、これから遺言を書こうとする人と、その人が亡くなり遺言を見つけた人たちの両方にとって問題になります。遺言書は、書いた人が亡くなってから効力が発生しますが、その時に遺言書の内容に問題があっても、書いた本人に真意を聞いたり、訂正してもらうこはできません。遺言を書いた人にとっても、自分の最後の意思が実現されないのは困ります。ここでは、基礎知識として、主には、遺言を書こうとする人のために、遺言とそれに関係する遺留分の基礎的なお話をします。

【目次】
遺言書が必要な場合とは
自筆遺言と公正証書遺言
遺言の変更・取消
自筆遺言の検認手続
遺留分
兄弟姉妹には遺留分はありません

 

●遺言書が必要な場合とは

●この場合には必要です

 遺言書を書かなければいけないと思って悩んでいる方もいます。まず、遺言を書く必要があるのか考えてみましょう。

 遺言を書く必要があるのは、
①相続人以外の人に財産を譲る場合や、
②複数の相続人の1人に特定の財産を譲ったり、法定相続分とは違う割合で相続させたい場合
などです(*1)。

(*1) 誰が相続人なのかは、「相続人の範囲と法定相続分」をご覧ください。ページが飛ぶのでここに戻るときは「前のページに戻る」の操作をしてください。

相続人以外の人に財産を譲りたい場合というのは

①相続人がいるけれども相続人でない人に遺産を譲る場合(妻子がいるけど、世話になった自分の弟に遺産を譲る場合、兄弟姉妹がいるけれども、内縁の妻に遺産を譲る場合など)、
②相続人がいないので相続人でない人に遺産を譲る場合(内縁の妻に遺産を譲る場合(*2)や従兄弟に遺産を譲る場合、第三者に遺産を譲る場合)
があります。

 

(*2)相続人がいる場合には遺言を書かないと、内縁の妻は遺産の相続ができません。しかし、誰も相続人がいない場合には、内縁の妻は、特別縁故者として相続財産が分与される場合があります(「●内縁の夫が亡くなりました。彼には子も配偶者も親も兄弟姉妹もいない。財産はどうなるのでしょうか」 をご覧ください)。それでも確実に遺産を譲るためには遺言書を書くべきです。従兄弟(いとこ)も相続人ではないので、遺言書がないと遺産を受け取ることができません。しかも、従兄弟の場合には特別縁故者と認められるのは難しいです(「従兄弟は相続人になれないの」をご覧ください)。従姉妹に遺産を譲りたい場合には遺言書を書くべきです。

●特定の相続人に財産を譲りたい場合や、法定相続分と違った割合で財産を相続させたい場合というのは

 典型的な例は、複数の子がいる場合に、それぞれの子に譲りたい財産を書く場合です。その他、兄弟姉妹しか相続人がいない場合に、特に親しくしていた人に財産を相続させたい場合です(仲の悪かった人には相続させたくない場合もあります)。
 忘れがちなのが、子がいない夫婦の場合です。配偶者の他に親や兄弟姉妹(親がいない場合です)にも相続分があります。配偶者だけに財産を譲りたい場合には、遺言を書く必要があります(親には遺留分がありますが、兄弟姉妹には遺留分がありません)。

●法定相続分に従う必要はありません

 相続人には相続分がありますが、相続分というのはあくまでも、遺産全体に対する割合です。遺言書がない場合は、複数の財産のうち、どの財産をだれが相続するのかは、全員で協議して決めなければなりません(これが遺産分割協議です)。
 亡くなった後で、面倒なことをさせるのは嫌だと思えば、遺言書で、この財産は誰それに相続させる、この財産は誰それに相続させるというように、指定することができます。

  なお、遺言で、特定の遺産を特定の相続人に譲る場合、法定相続分に従う必要はありません。法定相続分とは違う割合で、特定の財産を特定の相続人に相続させることもできます(特定の財産ではなく、相続する割合を遺言書で指定することも可能です)。(*3)

 他の相続人に 遺留分がある場合(兄弟姉妹には遺留分はありません)には、遺留分侵害の問題が起きる可能性がありますが、遺留分を侵害しても遺言としては有効なので、遺言をした人が亡くなると遺産の所有権は遺言で指定された人に移転します。また、遺留分を侵害する遺言をしても、侵害された相続人が必ず権利を行使するとは限りません(権利を行使するかどうかはその人次第です)。

