建物の建替えなどを理由として、退去を求められた場合、賃借人は、移転先でも移転前と同じ状態で、生活や事業ができなければ困ります。飲食店などの店舗の場合には、什器備品などの移転可能な動産の他、水回りや厨房設備など、建物の内装として、建物から移転できないものがあります。
 移転可能なものはそのまま移転して、運送費が立退料の対象になります。これに対して、移転できないものは新店舗で工事して設置することになります。その工事代金はそれなりに高額になります。
 この費用も、移転に伴って賃借人に発生する費用ですから、立退料の一部として、賃貸人から補償してもらう必要があります。
 しかし、内装工事は高額なだけに、要求金額が正しいのかどうか、計算方法が問題になります。移転前の店舗と同じ内容になるように業者から見積を取っても、それが信用できるかどうか問題になります。仮に、過去の見積書があったとしても、そのうちのどれが移転できない内装工事費なのか問題になることもあります。また、工事の時から時間が経過しているので、その経過時間分の減価をするのかどうか問題になります。
 このような移転に伴う内装工事費について、弁護士が解説します。
 

【目次】
1.内装工事と什器備品
2.内装工事費の計算方法
 (1) 賃借人側の再調達価格の計算方法
 (2) 賃貸人側の再調達価格の計算方法
3.経過時間の減価
 (1) 減価の計算式
 (2) 減価することの問題点
 (3) 妥当性のための調整

1.内装工事と什器備品

 飲食店を例にしますが、スケルトンの店舗で開業する場合、内装工事として必要になる最低限のものとしては、水回りや厨房設備、排気設備などです。居抜き(前の店舗の設備が残っている状態)で借りたけれども、結局、スケルトンにして、諸設備を設置したという例も、珍しくはないようです。
 立ち退きの場合に問題になる、内装工事とは、移転できないもの全般の設置工事を指します。つまり、食器、椅子、テーブル、冷蔵庫などの什器備品は移転できるので、運送費だけで足りますが、カウンターのように店舗そのものに設置してしまい、移動できないものは、内装工事の対象になります。その他、個室を作ったり、壁面に庇をつけたり、小上がりを作ったりした場合も、移転はできないので、内装工事費の対象になります。(*1)

(*1) 基本的には、移転できるかどうかで、区別されますが、例えば、美容院の設備のように、取り外しや設置のためにメーカーの業者の作業が必要な場合には、その取付、取り外しの費用が運送費とは別にかかります。しかし、設備そのものが移転できるものは、内装工事の対象ではありません。その他の什器備品も、種類によっては、特別な運送費がかかりますが、立退料の対象は、運送費や取付費用などです。古くなったので、店舗移転の機会に買い換えたいと思っても、その費用は立退料の対象にはなりません。

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2.内装工事費の計算方法

(1) 賃借人側の再調達価格の計算方法

 内装工事費は、現時点で、同じものを設置する費用(再調達価格といいます)を算定した上で、設置した時点から現在までの経過時間による減価をして算定するのが原則です。

 再調達価格をどうやって計算するのかと言うと、設置して10年程度の場合、設置した時の見積などの資料があるのが通常だと思います。それをそのまま利用します。ただし、備品などの費用と一緒に記載してある場合もあるので、内装工事費だけを抜き出す必要があります。

 設置して20年、30年も経つと、資料が残っていない場合もあります。また、設置した当時から、建築費が高騰して、現在、設置する、再調達価格とは合わない場合もあります。
 その場合には、業者に見積をしてもらうことになります。ただし、注意しなければならないのは、立退後、移転先の内装工事を依頼する予定の業者に依頼する場合、賃借人のためにサービスをする場合があります。つまり、割増しです。
 割増しのつもりがなくても、再調達価格は、あくまでも、現在の内装を再現する工事価格です(*1)。ところが、業者がその点を理解していない場合もあります。新店舗で、内装を変えたいと依頼者である賃借人が考えている場合には、その内容で見積をすることがあります。そのため、現在の店舗(移転前の店舗)には、存在しない内装をすることを前提に見積をする場合もあります。

 そのため、これら内装工事費の算定も、他の項目(賃料差額や休業補償、営業補償など)とともに、不動産鑑定士に立退料の1項目として、算定してもらうのが好ましいと思います。不動産鑑定士にも色々な人がいますが、過去の資料を前提にする場合でも、業者が改めて算定した工事費用を前提にする場合でも、移転可能な什器備品や現存しない工事部分を除外して、純粋に内装工事の再調達価格を専門家の目で判断してもらうのが妥当です。

