【目次】
1.立ち退き料の金額と相場
2.賃借人側の事情 
 (1) そこにいる必要性
 (2) 移転に伴う損失
3.裁判所の傾向
 (1) 経済的損失額と立ち退き料
 (2) 経済的損失額の算定方法
 (3) 裁判所での和解交渉
4.借家権価格と立ち退き料
 (1) 借家権価格とは
 (2) 狭義の借家権価格とは
 (3) 借家権割合方式とは
 (4) 裁判例と借家権割合方式

 

1. 立ち退き料の金額と相場

 相談に来られる方が賃貸人の場合でも、賃借人の場合でも、立ち退き料の金額が気になります。そこで、「立ち退き料の相場はいくらですか」という質問を受けますが、個々のケースごとに違います。算定方法の基準はありますが、この場所ならいくらとか、土地の価格の何%などという大雑把なものはありません。
 また、月額賃料額の何ヶ月分という相場もありません。月額賃料の何か月分で立ち退き料を決めた、という話は聞きますが、それは話し合いの場合、たまたま、それで折り合いがついたということです(*1)。裁判所はそのような算定方法をとっていません。立ち退き料は、賃料額が同じ場合でも、賃借人が物件を何のために使用しているかで、全く違います。住居として使っているのか、事務所(オフィス)として使っているのか、飲食店として使っているのかなどで、全く違います。

 裁判所の傾向ですが、ある程度の正当事由がある場合、立ち退きによって賃借人に発生する経済的損失(移転先で同じ営業を行うために必要となる費用など)をベースにして、それを調整して立ち退き料を決めています。
 建前としては賃貸人、賃借人双方の事情を考慮することになりますが、特に賃借人側の都合(その物件を使う必要性)が重要です。

 

(*1)賃貸人側が 「これくらい払わないと立ち退きに応じないだろう」という理由で数字を決め、賃借人に立ち退き料の提示をする時には、 「賃料の○か月分」とか「賃料の○年分」と説明することもあると思います。つまり、先に金額を決めて、その根拠の説明をしにくいので、賃料の○か月分などと言う場合もあると思います。

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2. 賃借人側の事情

 

(1) そこにいる必要性

 賃借人側は、現実にそこに住んだり、営業に使っているわけですから、物件を使う必要はあります。(*1)
 それでも「どうしてもそこでなければならないのか」という点では、賃借人によって、かなりの差があります。また、移転することでどれだけの負担が発生するのかも、賃借人によって差があります。

 住居として使っている場合も、単身で住んでいて他の物件に転居してもほとんど影響ない、という場合があります。家族で住んでいる場合には、子どもが小さくて転校はさせたくないので近隣でないと転居できないという場合があります。

 営業用の物件の場合でも、色々あります。例えば、事務所として使っている場合には、特に得意先が物件の周辺に多いという場合でなければ、どうしてもその物件でなければならないとは言えないことになります。また、得意先が周囲に多い場合でも、事務所の場合、近所に代わりの物件がある場合があります。逆に、店舗周辺の人が得意先の飲食店や、駅前など集客上有利な場所にある飲食店などはその物件でなければならない事情が強いと言えます)

 「そこにいる必要性」の違いは、移転する場合に移転先がどこになり、その結果どのような影響が起こるのか、という問題になります。
 賃料がそれ以前よりも上がる場所に移転しなければならない場合には、賃料の差額補償の問題が起きます。また、近隣に移転先がなく、移転した場合に従来の売上を維持できないと想定される場合には、営業補償(得意先喪失補償)の問題が起きます。

 

(*1)使用していないのに家賃を払って賃借している場合もあります。その場合は使用の必要性は大変に低いと評価されます。

 

(2) 移転に伴う損失

 移転先を探すためには不動産業者に依頼する必要があり、仲介手数料がかかります。礼金が必要な場合もあります。賃料がそれまでよりも高くなって、賃料差額が発生する場合には、その差額の負担も問題になります。

 また、賃借人は、移転先で、移転前と同じように、生活したり営業できなければなりません。そのため、飲食店で、内装に多額の費用をかけていて、移転先でも多額の費用をかけて内装をしなければならない場合があります。この場合の内装費が必要になります。
 備品が多くても、ほとんど移転先に持って行ける場合には、その部分は運送費用で足りることになります(移転の機会に備品を新しくしたい場合もありますが、それは損失とは言えません)。

