借地借家法で、保護されるためには、法律上の借家を借りている必要があります。商業施設(デパートなどの商業ビルや地下街など)の一画に店舗をもうける場合、そもそも、借家とは認められず、期間満了で退去させられる場合があります。また、借家と認められる場合でも、商業施設ならではの特約があり、それに違反すると契約を解除される場合があります。ここでは、このような商業施設の契約について、弁護士が解説します。

【目次】
1.商業施設の使用が建物の賃借と認められない場合
2.借地借家法の適用がある施設の特約
 (1) 特約の有効性と解除の要件
 (2) 場所の変更などの特約の効力
 (3) 契約違反はあるが信頼関係破壊はない場合  

1.商業施設の使用が建物の賃借と認められない場合

  デパートや地下街などの商業施設に、売り場スペースを設置する場合、契約上、建物の賃貸借ではない、というケースが結構あります。

 借地借家法で保護される「建物の賃借」と言えるためには、他とは区切られた独立した空間を借りている場合でなければなりません。また、契約書でも、借りている空間が特定されている必要があります。
 デパートなどの「売り場」の多くは、他と区切られた独立した空間とは言えません。他の売り場とは仕切りで区切られだけで、仕切りが天井まで達していない場合、ドアなどで戸締まりができず、夜間の立ち入りを拒否できない構造になっている場合などは、独立した空間とは言えません。
 また、契約書に「デパート側の都合で別の売り場へ移転させる場合がある」などという記載のあることも多く、このような場合には、「その場所を借りて、占有している」とは言えないことが多いです。(*1)

 借地借家法の適用がない場合には、解約や更新拒絶に正当事由が要求されません。定期借家契約(これについては、「定期借家契約」をご覧ください)でなくても、期間満了で契約終了になることがあります。つまり、更新できるかどうかは、施設側の都合次第になります。
  しかし、借地借家法の保護を受けないと言っても、あまり軽微、形式的な契約違反では解除理由できないとされる場合もあります。また、期間満了の契約終了についても、何度も更新している場合などにはすぐには終了できないとされる場合もあります(このような保護を受けるのも例外的な場合です。しかも、更新が認められるわけではなく、「すぐには終了できない」というレベルの保護しか受けられません)。

 これらは契約書のタイトルが「建物賃貸借契約」ではなくて、「業務委託契約」などとなっています。無論、契約書のタイトルが「業務委託契約」になっていたとしても、その実態が建物賃貸借契約なら、借地借家法の保護を受けます。


(*1)このような条項があっても、客観的にも独立した空間を借りていると言える場合には、借地借家法の適用があり、上記の条項が無効という場合もあり得ます。しかし、後でお話するように借地借家法の適用がある場合でも、施設運営者側からの「場所、面積の変更」要求に従う義務を認めた裁判例もあります。(▲本文へ戻る

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2.借地借家法の適用がある施設の特約

(1) 特約の有効性と解除の要件

 複数の店舗がテナントとして入居している商業ビルでは、他とは区切られた独立した空間を借りていて、借地借家法の適用がある場合でも、他にはない特約が付けられている場合があります。
 これらの特約は、商業ビル全体の売上向上などのために各店舗に義務を負わせるものです。しかし、そのような目的で付された特約ですが、解除が認められるためには、特約に合理性があって有効と認められ、また、特約違反によって信頼関係が破壊されたと認められることが必要です。

 この先例となる最高裁の判決が昭和50年にあります。

 ショッピングセンターとするために一棟の建物を区分してこれを青物商、果物商等の店舗として各賃貸していたという事案です。ショッピングセンターの運営をする建物所有者が賃貸人として各店舗と賃貸借契約をしていました。この契約では、禁止事項として、「①粗暴な言動を用い、又は濫りに他人と抗争したとき。②策略を用い、または他人を煽動して、本ショッピングセンターの秩序を紊し、あるいは運営を阻害しようとする等不穏の言動をしたと認められたとき③多数共謀して賃貸人に対して強談威迫をしたとき」と記載されていました。

 ショッピングセンターの形態も契約の条項も時代を感じますが(特に条項の③はそういう時代だったのかなと思います)、ある賃借人がこれに違反したため、賃貸人は契約を解除しました。
 違反の程度も「ショツピングセンター内で、他の賃借人に迷惑をかける商売方法をとって他の賃借人と争い、そのため、賃貸人が他の賃借人から苦情を言われて困却し、賃貸人がそのことにつき当該賃借人に注意しても、暴言を吐き、あるいは他の者とともに暴行を加える有様であつて」というのですから解除されるのは当然でした。

