認知症などを理由に遺言書の無効を主張する

 遺言書の有効・無効が争われる場合があります。
 遺言書で不利な扱いを受けた人は、「この遺言書は、本当に遺言者の本心なのか」と思います。誰かが働きかけて、遺言者の本心と違う遺言が作られたのではないかと疑います。
 遺言をした人が、高齢で、 認知症の診断を受けていた場合やその疑いがあった場合には、「本人は認知症だった。だから、遺言書は無効だ」という主張が出てきます。
 遺言書が無効だと思っても、その遺言書で、登記その他の手続が進められてしまいます。遺言が無効だと主張する人は、裁判所で遺言書の無効を認めてもらう必要があります。

※自筆遺言が形式的理由で無効になる場合については「自筆遺言の落とし穴」、自筆遺言の偽造については「自筆遺言の偽造」をご覧ください。 騙されて遺言を書かれたという場合については「詐欺・錯誤による遺言」をご覧ください。

【目次】
1. 認知症でも遺言の能力がないとは限りません
2.認知症の程度と成年後見・遺言能力
3.裁判所が遺言を無効とした事例
4.長谷川式スケールとは
5.公正証書遺言と公証人との面談状況
6.末期癌等で入院中の場合

 

1.認知症でも遺言能力がないとは限りません

うちの親は認知症だったんです。だから、親の遺言は無効ですよね」。
 いえ、認知症だからと言って、遺言が無効だとは限りません。裁判所も認知症というだけでは遺言が無効とは言ってくれません。

 遺言書作成のすぐ後に成年後見が認められた例もあります。
「兄は汚い。俺から遠ざけるために親を施設に入れて、認知症でわけがわからないことを利用して、公正証書遺言を作らせた。その上、遺言を変えさせないようにするため、すぐに成年後見の申立をした」という相談がありました(実話をヒントにした創作です)。
 施設の記録を読むと、頻繁に「自分の物がなくなった。盗まれた」と大騒ぎをしたと記録されていました(*1)
 それなのに、兄によって施設から公証役場に連れていかれて、公正証書遺言が作成されました。
 その上、公正証書遺言が作られた2週間後には、兄から成年後見の申立がされて、成年後見が認められました(*2)。成年後見の申立のためには、「成年後見が相当だ」という医師の診断書が必要です。遺言の2週間後には、医師がそのような診断をしたことになります。
 しかし、このケースでも、裁判所は「遺言は有効」としました(*3)

 

(*1) 認知症の典型的な症状で、自分の物の管理ができず、自分でどこかに仕舞ったのに、そのことを忘れて「盗まれた」と騒ぎ出すことがあります。 中等度以上の認知症に見られるようです。 

 

(*2) 裁判所が成年後見を認めても、精神状態が一時的に回復した時には遺言をすることができます。ただし、遺言をする時に、医師2名が立ち会って、「遺言ができない状態ではなかった」ことを遺言書に付け加えて書いて署名して判子を押す必要があります。この要件のとおりにしないと遺言は無効です。症状にもよりますが、成年後見が認められると、遺言をするのは相当難しくなります。

 

(*3) 施設の記録を読むと、遺言作成の当時は、あまり異常な言動が記録されていませんでした。認知症でも、日によって症状が変わることがあり、また、短期間で症状が進行することもあります。

▲TOPへ

 

2.認知症の程度と成年後見・遺言能力

 先の例のように、遺言を書いた後に成年後見になる場合があります。成年後見の申立後、家庭裁判所が成年後見を認める前に、遺言が作成される場合もあります(申立から成年後見が認められるまで数か月かかる場合があります)。

認知症と、成年後見、遺言の無効の関係を簡単に言うと以下のようになります。
「認知症」> 成年後見 >「遺言の無効」

 どういう意味かと言うと、認知症だからと言って成年後見が認められるとは限らない。遺言を作成したすぐ後に成年後見が認められても、遺言が無効になるとは限らない。まして、認知症だからと言って、遺言が無効になるとは限らない、という意味です。