 移転のために休業しなければならないのなら、休業期間中の休業補償が必要になります。移転前の店舗で営業しながら、移転先の店舗の内装などが必要な場合には、内装が完成するまで移転できないので、二重に賃料を支払うことになります。これも移転に伴う損失です。飲食店などの場合には、移転によって、多かれ少なかれ、一旦は売上が落ちるので、それが元の売上に戻るまでの間の補償が必要になります。

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3. 裁判所の傾向

(1) 経済的損失額と立ち退き料

 最近の判決から一応、言えることは、立ち退きに伴って賃借人に発生する経済的損失は補償しましょう、という傾向はあります(*1)

 例えば、住居の場合、最低限、移転に要する費用(引越費用の他、新しい物件を借りるための費用)は必要です。家族で居住している場合には、それだけでもかなりの金額になります。また、営業用の場合には、移転のための費用の他に営業補償が必要とされる傾向があります。

 営業補償の内容も個々様々です。
 特に、飲食店などの場合には(あくまでも、その場所での営業が順調な場合ですが)、移転先店舗の内装費、移転先で営業ができるまでの期間の補償(休業補償)の他、売上が順調になるまでの期間の補償まで必要だとされることがあります。

 なお、賃借人に発生する経済的損失額が、立ち退き料の算定に考慮されるとは言え、経済的損失額がそのまま立ち退き料額として認められるとは限りません。

 裁判例の中には、「賃貸人に一応の正当事由があるので、相当の立ち退き料の支払いがあれば、立ち退きを認める」ことを前提として、賃借人(事業者)の立ち退きによる損失額を算定した上で、「賃貸人側にも一応の正当事由があるので、賃借人側の経済的損失の全額を立ち退き料とするのではなく、その一定の割合を立ち退き料とするのが相当である」とした判決がいくつもあります。つまり、賃借人に発生する経済的損失額よりも、低い金額を立ち退き料の金額にした判決です。ただし、賃借人の主張する立退料額や、不動産鑑定士が算出した立退料額があまりにも高すぎるため、このような言い方をして調整する(現実の経済損失額と思われる金額にする)場合もかなりあるように思います。判決は、必ずしも、判決理由に書いてあることが全てではないのです。

(*1) 時代が違うので、バブル期の判決は参考になりません。バブル期の話をもとに多額の立ち退き料が取れると思うと失敗します。

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(2) 経済的損失額の算定方法

  移転に伴う経済的損失額の計算方法は、「公共用地の取得の補償基準」を参考にするのが通常です。公共用地取得の補償基準というのは、国や自治体が、公共事業のために賃借人などを立ち退かせる場合の補償基準です。補償の内容は、賃借人が他の場所で物件を借りて居住したり、営業したりする場合の経済的損失の補償です。正当事由を理由にする賃借人の立ち退きの問題は、公共用地の取得ではないのですが、この基準を参考にします。

 これは法律でそのように書いてあるわけではなく、また、裁判所の中でそのような取り決めがあるわけでもありません。

 この種の裁判では、不動産鑑定士が算定した立ち退き料の意見書が出されることが多く(高額の立ち退き料が問題になるような例では通常、不動産鑑定士の意見書が出されます)、その意見書で公共用地の取得の補償基準を参考にして、移転に伴う賃借人の損失額を算定しています。他に基準がないからです。このため、裁判所も、公共用地の取得の補償基準を参考に立ち退き料額を算定することになります。

 ただし、公共用地の取得の補償基準も、補償額が自動的に算定できるような単純なものではありません。公共用地の取得のため、迅速に、公平に補償額を決める必要があり、画一的な部分もありますが、事案に合わせて調整する部分もあります。また、移転先がどこになり、その結果、賃料額がいくらになるのかなどは、基準には書いてないので、実情で判断することになります 。その上、立ち退き料の算定に利用するのは、あくまでも、「参考」として利用するので、公共用地の取得の補償基準で画一的に決まっていても、実態に合わせて調整することになります。この「調整」についても、特に、基準はありません。

