木造のアパートを所有していましたが、火事で全焼してしまいました。賃借人から当面のホテル代や補償を求められていますが応じなければなりませんか。
火災の原因によっては、補償に応じなければならない場合もあります。
しかし、火事の原因についてあなた(賃貸人)に責任がない場合には補償の責任はありません。

【賃貸人に火災の責任がある場合】
自宅と賃貸物件が一棟の場合
責任の範囲
火災保険では対応できません
漏電の場合
賃貸人に火災の責任がない場合(賃借人に責任がある場合など)】

 

【賃貸人に火災の責任がある場合】

 

●自宅と賃貸物件が一棟の場合

 火事の原因について賃貸人に責任がある場合です。

 通常は、失火責任法という法律があって、故意や重過失(故意に近い過失のこと。ガソリンの近くで火をつけたり、火をつかった調理中に外出するなど)がない場合、その他の特別な事情がない場合には、火事について責任を取らなくてもいいことになっています。

 しかし、賃貸人と賃借人は、賃貸借契約によって建物を貸し借りしているという特別の関係があります。このため、賃貸人には、失火責任法上の責任がなくても、契約上の責任を取らなければならない場合があります。つまり、故意や重過失がなくても、契約上の責任が認められる場合があります。この契約上の責任は、契約書に書いてないのが通常ですが、契約書に書いてなくても責任があります(逆に、賃借人に失火の責任があって、賃貸人が損害を受けた場合、賃借人は賠償責任があります)。

 問題になるのは建物の一部があなた(賃貸人)の自宅になっている場合(自宅と賃貸物件が一棟になっている場合)で、あなたの自宅部分から出火した場合です。
 この場合は、あなたは賃借人に対して責任を取らなければなりません(最高裁平成3年10月17日判決、東京高裁昭和49年12月 4日判決など)。
 自宅と賃貸物件が一棟の建物の場合、賃貸人の自宅から出火すると、賃借人に貸している部分にも延焼して賃借人が損害を受ける危険性があります。このため、賃貸人は、賃借人に対して、自分が管理している自宅から出火しないようにする義務があります(隣家など賃借人以外の人は関係ありません)。
 また、契約責任なので、賃貸人の管理する部分から出火したときは、賃貸人に責任がないこと(例えば、第三者の放火)が証明できない限り、賃貸人は責任を取らなければなりません。つまり、出火場所が賃貸人の自宅内だと判明すれば、 出火原因不明でも、責任を取る必要があります。

 ただし、この責任は、賃貸人の自宅から出火すれば、高い確率で賃借人に被害が及ぶことが理由になっています。
 賃貸人の住居とアパートなどの賃貸物件が別棟になっている場合には、賃貸人の住居から失火して、アパートまで延焼したとしても、責任を取ることにはなりません(判決の理由の中で否定的な見解を示しているものとして、東京高裁昭和49年12月 4日判決)。ただし、2棟の建物の位置関係が、非常に接近している場合などは一棟の場合と同じと判断される可能性があります。

 

●責任の範囲

 この場合の賠償責任の範囲ですが、まず、焼失したり消火のために使用できなくなった賃借人の家財について、賠償責任があります(最高裁平成 3年10月17日判決)(ただし、新品の価格ではなく、中古品としての価格で賠償する責任があります。この点は焼け出された側からすると不満です)。
 また、当面のホテル代、新しい物件を賃借する際の手数料、被災しなかった動産類の保管や運送料なども賠償責任の範囲に入ると考えられます。賃借人が事業用に物件を使っていた場合には、営業補償の問題も生じます。(*)
 火災によって、人が怪我をしたり、亡くなった場合には、その責任も取らなければなりません。
 なお、火災で住居や店舗として使用できなくなった場合には、すでに受領していた当月分の賃料のうち、使用不能になった日以降の賃料は返還しなければなりません。敷金も返還しなければなりません。これらは、火事の責任の有無に関係なく返還義務があります。これは損害賠償ではありません。火災の程度が小規模で賃貸物件として使用可能な場合には、その必要はありません。