 認知症と言っても程度があります。重度の認知症もあれば、軽度の認知症もあります。また、ある程度重い場合でも、日によって、症状が変わることがあります。

 成年後見が認められるのは、「精神上の障害のために、財産管理の能力がない」場合です。軽度の認知症では、成年後見が認められない可能性があります。しかし、成年後見の制度は、精神の障害で財産管理ができなくなった人を保護するための制度です。申立の時点で、本人の親族が本人の財産を狙っている疑いのある場合もあります。家庭裁判所としては、医師の診断があれば、成年後見を認めて本人を保護しようという考えに傾きます。

 遺言が無効になるのは、「遺言能力がない」場合です。遺言能力がない、というのは、本人が「遺言の内容を理解できない、遺言した結果どうなるのか理解できない」という状態です。
 成年後見の開始の要件と似ているように思えますが、一般にそれよりも厳しく判断されます。
 裁判所が遺言を無効とすると、遺言者の最終の意思とされるものを否定することになります。また、遺言によって利益を得るはずだった人の利益を否定することになります。

 本人は亡くなっているので、再診断はできません。成年後見のように「本人保護」みたいな要素はありません。そこで、裁判官としては、基本的には、積極的に遺言能力がなかったと認定できない限り、遺言を無効にしません。
 このため、裁判例を見ると、遺言の前後の医師の診断で、重度の認知症と判定されたことや、遺言をした当時、遺言者の言動が相当に異常でないと、「遺言能力がない」(遺言が無効)とは認めない傾向があります。(*1)

 

(*1) 結果的に遺言を無効とした場合でも、遺言能力については有効として、他の理由で無効としたものもあります。
「弁護士に6億円の遺言無効=公序良俗に違反-大阪高裁」という見出しで報道された判決(大阪高裁平成26年10月30日判決)は、「短期記憶の欠如といった中核症状のみならず、しばしばせん妄等の周辺症状を発症する状況にあったと認められるが、未だ、高度のアルツハイマー病に罹患していたとまでは認められない」などとして、遺言の能力はあったと認定しました。しかし、遺言作成に関与した受遺者(遺贈を受ける者)が職務上の地位を利用して遺言を作成させたことが公序良俗に反するとして遺言を無効にしました。なお、この事案は自筆遺言です。

▲TOPへ

 

3.裁判所が遺言を無効とした事例

  ネットなどを見ると、認知症だったので、裁判所が遺言を無効と判断したという例が沢山紹介されています。しかし、実際は、認知症と診断されていても、裁判所が遺言を有効とした例の方が多いと思います。
 特に、公正証書遺言が無効になった例は、珍しいから報道されたり、法律情報雑誌で紹介されます。そして、それらがネットで紹介されるのです。

 認知症で無効になった例をいくつか紹介します。特段、有名な判決ではありません。判例検索でたまたま見つけたものです。

① 遺言作成に近い時期に、医師が成年後見のための診断書を作成した事例です。
 医師の診断によると、遺言をした人は、「会話するが回答は全く異なることばかり,自己の年齢を回答できない,日時・場所を回答できない,計算は1桁の計算のみ可能,自分での金銭管理は困難。
 長谷川式スケール(正確には、長谷川式簡易知能評価スケール)の検査の結果は,30点満点中9点(高度の認知症)」。
 これについて、裁判所は遺言を無効としました(東京地裁平成26年 3月20日判決)。

② 遺言作成前の医師の診断は「見当識(自分がいつ、どこにいるのか把握できる能力)低下,判断力の低下に伴う徘徊,妄想等が認知症に伴う様々な症状が発現し,長谷川式スケールの結果は6点ないし8点。頭部CT検査の結果,側頭葉の萎縮,海馬の著明な萎縮がある」というものでした。
 これに加えて、遺言の内容が、過去に作成した遺言の内容と真逆の内容になっているという不自然なもので、このことからも「正常な判断能力を失っていたことを強く疑わせる」ということで、遺言を無効と判断しました。
 なお、遺言者は、このような状態でも、「日常会話や文字を書く能力は有していた」のですが、裁判所は遺言を無効としました(東京地裁平成21.9.8判決)。