( *1) ここで言う、再調達価格は、あくまでも、立退料の計算のためのものです。立退料をもらった後は、賃借人は、新店舗でどのような内装をするのかは自由です。しかし、立退料の算定のための内装工事の再調達価格は、現在、実際に存在する内装を前提に算定する必要があります。(▲本文に戻る

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(2) 賃貸人側の再調達価格の計算方法

 賃貸人が内装工事費を計算する場合というのは、通常、訴えを起こす前に、不動産鑑定士が立退料の算定項目の1つとして、計算をします。

 ただし、その時点で、賃借人側がどこまで協力して資料を出してくれるのかは、ケースごとに違います。賃借人側が非常に協力的で、過去の資料を見せてくれる場合もあります。
 しかし、賃貸人、賃借人間で、立退の話し合いが座礁しているなど、賃貸人の依頼した不動産鑑定士が、店舗内に入ることができない場合があります。お客さんの振りをして、店舗内に入ることができても、厨房までは見ることができません。そのため、什器備品の把握さえできない場合もあります。

 その場合どうするかは不動産鑑定士の個性によります。酷い例だと変な理屈をつけて、内装工事費を0円とした不動産鑑定士もいました。
 賃借人が廃業して店舗から退去する場合に、内装をそのまま残しておくことが契約書に書いてあった例(大家がただで内装を手に入れて、次の賃借人に高価で貸すためです。時々このような契約書は存在します)で、不動産鑑定士の評価書には、契約書にこの項目がある場合には、立退料として内装工事費を払う必要がない、と書いてありました。
 契約条項の解釈ですから、不動産鑑定士が解釈することではありません。また、自主退去ではなくて賃貸人から退去を求められている場合に、なぜ、内装工事費が立退料の項目から消えるのか、弁護士としても、理解できません。変な理屈をつけて手を抜いたとしか思えません(手を抜いただけでなく、依頼者である賃貸人に有利になるように、立退料全体が極端に低くなっていました)。

 標準的には、どうするかと言うと、同種店舗への聴き取りや建築士の意見を聞いた上で統計資料を確認して推定できる平均的な工事単価を出し、これに店舗面積をかけて、再調達価格を推計します。
 これはあくまでも、推計ですから、賃借人が資料を出して争う場合には、資料や店内を見せてもらって、改めて計算するか、それとも、裁判所に、立退料の鑑定の請求をして、裁判所が選任した鑑定人に内装工事費を含めた立退料を算定してもらいます。
 裁判所に鑑定を求める場合、私鑑定(当事者が依頼した鑑定士による評価)の費用と裁判所が選任した鑑定人の鑑定費用が二重にかかります。しかし、訴え提起の時点で、一部推計があっても私鑑定があった方が、賃貸人としては訴訟の目処が立てやすく、裁判をスムーズに進めることができます。また、賃借人も私鑑定をして、二つの私鑑定に争いがある場合には、裁判所の鑑定を求めることになることが多いため(調整ができれば、裁判所の鑑定は求めません)、無駄に費用をかけることにはなりません。

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3. 経過時間の減価

(1) 減価の計算式

 再調達価格から、経過時間による減価をするのは、立退時点の内装の価格を算定するためです。
 再調達価格そのものは、新規の内装工事価格ですから、すでに何年(場合によっては30年~40年)も経過している内装は、経過時間に応じて劣化しています。つまり、それが現在の内装の価値です。それなのに新規の内装をするのでは、賃借人に過大な利益を与えることになるのではないか、ということで、経過時間を考慮して減価して、現在の内容の価格を算出する、というのが減価をする理由です。

 
 その算定式は、公共用地の取得基準(用対連基準)細則の15条で、内装工事費=再調達価格×再築補償率で求めるとされています。
 再築補償率は、以下の式によって求めることとされています。
 これによると、経過年数によって、価格のパーセントが下がります。耐用年数を越える場合(*1)は、理屈の上では、0円ですが、使用中の場合には、最低率として、20%とされています。