 

(*3) 特別受益の問題が起きますが、遺言に書いてない遺産がある場合には、その中で調整されます。調整しきれない場合でも調整できる範囲までしか調整されません(調整されるのが嫌なら、「持戻を免除する」と書いておくか、「その余の財産は○○に相続させる」と書いて、遺言に書いてない財産がないようにするべきです)。遺言に書いてない財産がない場合には、遺言のとおりに実行されます。ただし、遺留分侵害があった場合は別です。つまり、遺留分侵害がない限り、法定相続分に従わなくても、ほとんど影響ない、ということになります。

●特定の遺産を相続させる場合とその後の手続

 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」と遺言書に書いてある場合には、相続の発生(遺言を書いた人が亡くなる)と同時に何の手続もすることなく、その遺産は遺言書で指定された相続人の所有物になります。登記名義を変える場合も遺言書だけで手続が可能です。遺言執行者や他の相続人の協力は必要ありません(これに対し、相続人以外の人に特定の遺言を譲る場合には、遺言書だけでは登記の名義の変更ができません)。

 

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自筆遺言と公正証書遺言

 遺言は、大まかに言えば、遺言をする人が手書きで書いた自筆遺言(自筆証書遺言ともいいます)と、公証人が遺言する人から聞き取って、公正証書を作る公正証書遺言(遺言公正証書ともいいます)があります。

● 自筆遺言は原則全て自分で書く

 自筆遺言は、本文(文章)、日付け、署名の全てを本人が書く必要があり(本文をワープロで打って署名しただけでは無効です)、判子を押す必要があります(*1)
 ただし、平成31年1月13日から、遺言書に添付する財産目録(本文に「目録記載の財産をだれそれに相続させる」と書いて、この本文に財産目録をくっつける場合です)はワープロ打ちでかまわないことになりました(ワープロ打ち以外の方法、例えば、代書や他の書面のコピーでもかまいません)。この場合、目録のページごと(1枚の紙の裏表に記載がある場合にはその両方)に署名(自署)して判子を押す必要があります。
 しかし、本文、目録ともに2枚以上になっても割印(契印)はいりません。封筒に入れて封をしておかなければならない、ということもありません。

 

(*1) 自筆遺言に必要な判子は、実印(印鑑登録されている印鑑)の必要はありません。印鑑登録されいない判子、三文判でもかまいません。指印(拇印など)でもかまいせん(指印でも有効なことは最高裁元年 2月16日)。自分の名前と違う判子でもかまいせん。
 ただし、あくまでも、遺言者本人が遺言を書いた証しとして押したことが必要です。亡くなった後で、遺言が偽造されたものかどうか争われた場合、実印や、本人が普段から使用している印鑑でないと、本人が押したことを証明するのが難しくなります。その結果、遺言を書いたのが本人かどうかも問題になります。指印の場合も、指紋が見えるように押してあっても、亡くなった後では、本人の指紋かどうかが分かりません。

● 訂正の方法も決まっています

 一旦書いたものを訂正する場合には、訂正したことを書いた上で署名押印して、変更した部分に判子を押す必要があります。訂正の方法が間違っていると、訂正しなかったことになります。ただし、誤字の訂正などは、訂正方法を間違えて、訂正しなかったことになっても、誤字だと分かれば問題になりません。訂正方法を間違えて、遺言全体が無効になる場合などについては、「遺言コラム」「遺言の訂正」をご覧ください。

● 念のために書いておくことも

 これだけでも面倒ですが、一番面倒なのは亡くなった後で、家庭裁判所の検認という手続が必要になることです(検認の手続は「自筆遺言の検認手続」を見てください)ただし、公証人が明日、公正証書遺言を作るために自宅に来ることになっていたのに、亡くなってしまったという実例もありますから、公正証書遺言を作る予定でも、念のために自筆遺言を作っておくことも考えた方がいいです。

