自筆遺言が形式的な違反で無効になるとき

 自筆遺言は、遺言者(遺言をする人)が、遺言の本文、日付け、名前を自分で書かなければなりません(平成31年1月から遺言書に目録を付けることができるようにはなりましたが、その他は自筆でなければなりません)。そして、判子を押す必要があります。ここでは、自筆遺言が形式的な違反で無効とされた裁判例などを紹介します。なお、無効と言っても、遺言全体が無効になる場合と、遺言全体は無効にならないけれども、一部が無効になる場合があります。一部無効と言っても、ほとんど実害がない場合から、遺言の重要部分が無効になる場合があります。

※ 自筆遺言の様式の基本的なことは、「基礎知識」の「自筆遺言と公正証書遺言」をご覧ください。

【目次】
 1.日付け
  (1) 日付けは自筆遺言の重要な要件です
  (2) 日付けは実際に遺言を書いた日でなければなりません
  (3) 間違いが分かる場合には有効です
  (4) 故意に実際と違う日を書くことはあるのか
  (5) 故意に実際の日と違う日を書いたと認めた裁判例があります
 2.訂正
  (1) 訂正の方法は厳格に決められています
  (2) 遺言全体が無効になった例もあります
  (3) 遺言書の訂正と変更
  (4) 遺言の破棄
 3.遺産を受け取る人が特定されていない

 

1.日付け

 

(1) 日付けは自筆遺言の重要な要件です

日付けは、「何年、何月、何日」か分かるように書いてなければ無効です。有名な例で、「○年○月吉日」という遺言が無効になりました(最高裁昭和54年5月31日判決)。
 ただし、遺言本文が書いてある書面に日付けの記載がなくても、遺言と一体となった封筒に日付けが書いてあったので有効としたものもあります(大阪高裁平成23年2月10日判決)。

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(2) 日付けは、実際に遺言を書いた日でなければなりません

 日付けが有効要件になっているのは、遺言者の精神状態の判定のため(遺言を書いたその日に、遺言ができる精神状態にあったかどうか確認できるようにするため)や、複数の遺言がある場合の前後関係の確認(複数の遺言の内容が矛盾する場合には後の遺言で前の遺言が取り消されたことになります)のために必要だからです。
 このため、故意に遺言作成の日とは別の日を記載した場合、その遺言書は無効になります。

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(3) 間違いが分かる場合には有効です

 ただし、人のやることですから間違いはあります。故意ではなく、間違った日を書いたことと、真実遺言書を書いた日が遺言書の記載やその他の事情から容易に分かる場合には、遺言は有効だとされました(最高裁昭和52年11月21日判決)。この判決は、「昭和48年」と書くのを間違えて「昭和28年」と書いたことが分かるという事案でした。

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(4) 故意に実際と違う日を書くことはあるのか

 故意に実際と違う日を書くことなどあるのか、と思うかも知れません。
 この遺言の日付けはおかしいなと思ったことがありました。

 亡くなった人は数年前から重度の認知症で施設に入り、その後、奥さんが亡くなり、その翌年に自分が亡くなりました。遺言書の日付けは、施設に入る前(奥さんが亡くなる前)になっていました。ところが、遺言書の内容は、遺産の全部を子どもたちに相続させるという内容で(特定の子に特に有利になっていました)、奥さんに対しては何も書いてありません(名前さえも書いてありません)。
  しかし、なぜ、奥さんには何も遺さないのでしょうか。有利な扱いを受ける子が、奥さんと同居して面倒をみているのなら理解できますが、そうではありません。しかも、奥さんが所有していた財産まで、自分のものとして遺言書に記載されていました。

 遺言の内容は、どう見ても奥さんが亡くなった後の遺言です。日付けがおかしいとしか思えません。
 相続人の1人が、遺言者に働きかけて自分に有利な遺言を書かせるということもありますから、実際には奥さんが亡くなった後(本人が施設に入った後)で書かせて、日付けを遡らせたのではないかと疑いました(つまり、認知症で施設に入る前の日付けで遺言を書かせた疑いです)。しかし、疑い以上にその証明ができるかと言うと難しいと思いました。

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(5) 故意に実際の日と違う日を書いたと認めた裁判例があります

 故意に遺言の作成日と違う日付けが書いてあったため、遺言が無効になった裁判例があります(東京高裁平成5年3月23日判決)。
 これは、遺言書に記載された遺言執行者の住所が、遺言書の日付けの2年後の住所(転居後の住所)になっていたという事案です。このため、裁判所は、遺言書の作成日は遺言書の日付けよりも2年以上後で、故意に日付けを遡らせたと認定しました。ただし、この事案の場合、なぜ、日付けを遡らせたのか、裁判所も「本件全証拠によっても、理由は明らかでない」としています。

 他にも、実際に遺言を書いた日と遺言書の日付けが違うことを理由に、遺言が無効になった裁判例があります(東京地裁平成26年11月25日判決)。この事案は、遺言をする人が病気のため、読みにくい字しか書けなかったため、別の人(この人にとって有利な遺言だったのですが)が、遺言を書く時に手を添えて、読み取れるような文字の遺言を完成させたという事情がありました。このため、偽造の疑いがあったのですが、遺言をする人が数日前に書いた、遺言の下書きがあり、その下書きの内容で遺言を書いたことが認められ、裁判所は偽造ではない、としました。ところが、遺言書の日付けが、実際に遺言を書いた日付ではなくて、その下書きの日付だったため、裁判所は、この遺言は、日付けが実際に書いた日ではないから無効だとしました。
 この事案は、遺言書を書く時に手を添えた人が、法廷で遺言の作成の状況を説明したので、実際の作成日と遺言の日付けが違うことが分かりました。誤解によるミスという感じもしますが、実際に遺言書を書いた日と遺言書の日付けが違っていたことは書いた時点で分かっていたのですから、日付けを間違えたのとは違う、ということです。