 この点について最高裁は、「多数の店舗賃借人によって共同してショツピングセンターを運営、維持して行くために必要不可欠なことであり、その禁止事項も賃借人に不当に重い負担を課したり、その賃借権の行使を制限するものでもない。したがって特約によつて賃借人に前記のような行為を禁止することには合理的な理由がある」として特約を有効としました。

 また、このような特約違反で解除することについて、「賃貸人が右特約違反を理由に賃貸借契約を解除できるのは、賃借人が特約に違反し、そのため、右信頼関係が破壊されるにいたったときに限ると解すべきである」としました。なお、この件については「すでに信頼関係が破壊されているので、催告を要しないというべきである」として、無催告の解除を認めました(最高裁昭和50年 2月20日判決)。

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(2) 場所の変更などの特約の効力

 時代が進めば、ショッピングセンターの形態も変わり、また、契約条項も変わります。
 借地借家法の適用のある店舗の場合でも、場所、面積などの変更に応じるとする特約がある場合があります(例は多いのかも知れません)。
 しかし、通常の賃貸借契約では、場所、面積は賃借人にとっては重要な契約条件です。そこで、このような特約の効力や違反の効果が問題になります。

 例えば、ショッピングセンター内のテナントについて、「甲が必要と認めた場合は、甲は乙に対して賃貸借物件の位置、形状、面積の変更を求めることができる。乙はその場合積極的に協力するものとする。」と定められていたケースで(甲は賃貸人、乙は賃借人です)、ショッピングセンター(賃貸人)が、賃借人に店舗のリニューアルを求めました。これに対して、賃借人が拒否したので、契約の解除を求めたケースについて、裁判所は、解除を否定しました(東京地裁平成16年11月 2日判決)。

 この判決は、まず、「店舗は、壁及び躯体用の堅牢なガラスにより区画されており、被告が排他的に占有していることが認められるから、本件賃貸借契約には、借地借家法の適用がある」としました。
 その上で、「原告から被告に対する一方的な位置、形状、面積の変更の求めに対して、被告が当然にその不利益を甘受して協力しなければならないことを意味しているとはその規定の文言からも解せられないし、もしそのように解釈するとすれば、一方的に賃借人に不利な規定として無効であると解せられる(借地借家法30条)」として、解除を認めませんでした。
 しかし、この判決は、「もしそのように解釈しなければならないとすれば」特約は無効だと言っているだけで、条項自体が即、無効と言っているわけでありません。賃貸人側がリニューアルを求めたことについての合理性も問題にしているので、合理的な理由がある場合には、特約違反解除もあり得ることになります。

 同様の特約がある場合に解除を認めた例もあります(名古屋高裁平成 9年 6月25日判決)。
 ただし、判決によると、「本件店舗と、背面に隣接する店舗との間は、天井まで一部鏡を貼った厚さ約一〇センチメートルの間仕切板で隔てられているが、残りの三方の通路と店舗の売場の境界には障害物、間仕切板等はなく、通路から本件店舗の中を通って他の通路への通り抜けが可能であり、夜間など営業時間終了後は、本件店舗の三方の通路側境界に、天井部分から床のタイル部分までネットを下ろすことにはしていたが、シャッターを下ろすなど物理的に閉鎖できるような形状にはなっていなかった」というのですから、「他とは区切られた独立した空間を借りている場合 」に当たらない(つまり、建物の賃貸借に当たらない)という判断もあり得たのではないかと思います。

 この判決では、この契約は「百貨店のケース貸」と一般の「独立店舗の賃貸借」との中間的法性格を有するものと解されるとした上で、本件契約中においては、一個の営業体としてのショッピングセンターの一体性の維持と、ショッピングセンター全体の集客力の維持という共通の利益のために、一般の独立店舗の賃貸借には見られないような、各種の制約を合意しているということができるとしています。つまり、一応、借地借家法の適用があるけれども、相当な制約も有効だとしています。
 ショッピングセンター内のテナントには、 ショッピングセンター内の制約に応じる一般的な義務があります。その限度が問題になりますが、この件では、占有の独立性が弱いため、場所や面積の変更などについて、強いことは言えない、ということだと思います。