 このため、原告、被告双方がそれぞれ不動産鑑定士に依頼し、それぞれの不動産鑑定士が公共用地の取得基準を参考に算定した場合でも、算定額に差がでます(かなり大きな差がでることもあります)(*1)
 裁判所が判決する場合、それらの算定の間を取るわけではなく、双方の算定を比較して妥当と思われる方を採用したり、さらにそれを調整して立ち退き料を決めるという方法を採っているものが多く見られます。(*2) (*3)

 賃貸人側が提出した、公共用地の取得基準をかなり厳しく適用した(賃貸人に有利なように低く見積もった)と思われる賃貸人側の意見書の経済的損失額(賃借人に発生する経済的損失額)に対して、賃借人側の意見書の中の「狭義の借家権価格」(土地の価格の一定割合を立ち退き料に加算する計算額)の1/2を上乗せしたものを立ち退き料とした裁判例もあります(東京地裁平成25年 9月17日判決)。この場合は、見かけの上では、経済的損失以上の立ち退き料を認めたことになります。しかし、実際には、裁判官から見て、賃貸人側が算定した経済的損失額では低すぎるけれども、賃借人側が算定した経済損失額(狭義の借家権価格を除くもの)では高すぎるので、その調整をしたのだと思います(なぜ、狭義の借家権価格の1/2なんだ、というのは野暮というものです)。

(*1)後でお話する狭義の借家権価格を考慮した場合には、何千万円や場合によって億単位で差がでることもあります。しかし、公共用地の取得基準を参考にして経済的損失額だけで算定した鑑定意見でも、千万単位で差がでる場合があります。

(*2)一般に、原告、被告双方から専門家の意見書が出た場合、裁判所が選任する鑑定人の鑑定が行われることがあります。立ち退き料を決める場合には、裁判所が鑑定人を選任して鑑定をするかどうか、明確なルールはありません。裁判所が鑑定人を選任した場合でも、多くの判決が、鑑定人の鑑定した金額をさらに調整しています。立ち退き料に関しては、裁判所が選任した鑑定人の鑑定でも裁判官が納得するとは限らないということです。それならば、やらない方がいいという場合もあり得るわけです(賃料の増減額請求の裁判の場合は、裁判所が選任する鑑定人の鑑定結果がほとんどそのまま判決の内容になる場合が多いとされています)。

(*3) 裁判所は、他の証拠関係と合わせて不動産鑑定士の意見を検討します。その中でも、賃借人の営業実態や経済的な事情などを考慮します。これらについては、弁護士が証拠を集めて説明と証明をしなければなりません。賃貸人側の弁護士は、それらを争い、説明と証明をすることになります。

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(3) 裁判所での和解交渉

 この種事案は、裁判になっても、判決で終わるのではなく、裁判所での和解で終わるものがほとんどです。実際の立ち退き料の額は、判決ではなく、和解で決まると言えます。なお、賃借人の場合、立ち退き料の金額だけでなく、立ち退きのための準備期間も必要ですが、判決では、猶予期間をもうけることができません。

 このようなこともあって、判決で終わる前に裁判官は、和解を勧めます(裁判所での和解が成立すると判決と同じ効果があります)。和解交渉になると、それまで双方が書面で緻密に主張を展開していたのが嘘のような大雑把な話になることは珍しくありません。双方が主張する金額の開きがかなり大きいので、そうでもしないと解決しないからです。だったら最初から大雑把な話をすればいいじゃないかと思うかも知れませんが、大雑把な話と言っても、それ以前の緻密な主張や証拠が前提になっています。

 和解交渉は裁判官が主導します。和解ができない場合には、裁判官は、判決を書きます。そして、裁判官は、将来の判決を考えた上で当事者双方の調整をします。このため、それ以前に、裁判官がこちらの方を向いてくれるように、主張や証拠の提出をする必要があります。この点が十分にできていないのに、金額だけ口にしても、いい結果は得られません。

 ただし、弁護士は裁判官の頭の中は分かりません。裁判官が、賃貸人、賃借人双方の事情をどのように見ているのか、そして、判決になったらどうなるのか、弁護士はこれらを考えながら、和解に臨む必要があります。その上で、こちらの主張をどこまで通すか、妥協するのか、裁判官の顔色を見たり(和解の時は当事者ごとに裁判官と話をするのが通常です。このため、裁判官が判決の見通しを明確に発言することもあります)、相手方の腹(落としどころをどう考えているか)を探りながら、検討していくことになります。

