建物所有を目的とする借地権は、財産権として売買の対象になります。
 しかし、借地権を第三者に譲渡するためには、地主の承諾が必要です。通常は、借地権価格の1割程度の承諾料を地主に支払って承諾してもらいます。承諾してもらえない場合には、裁判所に地主の承諾に代わる許可の裁判の申立ができます。
  ここでは、借地権の譲渡と転貸(また貸し)について、地主の承諾がいらない場合や、承諾が必要なのに地主が承諾してくれない場合の裁判所の手続など、弁護士が解説します。ご相談もどうぞ。  

【目次】
1.借地権の譲渡・転貸とは
 (1) 地主の承諾が必要な譲渡・転貸
 (2) 地主の承諾が不要な場合(借地上建物の賃貸)

2.地主が承諾しない場合(借地非訟)
 (1) 地主の承諾に代わる裁判所の許可
 (2) 申立とその後の手続
 (3) 申立には3つの条件があります
 (4) 裁判所の許可の基準
 (5) 許可決定とその後の手続
 (6) 手続にかかる時間

3. 買主のリスク(借地権者が協力しない場合と地主の介入権)
 (1) 売主が積極的に動かない場合
 (2) 地主の介入権
  ア.地主の介入権とは
  イ.介入権が認められない場合

4.建物を建て替えて、子どもの名義にしたい 
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1.借地権の譲渡・転貸とは

(1) 地主の承諾が必要な譲渡・転貸

 借地権の譲渡とは、地主に承諾してもらい、借地権者の地位を第三者に移すことです。借地権は借地上の建物に付随する(くっついている)ものなので、通常は、借地上の建物の所有権の移転とともに行われます。
 ところが、建物の所有名義を移転する(移転登記をする)こと自体は、地主の協力がいりません。つまり、地主に無断でできます。そして、建物の所有名義の移転により、借地権も移転したことになります。しかし、地主の承諾なしに借地権を譲渡すると、地主に借地契約を解除されます。

 この譲渡に似ているのが、借地権の転貸です。転貸(てんたい)というのは「また貸し」のことで、借地権者が地主との関係をそのままにして、第三者に土地を貸すことを言います。ただし、譲渡と同じように、借地上の建物の所有権の移転をする場合に限定されます(借地上の建物を貸すだけの場合は、借地の転貸ではありません)。つまり、建物の所有権を第三者に移転させ、借地権は移転させないで又貸しするということです。この場合も、地主の承諾を取らないと、借地契約を解除され、転借人とともに土地を地主に返さなければならなくなります。(*1) (*2)

 このように譲渡も転貸も地主の承諾が必要です。地主が承諾してくれない場合には、裁判所が地主の承諾に代わる許可を出す制度があります。裁判所の許可があれば借地権の譲渡ができるため、借地権は取引の対象になります。

(*1) 転貸は、転借人から地代を取る場合だけでなく、使用貸借(ただで貸すこと)も含みます。また、建物の所有名義全体を移す場合だけでなく、もとの借地権者との共有名義にする場合も転貸です。ただし、借地の転貸と言えるためには、借地上の建物の名義が転貸人の名義(共有の場合は共有名義)になる必要があります。(▲本文に戻る

(*2) 親族間(特に夫婦、親子)で、建物の名義を共有にすることは、それほど珍しくないのですが、それが転貸だという意識がなく、地主の承諾を得ていなかったということがあります。注意する必要があります。なお、親族間の譲渡、転貸の場合、解除までは認められないこともありますが、事前に地主の承諾を得るか、承諾に代わる裁判の申立をするべきです。(▲本文へ戻る)

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(2) 地主の承諾が不要な場合(借地上建物の賃貸)

 借地上の建物を第三者に貸す場合、建物の登記名義は借地権者のままですが、建物が賃貸されると、建物の賃借人がその土地も使うことになるので、借地権者以外の第三者が土地を使うことになるように見えます。