③ 介護老人保健施設に入所し,施設内で遺言公正証書が作成された事案ですが、長谷川式スケールは11点、認知症の症状として,金銭管理が困難,被害妄想的等が認められたというケースです。
 ただし、この判決は、遺言書の内容を特に問題にしています。それによると、「長年遺言者と同居して介護に当たり,養子縁組もしているAらに一切の財産を相続させず,Bに遺贈するという内容であり,それらの財産の中には、Aらが現実に居住している住居もあることも合わせ考えると,遺言事項の意味内容や当該遺言をすることの意義を理解して遺言意思を形成する能力はなかったとがあったものということはできない」としました。
 遺言書の内容や、作成までの状況が裁判所から見てもおかしい、と判断されたようです(東京高裁平成22. 7.15判決) 。

④ 医師の診断によると、「遺言者は、服用薬剤管理・金銭管理能力の欠如,言葉のやり取りの困難,時間・場所の見当識障害,手順を践む作業の困難,周囲の人とのトラブル,間違い行動の多発といった事情を認められた。また、長谷川式スケールの点数が15点だった。このことから、遺言者は、身上監護,財産管理,危機管理等の自己決定の判断能力が欠如しており,とりあえずの会話は可能であるが,内容は意味をなさないか,あるいは通常の理解の範囲を超えるものと判断される」とされました。
 しかも,このような状態が,他の認定事実からも優に認められた、という事案について、遺言の無効を認めました(東京地裁平成22年 3月24日判決)。
 他の例と比較すると、長谷川式スケールの点数が15点と高いのが目につきます。

▲TOPへ

 

4.長谷川式スケールとは

 とりあえず、4つ紹介しましたが、どの判決にも長谷川式スケール(正確には、長谷川式 簡易知能評価スケール )の点数が書いてあります。
 長谷川式スケールというのは、医師が、質問などによって認知症の程度を判断する簡易テストのことです。意思能力の判断材料としては、これだけでは足りず、他の状態やそれに対する医師の判断との総合評価が必要になります。ある意味、参考程度のものと言えます。
 とは言え、点数がつくので、目安として使いやすいと言えます。テストの方法も決まっているので、医師の主観で左右されにくく、その意味では客観性もあります(ただし、このテストでどこまで分かるかという問題はあります)。
 ある事件で、和解の話をしている時の雑談でしたが、高裁の裁判官が「遺言能力がないというためには、長谷川式スケールで10点前後以下でないと」と言っていました。雑談で個人的見解を述べたものですが、このあたりが、裁判所の一般傾向ではないかと思います。

(3)で紹介した4つの例のうち、①と②は長谷川式スケールの点数が10点以下です。③は11点です。ただし、どの判決も、点数以外に、遺言者の当時の症状や、遺言の内容が不合理だという事情が、詳細に書いてあります。長谷川式スケールの点数は、参考程度で、これを含めてその他の事情を総合的に考慮したと言えます。ただし、判決の書き方はともかくとして、長谷川式スケールの点数が、結論に影響している可能性はあります。
 これに対し、④は15点です。この点数だけでは認知症の症状としては軽度と中度の間になりそうです。しかし、特に、会話の内容が意味をなさないか、通常の理解の範囲を超えると医師が判断し、また、それを裏付ける客観的な事実も認められたというのですから、長谷川式スケールの点数は参考程度と裁判所は考えたと思います。

▲TOPへ

 

5.公正証書遺言と公証人との面談状況

 公正証書遺言は、公証人が遺言者と直接会って、遺言の内容を聴き取って作成します (*1)(*2) このため、遺言者に異常な言動や、会話の受け答えにおかしな点があれば、公証人が気付くだろうと考えられます。つまり、公証人が遺言者の意思能力を確認した上で公正証書遺言を作成するのだから、公正証書遺言が無効になることはないだろうということになりそうです。

 ところが、遺言者が認知症の診断を受けていることを公証人が知らない場合には、普通の人だという先入観があるため、少々おかしな点があっても、意思能力に問題があると気がつかない可能性があります。
 遺言公正証書が無効だとされた判決の中で、公証人が認知症だと気付かなかった点について、
「認知症でも尋ねられたことに首肯したりすることはでき,会話の疎通性が一見保たれているようにみえることもあるから、公証人が遺言者の認知症を認識しないまま本件公正証書の作成に至ったとしても格別不自然ではない」としたものがあります(東京地裁平成22年 3月19日判決)。