● 公正証書遺言

 公正証書遺言は、通常、事前に本人や本人の代理の人(弁護士や遺産を沢山もらえることになっている人)が公証役場で公証人に遺言の内容を説明します。公証人は、それに基づいて原稿を作り、本人(遺言をする人)と証人2名の前で、改めて本人から遺言の内容を聞き取り、公正証書遺言を作成します(*2) 。証人は、未成年や相続人になることが予想される人はなれません。心当たりがなければ、若干の費用は必要ですが、公証人が紹介してくれます

 公正証書遺言は、公証人が作成するので、偽造かどうかとか、意味が不明という問題は起こりません。検認手続も不要です。ただし、遺言した人が亡くなると、公証役場から通知が来て遺言の内容を相続人に教えてくれる、という制度はありません。公正証書遺言の原本は公証役場に保管されていますが、公正証書遺言を作成した時に交付される「正本」(お墨付きの写し)で、全ての手続を行うことができます。「正本」を紛失したとか、遺言した時の精神状態を知りたいので、「原本」の筆跡を確認したい(遺言者は公正証書遺言に署名しますが、正本には署名の写しは載りません)、という場合以外は、公証役場と関係なく手続を進めることになります。

 

(*2) 公証役場以外の場所に公証人が出向いて遺言遺言公正証書が作られる場合もあります。遺言をしようとする人が入院中の場合、公証人は病院に来てくれて、そこで公正証書遺言の作成が行われます。死が目前に迫っていて、死ぬ前に遺言を遺したいという人のために公正証書遺言を作成するというケースは、公証人にとってそれほど珍しくないようです。入院中でなくても、体調が悪くて公証役場に行けないので、自宅に来てもらって公正証書遺言を作成するということも行われています。

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遺言の変更・取消

 遺言は何度でも書き換えることができます。そして、最後に作られた遺言が、最終的に有効な遺言になります。
 亡くなる直前に遺言を作成する人もいますが、まだ、元気なうちに遺言を作成した場合には、気が変わったり、財産をあげようとした人との関係が悪くなったり、財産の構成が変わったり(不動産を売却したり、預金の内容が変わったり)、その他、色々な事情から遺言を変更したくなることがあります。遺言は遺言を書いた人の財産の処分ですから、理由がどうあれ、遺言の変更ができます。

● 遺言による変更・取消

 遺言の変更は、新しい遺言を作成するのが、原則です。公正証書遺言を作った後でも、自筆遺言で変更することができます。
 遺言で変更する場合、「前の遺言を取り消す」と書いてあった方が、亡くなった後で問題は少なくなります
 しかし、前の遺言と矛盾する内容が書いてある新しい遺言があれば(例えば、前の遺言である不動産を長男に相続させる、と書いてあったのに、新しい遺言では同じ不動産を二男に相続させると書いてある場合)、新しい遺言で前の遺言を取り消したことが分かります。

● 生前処分による遺言の撤回

 遺言によらなくても、遺言を取り消したことが分かる場合もあります。例えば、遺言で、ある不動産を長男に相続させると書いたのに、後で、遺言をした人が、第三者に売った場合です。遺言は、その人が亡くなるまでは効力がないので、長男は文句を言えません。遺言をした本人が、その不動産を売ったのですから、長男に相続させるという遺言は、取り消したことになります(生前処分による遺言の撤回と言います)。
 しかし、不動産を売ったお金が、亡くなるまで残っていた場合(預金として遺した場合など)や、そのお金で別の不動産を買った場合にどうなるのか、前の遺言書の解釈を巡って問題になる場合があります(当然に長男のものになるわけではありません)。
 前に書いた遺言と矛盾することをした場合には、その後の財産の状況に合わせて遺言を書き直した方が、遺された人のためになります。

● 遺言の破棄

 遺言の変更は、遺言以外の文書ですることはできません。ただし、遺言を取り消す場合(遺言をなかったことにする場合)には、自筆遺言なら、遺言そのものを廃棄してしまえば足ります。公正証書遺言の場合には、原本が公証役場にあるので、公証役場から受け取った「正本」(一種の写しです)を廃棄しても、遺言を取り消したことになりません。ただし、公正証書遺言でも、後で書いた自筆遺言で変更、取消ができます。