 しかし、この場合は、借地権を譲渡や転貸したことにはなりません(前記のとおり、借地権の転貸は、借地上の建物の所有権を移転する場合をいいます。建物を貸す場合には建物の所有名義は変わりません)。そのため、地主の承諾を取る必要はありません。当然、承諾料を払う必要もありません( 最高裁昭和38年 2月21日判決) 。(*1) (*2)

(*1)通常の借地の契約では「建物所有目的」としか書いていないので、建物を第三者に貸すことができます。ただし、まれに、借地上に建てられる建物の種類や使用目的(用途)が契約書に書いてある場合があります。その内容によっては地主の承諾がないと第三者に貸すことができない場合もあります。例えば、「アパートとしての使用を禁じる」という場合です(この場合はアパートでなければいいので、一軒家をまるごと貸すことは許されることになります)。また、「土地の賃借人の住居として使用すること」という条項があるケースもありました。なお、このような場合でも、借地契約の条件変更(契約条項の変更)について地主の承諾に代わる裁判所の許可を求めることができます。

(*2) その他、地主の承諾が不要な場合として、相続があります。相続で相続人の1人が借地を譲り受ける場合(遺言書がある場合や遺言書がなくて遺産分割する場合)、承諾は原則として不要です。これについては「借地権の遺産分割の方法」をご覧ください(ただし、相続人以外の人に遺贈する場合や死因贈与の場合は承諾が必要です。これについては「借地権の遺贈・死因贈与」をご覧ください)。また、借地権の持分譲渡・共有借地の分割や、離婚による財産分与で借地上の建物を譲る場合にも、承諾が不要だったり、承諾がなくても解除されない場合があります。これについては、「借地権の共有持分の譲渡」をご覧ください。

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2.地主が承諾しない場合(借地非訟)

(1) 地主の承諾に代わる裁判所の許可

 承諾料には一応の相場がありますが、あくまでも地主が承諾しなければ譲渡はできません(無断で譲渡すれば借地契約を解除されるおそれがあります)。転貸も同様です。
 しかし、地主が承諾しない場合、裁判所が、地主の承諾に代わる許可をすることができます。これがあれば地主が承諾をしたことになります。借地権者は、裁判所にこの許可の申立をすることができます。

 この裁判手続のことを「借地非訟」と言います。借地非訟は、譲渡許可、転貸許可の他、建て替えの許可、非堅固建物所有目的から堅固建物所有目的への条件変更の許可などがあります。「非訟」というのは、訴訟ではない、という意味です。しかし、借地非訟は、一般傍聴ができないだけで、法廷のような場所で裁判のような手続をします(建て替えの許可については「借地上の建物の建て替えと禁止特約」、堅固建物の所有目的への条件変更については「裁判所に条件変更の許可を求めることができます」をご覧ください)。

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(2) 申立とその後の手続

 申立は、申立書と資料を裁判所に提出します。申立書の様式は、裁判所のホームページからダウンロードできます。一般の人でもできるようにとの配慮かと思いますが、実際には、一般の人が自分で書くのは相当大変です。また、次にお話する手続の問題もあるので、弁護士に相談した方がいいです。(*1)

 申立書が受け付けられると、1か月半くらい後に期日が指定され、法廷のような場所で、地主側と向き合って、裁判みたいな手続をします(関係者以外の傍聴は認められません)。書面審査だけで決定がでるのではありません。

 この手続の中で、地主側が介入権の行使をする場合もあります(介入権については、「地主の介入権」をご覧ください)。また、時には地主が借地権の存在や、借地の境界を争う場合もあります。借地非訟を担当する裁判官は、借地権の存在や境界について、暫定的な判断をして、譲渡の許可、不許可の決定をします(最終的には、借地権の存否や境界は正式な普通の裁判で決まります)。暫定的な判断と言っても証拠が必要です。裁判所が証拠を集めてくれるわけではないので、申立人側で証拠を提出する必要があります。

 また、法廷のような場所での手続が一応完了すると、鑑定委員会が承諾料や介入権の金額を決めるために、現地で土地や建物の確認をします。そして、鑑定委員会の意見を待って、裁判官が承諾料や介入権の金額を決めます(地主から介入権の申立がなければ、介入権の金額は決めません)。