 ただし、これはあくまでも、他の状況から遺言能力がなかったと認定できることが前提になっています。
 認知症と診断されている場合でも、日によって精神状態が違ったりします。このため、公証人が遺言者と会った時には、特に異常な言動がなかったので遺言公正証書を作成したのだろうと考えるのが普通です。他の状況から無効かどうか微妙な場合には、遺言は無効ではない、という判断に傾くことになります。(*3)

 

(*1) 何の準備もなしに、公証人が遺言者と会って、その場で遺言公正証書が作られるわけではありません。
 通常は、事前に、本人や遺言書の作成に関与する相続人(遺言で有利に扱われる人の場合が普通です)や弁護士が、公証人と面接して、遺言の内容を伝えます。公証人は、それに基づいて公正証書の案を作成します。そして、後日、正式に遺言者と会ってそれで間違いがなければ、それが遺言公正証書になります。
 ただし、案を作っても、遺言者がそれと違うことを言えば、訂正します。病院に公証人が行って遺言者から遺言を聞き取る場合もありますが、その場合も同様です。案ができているから変えられない、ということはありません。

 

(*2) 公正証書遺言は、遺言者が公証人に遺言の内容を口授(くじゅ)する(言葉で伝える)ことが要件になっています。しかし、遺言の内容を全て言葉で話すことまでは必要ありません。公証人が作成した案の内容を読み上げて、間違いがないかどうか確認する(極端に言えば、「間違いないですか」「はい」という)場合でも、要件を充たす場合もあるとされています。例えば、事前に遺言者本人が公証人と面談して、これに基づいて遺言書の案が作成された場合です(東京地裁平成23年10月18日判決など)。 しかし、認知症の例ではありませんが、死が目前に迫っている状態で、病院で遺言公正証書を作成する時に、公証人の問いかけに遺言者がうなづいただけでは、口授の要件を充たさないとした例もあります(宇都宮地裁平成22年 3月 1日判決)。これは状況を想像すると、そうだろうなと思います。

 

(*3) 公証人は、約10年の任期で、多数の遺言公正証書を作成します。高齢者の遺言はあたり前ですし、病院で死を目前にしている人の遺言を作成するのも珍しい話ではありません。そして、裁判で、遺言の無効が問題になるのは、何年も前に作成した遺言公正証書です。印象に残ることがなければ、公証人が1つ1つの状況を記憶していないのもやむを得ないことです。
 認知症ではなく、病院での遺言公正証書作成の事例ですが、遺言を有効とした判決の中で公証人の記憶について次のように言っています。
「公証人は,遺言公正証書を作成した記憶はあるものの,遺言者のことを記憶していないとしている。仮に,遺言者が公証人とのやりとりで、不穏な言動をしたり,ちぐはぐな対応をした場合には,公証人は,遺言公正証書の作成を進めるか中断するか検討することになると思われる。そうであれば,かえって記憶に残ると考えられる。公証人の記憶に残っていないということは,むしろ遺言作成が問題なく行われたと考えられる」(東京高裁平成29年 6月26日判決)。
 この判決は、他の証拠では遺言が無効と認められないので、公証人が「記憶がない」と言っても問題なしとしたと思います( ただし、一審は遺言を無効としました。二審の東京高裁は逆の判断をしたことになります)。

▲TOPへ

 

6.末期癌等で入院中の場合

 死が目前に迫った状態の人から、公証人が遺言作成を依頼される場合は珍しくないとのことです。しかし、遺言書で不利に扱われた親族が「あんな状況でまともに遺言ができたはずがない」と言って、遺言の有効性が争われることがあります。

 公証人に聞くと、本人と会って、問題がないと判断すれば遺言公正証書を作成することですが、その後、数日後に亡くなることも珍しいことではないそうです。後で親族間で遺言無効の裁判が起こり、公証人がそれに巻き込まれるおそれがあるので、念のために医師の診断書(遺言能力があるという内容の診断書)を取っておくこともあります。この診断書は有力な証拠になります。