 この式だけでは何のことか分かりませんので、目処として一例をあげると、開店時の内装工事から14年が経過していたケースでは、再築補償率は75%になりました。つまり、内装工事費は、再調達価格の75%になります。なお、これも当該ケースの評価時点の話で、造作(内装)の耐用年数や年利率によって変わります。ただし、耐用年数は、公共用地の取得基準の中に附帯工作物耐用年数表があり、そこから数字を持ってきますが、耐用年数表は昔から同じ数字なので、今後も大きく変化することはないと思います。

(*1) 内装の耐用年数は、用対連基準の附帯工作物耐用年数表に記載されていますが、この耐用年数は、これを越えると物理的に使用できなくなる、というものではありません。これを越えても使用し続けることができますし、越えた後で短期間で使用不能になるものでもありません。(▲本文に戻る

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(2) 減価することの問題点

 自動車の物損の全損事故の場合でも、新車価格ではなくて、事故時の中古車価格で算定します。長く使っていた自動車の場合、事故前は普通に動いていたのに、事故現在の価格だからと言うことで、とんでもなく安く評価されて、被害者側が激怒することがあります。
 それでも、自動車の場合は、中古車市場があり、使用していた期間に応じた中古車の購入ができるという建前になっています。

 しかし、内装工事の場合、10年経過したから、その分を減価すると言われても、内装工事の依頼の際、10年経過した状態で、工事してくれ、というわけにはいきません。
 10年分を減価されると、減価された分が、賃借人の自己負担になります。
 再開発で、ビルの建替えをする場合には、ビルの所有者の賃貸人の都合で、賃借人は移転しなけばならなくなります。それなのに、内装工事費の一部を自己負担しなければならないことになります。

 そして、内装工事費は、移転後の開店の際に問題になります。極端な話、開店できないこともあり得ます。
  

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(3) 妥当性のための調整

 減価をすると賃借人に酷になることがあります。内装が古くなっても、現実に使用して営業をしている場合は、減価は妥当ではありません。そもそも内装が新しくなったからと言って、それだけで売上が上がるわけではありません。

 この場合、2つの方法で調整することが考えられます。
 1つは、減価しないで算定することです。減価は、公共用地の取得基準(用対連基準)に記載がありますが、ここで問題になっているのは、公共用地の取得ではなく、民間と民間の問題です。これについて特別な基準がないので、公共用地の取得基準を参考にしているのです。つまり、用対連基準に書いてあるから言って、そのとおりにしなければならないわけではありません。個別の事案の解決にとって、妥当な結果になるように解釈することは当然のことです。そこで、再調達価格は求めるものの、それに対して、再築補償率を乗じない、つまり、減価をしないのです。

 もう一つは、狭義の借家権価格で、調整する方法です(狭義の借家権価格については、「立退料(立ち退き料)の相場と計算方法」の「借家権価格と立退料」をご覧ください。ページが飛ぶので、ここに戻る場合は、画面左上の「←」をクリックしてください)。
 狭義の借家権価格のうち、賃料差額還元方式は、賃料差額として補償対象になりますが、控除法や割合法による狭義の借家権価格は、立退料を調整するために使われることがあります。
 例えば、30年以上も経営している飲食店の場合、内装工作費が減価されて再調達価格の20%程度になるのは、現在もそこで営業していることを考えると、妥当とは思えません。そこで、理屈の上では、考慮するのに疑問があるのですが、妥当な立退料額になるように、控除法や割合法の借家権価格を加えるのです。無論、それによって、立退料額が過大になるのは、逆の意味で妥当ではありません。その場合には、狭義の借家権価格の全額ではなくて一部を加算することになります。

 裁判所に鑑定を求めた場合、裁判所が選任した鑑定人が、特に賃借人からの主張がないのに、狭義の借家権価格を加算して調整をした例もあります。しかし、これは鑑定人の個性によるため、鑑定人が違うと、何の調整もしない場合もあります。ただし、最終的に立退料額を決めるのは裁判所ですから、鑑定後に主張して、裁判所が狭義の借家権価格を加算して調整したり、減価をしないようにしてもらう必要があります(理屈ではなく妥当性の問題なので、裁判所が取り上げるかどうかは裁判官の個性によります)。

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この記事は、2026年9月に書きました。

弁護士 内藤寿彦 (東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所  東京都港区虎の門5-12-13白井ビル4階(電話 03-3459-6391)