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4. 借家権価格と立ち退き料

(1) 借家権価格とは

 立ち退き料の相談を受けるときに、借家権価格はどうなりますかと聞かれることがあります。
 借地の場合には、借地権価格というものが存在します(借地権価格や借地権割合については、「弁護士による借地の法律相談」の解説をご覧ください)。しかし、建物賃貸借で借家権価格というものが実際に存在するかと言われると、答えは「ありません」というのが正解だと思います。

 ただし、不動産鑑定用語で「借家権価格」という場合、立ち退き料そのもののことを言う場合があります。それだけなら言葉の問題になります。

 問題は、立ち退き料と同じ意味での「借家権価格」の中に、「狭義の借家権価格」(狭い意味での借家権)というものがあるのか、ということです。移転費用など現実に賃借人に発生する経済的損失だけでなく、「狭義の借家権価格」という賃借人が持っていた権利があり、これが移転によって失われるというのが「狭義の借家権価格」の発想です。つまり、建物の賃借人にも、借地権のような経済的に価値のある権利があって、それが立ち退きによって失われるから、その補償が必要だというのです。移転に伴う経済的損失に、「狭義の借家権価格」を加えたものが立ち退き料になる、という考え方です。

 借地の場合、地主に承諾料を払うことが条件になっているとは言え、借地権を第三者に売ることが可能です。地主の承諾がなくても、裁判所が承諾に代わる許可を出してくれます(借地の譲渡や許可の裁判については「借地の譲渡」をご覧ください)。そのため、取引の相場価格があり、「借地権価格」というものが存在します。

  ところが、建物賃貸借、つまり、借家の場合、権利を第三者に売ることができません。賃貸人の承諾があれば、売ることはできますが、裁判所の許可の制度がないので、家主が承諾するかどうかは自由です(通常、承諾しません)。このため、特殊な場合を除いて、売買取引の対象になりません。そのため、売買の相場価格のようなものはありません。それなのに、「狭義の借家権価格」があるというのは、おかしな話です。

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(2) 狭義の借家権価格とは

 狭義の借家権価格は、発想の異なる複数の算定方法があります。種類の違う狭義の借家権価格があることになります。主なものは「賃料差額還元方式」(簡単に言うと「賃料差額補償」です)と、「借家権割合方式」、そして、「控除法」という算定方法です。
 このうち、「控除法」は、計算方法が一定ではなく、はっきり言えば、いかようにも数字が出てきます(*1)
 また、この3つの方法で算定すると、3つの数字が出てきます。同じ賃借人が立ち退きをするのに、3つの狭義の借家権があるというのは、おかしいのでこれを調整して1つにしますが、どう調整するのかは、不動産鑑定士によってもまちまちです(*2)

 ただし、3つの算定式のうち、賃料差額還元方式というのは、賃料差額補償と同じです。現在借りている建物の賃料に対して、移転先の建物賃料(同種の平均的な建物の賃料)が高い場合には、移転するとそれだけ高い賃料を支払うことになるため、一定の期間(通常は2年程度)、その差額を補償しましょう、というものです。
 この賃料差額補償は、公共用地の取得基準でも補償が認められています(このため、補償期間も、公共用地の取得基準の補償期間を使う例が多いです)。
 つまり、賃料差額補償については、「狭義の借家権価格」と言うまでもなく、経済損失の補償に含まれると言えます。
 問題は、3つの手法のうち、「借家権割合方式」という手法です(「控除法」は論外と思います)。

(*1)控除法というのは、「現在の賃貸物件の価格」と、もしも、その物件が賃貸物件でなくて、「賃貸人が自分で使っていたと仮定した場合の価格」の差を算定するという建前です(借りているのは「建物」だけですが、計算するときは「建物とその敷地の価格」で計算します)。自分で使っていた方が価格が高くなることを前提としています。そして、そこから、現在の賃貸物件の価格(貸している状態の物件の価格)を引いた差額が、狭義の借家権価格だというのです。これには色々と批判があります。そもそも、こんな計算ができるのか、という問題があります。また、何とか計算して数字を出しても、なんでその数字に見合う権利を、賃借人が持っていたと言えるのか、という問題があります。