● 変更するなら新しく全部書く

 相続が発生した場合(遺言した人が亡くなった場合)には、もうその人から真意を聞くことができません。一旦書いた遺言を変更したり、取り消す場合には、1から新しく遺言を作った方が問題がありません。その点さえ気をつければ、自分の財産の処分なのですから、気が変われば何度でも遺言を書き直せばいいのです(遺言の取消が問題になる場合については、「遺言コラム」「遺言書が何通もある」をご覧ください)。

 

 

自筆遺言の検認手続

 遺言した人が亡くなった後、自筆遺言を見つけたら、家庭裁判所の検認の手続が必要です。遺言者(亡くなられた方)が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本(亡くなった時の年齢にもよりますが、数通になるのが通常です)などを添えて、家庭裁判所に検認の申立をしなければなりません。
 期日が指定されると、法定相続人全員に通知されます。出席するかどうかは自由ですが、申立人は出席しなければなりません。
 手続は、裁判官が封筒にはさみを入れて、開封するところから始まります。中から遺言書を取りだして、確認をします。中に遺言書があることの確認です(封筒に入れることは遺言の要件ではありません。封筒に入っていない場合は開封の手続はしません)。

  そして、出席している相続人に対して、遺言書の署名や判子の確認を求めます。
「本人のものに間違いありません」「分かりません」「本人のものではありません」など、色々な答えがありますが、それらの答えを裁判所書記官は調書(検認調書といいます)に記載します。
  これで手続は終了です。検認手続の中で裁判所が遺言の有効・無効の判断をしてくれるわけではありません(必要があれば、別に裁判を起こして決着をつけることになります)。この後、裁判所は遺言書の原本に「検認済み証明書」という1枚の書面を付けて申立人に返してくれます(証明書を付けてもらうためには申請が必要ですが、申立の時に同時にします)。

 この手続をしないと、遺言書に基づいて、不動産の登記をしたり、預金を払い戻すことができません。逆に言うと、自筆の遺言書と家庭裁判所の「検認済み証明書」があれば、不動産の登記や預金の払い戻しができます(特殊な問題があって、できない場合もあります。それについては「遺言コラム」の「原則として登記できます」と「遺言書があるのに裁判をしなければならない」をご覧ください)。また、遺言書を見つけたのに検認の申立をしないで隠してしまうと、相続の権利がなくなる場合もあります。

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遺留分

 遺言書で何でも自由に処分できるかと言えば、そうでないのが遺留分の制度です。妻と子は、法定相続分の1/2の遺留分があります。例えば、妻の場合は、遺産全体の1/4の権利があり(法定相続分1/2×遺留分割合1/2)、これが遺言で侵害された場合、侵害された分を取り戻す権利があります。
 遺留分は、行使するかしないかは本人の自由です。逆に言えば、行使しなければ権利は実現されません。相続分と違って、当然に相続財産の中に、遺留分相当の権利がある、ということではありません。

 例えば、Aが、「妻や子以外の第三者に財産の全部を譲る」という遺言を書いて亡くなった場合、妻と子は、第三者に対して、侵害された遺留分を戻すよう請求できます(遺留分減殺請求といいます)。この権利を行使すると、第三者が譲り受けた財産は、侵害された遺留分の割合に応じて、妻や子のものになります(第三者と妻・子との共有状態になります)。共有のままでは何かと面倒ですが、その後で共有物の分割の手続などをすることになります。

 遺留分の行使ができるのは、遺留分を侵害する遺言(例えば、第三者に全部譲るという内容の遺言)を知った時から1年です。この1年以内に、遺留分の権利を行使するという内容の通知を、相手方に送らなければなりません。通知を送れば、裁判(遺留分減殺請求をしたことを前提とする調停や共有物の分割の裁判など)を起こすのは1年を経過した後でもかまいません。

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兄弟姉妹には遺留分はありません

 親が相続人になる場合、親にも遺留分があります。
 しかし、兄弟姉妹には、遺留分はありません(遺留分のことを知っていても、この点は誤解している人がいるので注意しましょう)。
 例えば、亡くなった人の兄妹が相続人になる場合、親しくしていた妹には財産を相続させたいけれども、仲の悪かった兄には財産を相続させたくない、という場合には、「妹に全財産を相続させる」という内容の遺言書を作ればいいのです。相続が発生した場合でも、兄は妹に対して遺留分の主張はできません。

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