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2.訂正

 

(1) 訂正の方法は厳格に決められています

 自筆遺言を訂正する場合は、訂正の方法が法律で決まっています
 遺言書の中に、訂正する場所と訂正したことを書いて署名押印し、本文中の訂正箇所に判子を押すという手続が必要になります。普通の契約書などの場合には、訂正印を押すだけでいいのですが、遺言の場合は厳格です。
 このように厳格なのは、例えば、「この財産を○○に相続させる」と書いた後で、「この財産」を別の財産に訂正したり、「○○」を別の人に訂正する場合のように、重要部分を訂正すると、遺言の内容が全く別の内容になってしまうからです。
 そして、訂正の手続を法律のとおりにしなければ、訂正は無効です。訂正前の文章が読み取れる場合には訂正をしなかったことになります。訂正の結果、前の文書が読み取れなくなれば、読み取れないことを前提に解釈するしかありません。
 ただし、通常は、書き間違えたところを訂正する程度ですから、「訂正しなかった」ことになっても、さほど問題はありません。訂正が無効で意味が通らなくなっても、遺言は合理的な解釈をして読むことになっています。

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(2) 遺言全体が無効になった例もあります

 日付けを訂正したのに訂正方法が間違っていて、しかも、訂正前の日付けが読めない遺言が無効とされた例もあります(仙台地裁昭和50年2月27日判決)。
 別の証拠から、遺言を書いた日が証明できたとしても、遺言書に日付けを書くことは自筆遺言の要件なので、上のような場合には、要件を充たしていないことになります。

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(3) 遺言書の訂正と変更

 遺言書の形式で言うと、「訂正」は、すでに書いた遺言書そのものを訂正すること、「変更」は、すでに書いた遺言書はそのままにして、後で書いた別の遺言書で変更することをいいます。
 しかし、言葉の意味で、「訂正」と「変更」とどう違うと言われると、厳密には区別できません。どちかと言うと、「訂正」は間違えたので修正するという意味があります。「変更」は一旦は、真意から遺言を作ったけれども、後になって状況が分かったので、別の内容にした、という場合が多いと思います。
 ただし、法律上、一旦は真意から作った遺言を「訂正」の方法で変えても、訂正の要件を充たしていれば有効に内容を変えることができることになります。

 とは言え、遺言を書いたその日のうちに気が変わって「訂正」をしたのならともかく、後日、気が変わった場合には、遺言の作成日の問題が起こります。「訂正」の時に日付けを訂正しないと、遺言を書いた時期と日付けが一致していないことになります。しかし、最初の遺言を書いた後で、財産を処分し、それに合わせて遺言を修正した場合(この場合は財産を処分した日と遺言の日付けがおかしなことになっていることがバレてしまいます)でなければ、普通は、いつ訂正したのかは分からないことが多いとは思います。

 ただ、遺言の効力が問題になるときには、遺言を書いた人は亡くなっていて、真意の確認ができないのですから、亡くなった後で問題を残さないようにした方がいいです。「なんでこんな重要なことを訂正で変えたんだ」ということからトラブルになることも考えられます。つまり、「変更」だったら、新しい遺言書を書いた方がいいのです。
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(4) 遺言の破棄

 完成した自筆遺言全体に、遺言者が斜線を引いた場合は、訂正ではなく、遺言の破棄に当たるというのが、最高裁の判決です(平成27年11月20日判決)。破棄にあたるというのは、遺言者本人が遺言をなかったことにした、という意味です。
 常識的な話ですが、あくまでも、斜線を引いたのが遺言書を作成した本人だというのが前提になっています。誰が斜線を引いたのか争われる場合には難しい話になると思います。

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3.遺産を受け取る人が特定されていない

 「先祖を大事に思う者に相続させる」「相続人の中から最も適当と皆が認める者に相続させる」という遺言は無効です。

 遺産を受け取る人が特定されていないからです。

 ところで、遺言者は、第三者に、遺産の分割の方法(どの相続人にどの財産を取得させるのか)を任せるという遺言をすることができます。このような趣旨が書いてあれば、上記のような遺言も有効になります(*1)

 しかし、相続人以外の者に遺贈することを、第三者に選択させる遺言については規定がありません。
 ただし、遺贈を受ける者の範囲が国又は地方公共団体等に限定されていると解される場合に有効とした裁判例があります(最高裁平成5年1月19日判決)。この事案はかなり特殊です。遺言者の遺志を尊重して、できるだけ遺言を有効に解釈しようとしたことから、この結論になったとも言えます。

 ところで、複数の遺産があって一通の遺言書にそれぞれの財産の行き先を書いてある場合に、特定の遺産についてだけ、遺産を受け取る人が特定されていないときは、その部分だけ遺言が無効になります(他の部分は有効です)。それでは、無効になった遺産はどうなるのでしょうか。
 無効になった遺産だけを法定相続分で分けるということにはなりません。無効になった遺産については、遺言書に遺産の全部が記載されていない場合と同じ扱いになります。これについては、「遺産の一部が脱けている遺言書」をご覧ください。

 

(*1) 上記の例では、「第三者に選択を任せる」とは書いてありませんし、その趣旨は読み取れません。なお、「第三者」は特定されている必要があり、共同相続人以外の人でなければなりません(東京高裁昭和58.2.23判決)。

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内藤寿彦法律事務所 弁護士・内藤寿彦  東京都港区虎ノ門5-12-13白井ビル4階 03-3459-6391