(*2)3つの計算式から数字を出して、この3つを並べて調整する鑑定士もいます(調整の仕方も一定の決まりはありません)。この3つのうち、賃料差額補償だけが合理的だとして他の計算式を切り捨てる鑑定士もいます。賃料差額補償に、借家権割合方式で算定した数字の一定割合を加算する場合もあります。

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(3) 借家権割合方式とは

 「借家権割合方式」は、借地権価格(更地価格の70%前後)の30%に建物の価格の30%を加えたもので算定するというものです。それだけ?と思うかも知れませんが、それだけです。計算は簡単です。しかし、場所や物件によってはかなり高額になります(移転に伴う経済的損失の合計額の数倍になる場合もあります)。
 ところが、この算定式、昨日借りた場合でも、30年前に借りた場合でも同じ金額になります。借りていた期間が考慮されないのです。 また、業種その他、賃借人側の具体的事情も考慮されません

 そもそも、なんでこんな算定式が生まれたのかと言うと、これにも問題があります。この算定式は、相続税の対象となる遺産のうち貸家(第三者に賃貸している建物)の価格を減額評価する場合に使われるものです(通常の土地建物価格から借家権割合方式で計算した借家権価格を控除したものが貸家の価格とされます。アパートを建てると相続税の節税になると言われている理由がこれです)。つまり、相続税申告の時の賃貸人の財産の評価方法です。建物を借りている賃借人の権利の評価ではありません(建物を借りていても遺産の評価額は0円です)。
 税務上でも、このようなものですから、賃借人がこのような権利を持っていると考えるのはおかしな話です。

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(4) 裁判例と借家権割合方式

 東京高裁の判決例(平成12年3月23日判決)は、立ち退き料の算定に、借家権割合方式による狭義の借家権価格を加えることを否定しました(つまり、経済的損失額だけを立ち退き料額としました)。
 ところが、これで決着がついたわけではありません。

 東京高裁の判決後も、東京地裁などで立ち退き料を決める際に、「借家権割合方式」で算定した狭義の借家権価格を正面から認める判決が出ています(否定する判決もあります)。
 裁判所が選任した鑑定人(不動産鑑定士の中から選任されます)の鑑定書が借家権割合方式で算定している場合には、裁判所も無視できなかったのだろうと思います。
 このため、立ち退き料の算定は、裁判官によってまちまちではないか、という見方もあります。
 ただし、借家権割合方式で算定した鑑定書を採用しても、判決は、その何分の1かに減額して、立ち退き料の金額を決めるのがほとんどです(鑑定書の中で調整して減額してある場合にはそのまま採用する場合もあります)。そのままでは立ち退き料が高くなり過ぎるという判断だと思います。
 それでも、賃借人側からすれば、鑑定書で借家権割合方式を考慮してもらえば、減額されても、その分加算されて、高額な立ち退き料がもらえるように思えます。
 しかし、そんな単純な話ではないと思います。

  例えば、30年以上も借りているような場合(特に営業用の場合)には、純粋な経済的損失補償に、若干のおまけをつけてあげたいというのも、人情かも知れません。また、得意先喪失補償があるとは言え、移転によってそれでは賄えないリスクが発生する場合もあります(*1)。このようなリスクは、算定できないリスクですから、算定式がありません。
 このような場合に、借家権割合方式で算定した狭義の借家権価格の何割かを、算定できる経済的損失額に加算して調整するというのは、発想として理解できないわけではありません(そこに数字があるので、その数字の一部を持ってくる、ということです)。実際にこうした発想で立退料を算定したと思われる判決は多数あります。
 つまり、借家権割合方式で数字だけ大きくなった鑑定があっても、それだけで立退料が高くなるわけではありません。賃借人側の弁護士なら、それに見合うだけの損失リスクがあることを裁判官に説明する必要があります。賃貸人側の弁護士なら、そのようなリスクがないことを説明する必要があります。

(*1)店舗周辺の顧客が中心の飲食店の場合、近隣に代替店舗が見つからないと廃業のリスクがあります。ところが、公共用地の取得基準の「得意先喪失補償」では、移転した後、一旦売上が落ちても、いつかは売上が回復することを前提に算定するため、廃業リスクが考慮されません。

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内藤寿彦法律事務所・弁護士 内藤寿彦 東京都虎の門5-12-13白井ビル4階(電話 03-3459-6391)