(*)賃貸物件と賃貸人の居住場所が一体となった物件が全半焼したような場合には、賃貸人も焼け出されて対応できません。ただし、賃借人は、入居する時に家財保険(賃借人の家具等に対する火災保険)に加入するのが通常で、この保険は、焼けた家具の補償の他、一時宿泊や転居などの費用も補償されるのが通常です。つまり、家財保険の保険会社から、賃借人に対して、これらの補償としての保険金が支払われます。
 ただし、この保険はあくまでも賃借人が加入している保険で、賃貸人のための保険ではありません。このため、家財保険の保険会社は、支払った保険金額の範囲で、賃借人に代わって、賃貸人に賠償請求ができます。なお、賃貸人の加入している火災保険の保険金は、賃貸人に火事の責任がある場合でも、支払われます(自分で放火した場合は別です)。

 

●火災保険では対応できません

 通常の火災保険の場合、建物や賃貸人自身の家財について保険が支払われるだけで、他人に対して損害賠償をするお金は保険の対象外です。

 火災保険に個人賠償責任保険特約を付けた場合、他人に対して支払わなければならない損害賠償金について保険金が出ます。ただし、どの場合に、いくらまで保険金が出るのか、保険会社によって異なります。契約する前に保険会社に確認する必要があります。なお、自動車保険の付加保険の個人賠償責任保険にも、「建物の使用、管理によって他人に損害を負わせた場合」に無制限で、損害を負わせた相手方に対して損害賠償金を支払うというものがあります。これも火災の場合に適用される場合があります(火災が起こる前に保険会社に確認しておくのが無難です)。

 いずれにしても、自宅とアパートなどの賃貸物件が一体となった物件を所有している場合には、火災で賃借人に損害を負わせた場合に適用される保険に入っておくべきです(仲介業者は賃借人には火災保険に入るように言いますが、賃貸人には言いません)。個人賠償責任保険に入らないで、万一自宅から出火して賃借人が死亡するなどした場合には、自宅やその敷地を処分しても賠償金が足りないという最悪の事態もあり得ます。

 

漏電の場合

 アパートと自宅が別棟の場合で、アパートだけから出火した場合でも、火災の原因が漏電の場合には、アパートの占有管理者や所有者(通常は賃貸人)が責任を取らなければならない場合があります。

 土地の工作物(建物など)の占有管理者や所有者は、工作物に問題があって、そこから第三者に発生した損害については賠償する責任があります。この責任は、失火責任法が適用されません。つまり、賃借人だけでなく、アパートから延焼して近隣住民に損害を与えた場合にも、責任を取らなければなりません。

 そして、アパートの屋根裏の配線の漏電の場合には、建物自体に問題があったとされることがあります(正確には、その配線が建物の一部とみなされるということです)。このようにして建物所有者の賃貸人の責任を認めたものとして、東京地裁平成12年 5月26日判決があります。

  ただし、これはあくまでも、火災の原因になった配線が建物全体の配線の場合です。アパートの一室(賃貸している物件)内で賃借人が使用している電気製品の配線が原因の場合には、賃貸人が責任を取ることはありません。建物自体に問題があって火災が発生したとは言えないからです。

 

【賃貸人に火災の責任がない場合(賃借人に責任がある場合など)】

 賃貸人に火災の責任がない場合です。

 この場合でも、家賃の日割り分や敷金の返還は当然ですが、それ以上の賠償などの義務はありません。

 賃貸人には修繕義務など、賃借人に建物を貸す義務がありますが、全焼した場合にアパートを再築する義務はありません。ただし、火災の程度が軽微でそれほどの費用をかけなくても修繕可能な場合には、修繕して、賃借人に貸す義務があります。火事について責任がある賃借人に対しては、責任の程度や火事の程度に応じて、違ってきます(ただし、費用の賠償はできます)。

 また、賃借人に失火の責任がある場合には、賃借人は賃貸人に対して建物の損害などについて賠償責任があります。この場合も、賃貸借契約に基づく、契約上の責任になります(賃貸人に対する関係では、失火責任法は適用されません)。

 賃借人が契約する火災保険の中には、賃借人自身の家財が消失した場合の保険に加えて、賃借人から賃貸人に対する損害賠償責任をカバーする保険(借家人賠償責任保険といいます)がセットになった保険があります。通常は、賃貸借契約の中に、これらの保険契約を保険会社と結ばなければならないという条項があり、仲介会社を通じて、保険会社と契約を結びます。

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