(*1) 仲介を依頼した大手不動産業者から「自分でできますよ」と言われて、不動産業者に相談しながら自分で申立書を書いて裁判所に提出したものの、その後の手続ができそうもない、ということで相談に来た方がいます。ところが裁判所に提出した申立書を確認したら、「これはダメだ」という内容で結局、全て書き直しました。裁判所が受け付けているので一応の要件は充たしていたのですが、相手方から指摘を受けると無駄に時間がかかるだろうと思う内容でした。大手不動産業者でも借地取引の経験がない社員が多いのが実情で、取引経験があっても借地非訟の手続は知らないのが当然です。(▲本文に戻る

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(3) 申立には3つの条件があります

 裁判所に申し立てをするのに、大事な点が3つあります。

 1つは、この申立は、譲渡の前にしなければなりません。建物の移転登記または建物の引渡前なら申立は可能です。承諾があることを条件とする売買契約を結ぶなどした上で、許可の申立をするのが通常です。(*1)

 2つめは、申立の時に、譲渡の相手が決まっていなければなりません。どういう人に譲渡するのか分からないと、譲渡した場合に地主に不利になるのかどうか判断できないからです。裁判所の許可をもらってから不動産仲介業者を通じて買主を探すということはできません(仲介業者を通じて借地権を買いたいという人を探し、それから裁判所に申し立てをすることになります)。

 3つめは、裁判所に申立をする場合には、借地上に建物がなければなりません
 借地上に建物が建っていない場合に、借地権だけを譲渡したいので、裁判所に許可してほしい、という申立はできません。(*2)
 この点は借地の一部を譲渡する場合も同じです。建物が建っていない部分を譲渡したいと思っても、裁判所に許可の申立をすることはできません。

  なお、これらはあくまでも裁判所の許可を求める場合の話です。
 地主の承諾の内容には制限がないので、予め地主の承諾をもらって不動産仲介業者を通じて売り出すことは可能です。
 また、借地上に建物がない場合でも、地主の承諾があれば、借地権を譲渡することができます。

(*1) 裁判所の許可決定の前に、建物の引き渡しをしたり、建物の所有権移転登記をすることはできません。そのため、地主の承諾もしくはそれに代わる裁判所の許可が確定したときに売買の効力が発生する契約書(これを停止条件付き売買契約といいます)を作成するのが適当です。ところが、不動産業者が作った契約書の中には、契約書作成のの時に売買契約が成立し、裁判所の許可が得られなかった場合には、買主(譲受予定者)が契約を解除できるという内容のものもあります。その場合でも、引渡や移転登記をしなければ一応、問題はありません。しかし、契約書には引渡の時期などが記載してあり、契約書のとおりだとすると、裁判所の許可の前に引渡や移転登記をしなければならないことになります。このような問題もあるので、契約を結ぶ前に(結んだ後でも契約の変更として)、弁護士に、契約書の確認と必要があれば修正をしてもらうべきです。(▲本文に戻る

(*2) 建物の建替えをしようとして、地主が建替えの承諾をしたので、建物を取り壊したら、建替え資金の融資を受ける都合上(借地権者が高齢のため)、借地権者を同居の子どもにする必要が生じたのに、地主が譲渡の承諾をしてくれない、という相談がありました。この場合、建替え承諾があるので、建物が存在する場合と同様に裁判所が取り扱ってくれる可能性がないのかどうかと思いましたが、何とも言えません(法律の条文を読む限りはダメです)。借地上の建物を取り壊すのはよくよく注意した方がいいです。(▲本文に戻る

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(4) 裁判所の許可の基準

ア.原則は譲受人の資力と承諾料

 裁判所の許可の基準ですが、裁判所は、第三者に譲渡しても地主に不利にならないと判断したとき(普通はそのように判断されます)、承諾料の支払いを条件に許可を出します。
 借地権譲渡の承諾料の相場は、一般的には、借地権価格(更地の6~7割)の10%とされています(譲渡代金の10%ではありません)。借地権価格は、裁判所が選んだ鑑定委員会の鑑定に基づいて決めます。