 このように見ると、商業施設内のテナントについて「場所、面積などの変更に応じること」という特約があっても、店舗の占有の独立性が強くて「その場所、その面積」で借りている場合には、相当な合理性がないと応じる義務はなく、また、面積や移転先の場所についても、相当性(必要と認められる範囲内での強制)が要求されることになると考えられます。

 例えば、地下街の店舗で相当な独立性があり、その場所も契約書で特定されている場合に、地下街の拡張工事のため、地下街の別の場所に移転を求められたケース(工事期間中の一時的な移転ではありません)があります。このケースでは、店舗面積が大幅に削られ、しかも、移転先の場所も集客上、不利になる、という相談がありました。この場合、移転先の変更、減少面積の変更などの措置が取られるとか、補償などがない場合には、移転要求自体が認められない可能性もあると思います(相談のみのためその後どうなったのか分かりません)。
 しかし、商業施設の契約は、施設全体の利益の向上に協力することを前提に結ばれます(協力の具体的な内容、程度は別問題です)。そのため、施設の改装工事への協力が必要な場合もあり得るという制約があり、しかも、改装がテナント全体の利益のために行われるという建前ですから(実際には、管理者側が施設全体のテナント収入を上げるために工事をするのではないかという話もありましたが)、補償等にも限度があると思います。

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(3) 契約違反はあるが信頼関係破壊はない場合

 商業施設には、他の賃貸借契約にはない特約があります。これまでにお話ししたように、商業施設に入居している各テナント全体の利益のために、一般の賃貸借契約では見られないような、特約がもうけられている場合があります。しかし、それに違反した場合の効果については、特約自体に合理性、必要性があり、また、違反に対する効果も、違反によって信頼関係が破壊されたと評価できる場合(この場合は、商業施設に入居しているテナント全体の利益に反することなどが信頼関係破壊と評価されます)でないと解除は認められません。

 例えば、次のような事例があります。
 複数のテナントが入居している商業ビルの一部(建物の1階部分全体)について、「賃借人が連続3日以上休業する場合には賃貸人の書面の承諾を得なければならず、これに違反した場合には即時解除ができる」という特約があったという事案です(商業ビルなどでは、このような特約が付けられることは珍しいことはではありません)。
 この事案は、店舗が無断で閉店したのに対して、賃貸人側が損害賠償請求をしたというものです。そのため、残念ながら、解除の有効性は争われていません(閉店して店舗を返還することを前提で休業していた事案です)。このため、裁判所も解除の有効性については判断していません。
 それでも裁判所は、損害賠償は認めました。その判決を抜粋すると「店舗の休業に被告の承諾を要するとされたのは,本件建物の1階に存する本件店舗が営業をしないことにより,本件建物が閑散とした雰囲気となり,本件建物の他の賃借人の営業に影響が生ずるのを防ぐためであったのだから,他の賃借人に対する影響を顧慮しないまま,閉店することが正当化されるわけではない。」(東京地裁平成22年10月28日判決)
 この事案では、施設を建設する時点から当該賃借人の意向を聞いていたようで、その点も考慮されたものと思われます。
 これが解除が認められるかどうかが問題になった場合だったら、4日間程度の短期間、無断休業をしても解除は認められないと思います。

 同様に複数のテナントが入居している商業ビルのケースですが、各テナントに日々の売上の報告を義務付け、これに違反した場合には解除できるという特約があったのに、あるテナントがこれをしなかったためビルの所有者が契約を解除したため、解除の有効性が争われたケースがあります。このケースでは、裁判所は解除の有効性を否定しました。事案によりけりということだと思いますが、売上報告自体がそれほど重要なものではなく(形式的な規定になっていたようです)、信頼関係が破壊されたとは認められない、ということが理由です。

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※賃料不払い(家賃滞納)を原因とする解除については→「その1(家賃滞納)」をご覧ください。
 また、賃貸人の都合で、落ち度のない賃借人との間で契約を終了させる場合については→「その2(賃貸借契約終了の正当事由と立ち退き料)」をご覧ください。

 その他、契約違反の解除として、無断譲渡・無断転貸については→「賃貸建物の無断譲渡・無断転貸」、用法違反による場合については→「用法違反による解除」、特定の契約条項に違反しないけれども、解除が認められる場合については→「条項違反はないが信頼関係破壊で解除になる場合」をご覧ください。

弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13白井ビル4階  電話 03-3459-6391