 死が目前に迫っていると言っても色々な場合があるので、一概には言えません。以前、関与した高カルシウム血漿下の遺言作成を例にお話します。
 末期癌で血漿カルシウム値が高くなり、濃度が基準値を越えると高カルシウム血漿と診断されます(さらに数値が高くなれば、それだけ症状は進行します)。そして、症状が進行すると、見当識障害や意識レベル低下が見られることがあります。
 このうち「見当識障害」というのは、自分が置かれている外界の認識ができなくなり、今が何月何日の何時かとか、今自分がどこにいるのか、誰と話をしているかなどが正確に認識できない状態です。ところが、外部とのコミュニケーションは取れます(つまり、公証人とある程度会話ができます)。しかし、その行動は、外部の状況を正確に認識した上での行動ではありません。
 また、「意識レベル」というのは、患者の意識障害の程度を言います。看護師の書いた「看護記録」を読むと、「傾眠して声かけにすぐに返答、開眼するもすぐに閉眼」と書いてある場合があります。これは、「眠そうで、起こしてもなかなか目を覚まさない状態」ということではありません。「傾眠」とは、周囲からの刺激があれば覚醒するが、刺激がなくなると、すぐに意識が混濁する状態をいいます。また、「声かけに反応せず」という記載があれば、それはぐっすり眠っているということではなく、刺激を与えても意識が戻らない状態をいいます。意識障害があるという意味です(看護記録に書いてあることは、患者の症状を把握する上で意味のある事項です。しかも、他の医師や看護師が読んでも共通の理解ができる用語で書いてあります)。

 ただし、高カルシウム血漿によるこれらの症状も、回復したり、悪化したりを繰り返します(病院での治療効果で改善、悪化を繰り返すこともあります)。遺言作成のために公証人が病院に来た時に医師の診断書を取ればいいのですが、関係者が、公証人に遺言者の状態を知らせないと、公証人も問題に気付かない場合があります。
 悪いことに公正証書遺言が作成された時点に近い時間に看護記録の記載がない(定期的に患者を診ていますが、その時間帯には看護師が来なかった)場合には、その時点での遺言者の状態が分かりません。また、ある程度、推測できたとしても、認知症にも程度があるように、一体どこまで、遺言能力があったのだろうか、という問題が起こります。
 そのため、客観的な人間関係や、過去の遺言から考えて、このような遺言をするはずがない、とか、前後の言動が明らかに異常で、遺言作成時も同様だったと推認できる、というような理由がないと、遺言無効は認めにくい、ということになります。

 高カルシウム血漿などで遺言能力がないとされた判決 (東京地裁平成20年11月13日判決) を紹介しますが、それによると
 ①公証人が遺言公正証書の案文を読み聞かしている最中に,遺言者は非常に苦しそうな態度をしてそのまま眠ってしまい,公証人が一旦は遺言公正証書の作成を断念するほどの状況になった。
 ②遺言者は妻から何度も揺すられ声をかけられてようやく目を覚ました。
 ③遺言書作成日の翌日には,遺言者の意識レベルは,刺激に応じて一時的に覚醒するが,開眼しても自分の名前や生年月日が言えない状態だった。
 ④主治医も,遺言書作成日の遺言者の容態は前後の日と同じような状態で推移しており,前日に遺言者が陥った見当識障害のような症状が現れた患者の意識レベルが翌日になって鮮明になる可能性は低いと供述した。
ことから、遺言能力はなく、遺言は無効だとしました。
 これなどは、主治医の協力があり、また、公正証書遺言の作成時の状況が認定できたことが決め手になっています。公正証書遺言作成時の状況を直接証明できず、カルテや看護記録を情況証拠にするということになると(他に比べれば有力な情況証拠ですが)、なかなかこのような認定にならないと思います。(*1)

 

(*1) カルテや看護記録だけで証明する場合も、記載された言葉の医学的な意味を、一つ一つ証拠に基づいて裁判官に伝えて、病状の経過を明らかにしないと理解は得られません。遺言者の治療に関与していない全くの第三者の医師が、カルテや看護記録を見て、鑑定書なるものを書いて証拠として出した例を見ましたが、遺言能力の法律上の意味の理解が乏しい上、裁判官が医学用語や数値を理解できることを前提に書いているため、裁判官が読んでも結論が飛躍している(依頼者に迎合して書いている)としか思わないだろうという内容でした(あくまでもそのケースのものが、という意味です)。

▲TOPへ

内藤寿彦法律事務所 弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
事務所 東京都虎の門5-12-13白井ビル4階(電話 03-3459-6391)