 借地権の譲渡を受ける者が、地代の支払い能力があるのかどうか、個人であれば収入の証明、法人であれば決算書などの提出を求められますが、借地権を買おうとする個人や法人ですから、この点が問題になることはあまり考えられません。

イ.借地期限が迫っている場合や建物の朽廃

 許可が認められない場合とは、借地の期限が迫っている場合(期限まであと1年という時に申立をする場合)や、建物が期間内に朽廃すると認められる場合(ただし、合意で期間を決めていなかった場合に限ります)です。このような場合には、地主に不利益になるということで許可されない場合があります。(*1)

(*1)借地権の譲渡は、借地権者が借地を使う必要がなくてお金に換えたい場合に行われます。それなのに、借地を使いたいという人に借地権が譲渡されてしまうと、地主がその土地を使う必要性があっても、借地権の満了の時に更新拒絶が認められない可能性があります。そこで、申立が満期に近く、地主に借地を使う必要性があって、現在の借地権者のままだとしたら、更新拒絶が認められると思われる場合には、譲渡許可が認められない場合があるとされています。(更新拒絶については、「借地の更新拒絶(契約終了の正当事由)」をご覧ください。また、更新拒絶と借地権譲渡の関係は、その記事の中の「借地権を売る必要がある場合」をご覧ください。ページが飛ぶのでここに戻る場合は、画面上の左端の「←」をクリックしてください)(▲本文に戻る

ウ.譲受人の借地の使用目的

 借地を譲り受けようとする人の使用予定によっては、譲渡が認められない場合もあります。特に問題になるのは譲渡後の建替え予定です。譲渡した後で現在の建物を取り壊して新しい建物を建てることが予定されている場合に、地主の不利益になることが予想できる場合があります(*2)
 例えば、建替えについての裁判所の許可の申立では、分譲マンションへの建築は認められない扱いになっています。譲渡承諾の許可のみを求めた場合でも、譲渡先が分譲マンション業者で譲渡後に分譲マンションを建てることを予定している場合には、譲渡許可の段階で、地主が不利益になることが予想されるため、譲渡許可の申立が認められないことになります(建替えが許可されない場合については、「借地上の建物の建て替えと禁止特約」の中の「申立が許可されない場合」をご覧ください。ページが飛ぶので、ここに戻る場合には、左上の「←」をクリックしてください)。(*3)

(*2) 建替えは譲渡後ですから、本来は譲渡許可をもらい、その後で譲受人が建替えの許可を求めることになりますが、現在の借地権者が申立人になって、譲渡許可と建替え許可の2つの申立を同時にすることも許されています。無論、原則どおり、先に譲渡承諾の許可の申立だけすることも可能です。(▲本文に戻る

(*3) 地主側が譲渡承諾を求められた場合も、この点は注意する必要があります。譲渡先がマンション業者で分譲マンションを建てる予定だと知りながら、譲渡承諾料をもらって譲渡承諾をしてしまうと、譲渡後に、マンション業者から建替えの申し入れがあった場合に拒否するのが難しくなります。(▲本文に戻る

エ.借地の一部譲渡

 借地の一部を譲渡することも認められます。ただし、この場合も、建物と一緒に借地権の一部を譲渡しないと、裁判所の許可を求めることはできません。一部譲渡というのは、借地上に複数の建物があり、そのうちの1棟と一緒に借地の一部を譲渡するような場合です。
 しかし、借地の一部を譲渡すると、地主が著しく不利になる場合があります。その場合には申立は認められません。
 借地の一部譲渡をすると、譲渡されなかった部分と譲渡された部分が、別々の借地権者のものになります。そのため、借地が分割されます。このように分割された借地の一方が、建築基準法上、建物の再築ができなくなったり、借地の形が悪くなる(不整形地になる)場合があります。その結果、土地の価格が下がり、地主が著しい不利益を受けることになるため、申立が却下される(許可を認めない)ことがあります(東京地裁昭和45年9月11日決定)。

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(5) 許可決定とその後の手続

 譲渡を認めるという決定は、地主からの即時抗告がなければ14日で確定します。

 決定は、確定後○○日以内に承諾料を支払うことを条件に許可する、という内容です。期間内に承諾料を支払えば( 地代の振り込み口座などに送金すれば足ります)借地権の譲渡ができます。

 なお、借地権者と買主との関係ですが、承諾があったら売買が成立するという内容の契約を結ぶのが普通です(この契約書も、申立のときに裁判所に提出します)。このため、確定した後、承諾料を支払い、売買を実行します。そして、建物の登記名義を買い主に移します。借地権はもともと登記していないので登記手続はしません。しかし、建物の登記が移転すれば、借地権も移転したとみなされ、第三者にも対抗できます。

 許可決定に対して、地主側は、決定から14日以内に即時抗告(普通の裁判の控訴のようなものです)ができます。それから14日以内に抗告の理由書を提出し、今度は、高等裁判所が審理をします。審理と言っても、1からやり直すわけではないので、通常は、借地権者側が反論の書面を提出するなどします。高裁が地裁の決定に問題がない(即時抗告に理由がない)と判断すると、即時抗告棄却の決定を出します。これで、許可の決定は確定します(最高裁に抗告しても確定はストップしません)。

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(6) 手続にかかる時間

 申立をしてから、決定まで平均8か月かかるとされています。
 平均8か月といいますが、8か月はかかると思った方がいいです。大した問題もないのに1年くらいかかることもあります。時間がかかる原因の1つは、裁判所が鑑定をするからです(この鑑定に基づいて承諾料を決めます。なお、鑑定費用は国が持つので申立人の負担にはなりません)。

 裁判所の許可は、特定の買い主に対して譲渡することの許可なので、その買い主が契約から降りてしまうと決定を取っても無駄になります。時間がかかることは予め買い主に説明して納得してもらう必要があります

 なお、例外的に早く終わる場合として、申立後の早い段階で、申立人(借地権者)と地主側とで和解(裁判所での和解)をして決着をつける場合があります。これは、譲渡すること自体は地主も異論がないのに、承諾料の金額(その前提になる更地の価格)に争いがあるようなときに、裁判官が承諾料について和解案を出して解決する場合です。通常は鑑定委員会の意見がないと双方納得しませんが、東京地裁の民事22部のような特別部の裁判官の意見の場合、当事者も納得しやすいと言えます。ただし、ある程度、借地権者側で譲歩すること(急いでいるのは借地権者ですから)、申立後早い段階で地主が弁護士に依頼して、地主が弁護士を信頼していることなどの事情が揃わないと和解は難しいです。当事者が感情的にもめているような場合には難しいです。また、和解は双方が納得しなければ成立しないので、一方的に有利な内容で和解をしたいと思ってもダメです。

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3.買主のリスク(借地権者が協力しない場合と地主の介入権)

(1) 売主が積極的に動かない場合

 借地権者から借地とその上の建物を買おうという人は、借地権者と契約をします。通常は、地主の承諾や裁判所の許可を条件として、借地上の建物を借地権と一緒に買う、という条件付きの売買契約です。
 ところが、売買契約を結んだのに、借地権者が積極的に動かないということがあり得ます。通常の土地の売買契約の場合(借地ではなく土地所有権の売買契約の場合)には、買主は、代金を提供すれば、裁判で強制的に土地の引渡と所有権移転登記を求めることができます。ところが、借地の場合には、建物の引渡やその移転登記はできますが、地主の承諾がないと、借地契約を解除されてしまいます。

 問題になるのは、地主の承諾に代わる裁判所の許可申立です。借地権者が消極的でも、買主が地主と話をして地主が承諾してくれるのなら、借地権を譲り受けても地主から解除されることはありません。

 ところが、地主の承諾に代わる裁判所の許可の申立は、借地権者しか申立ができません。買主は申立ができません
  民法423条に「債権者代位権」という規定があり、権利のある人(債権者)は、義務のある人に代わって、法律上の行為ができることになっています。しかし、地主の承諾に代わる裁判所の許可申立については、買主が債権者代位権を行使して、借地権者に代わって申立することは認められていません。また、強制執行の手段として、間接強制という手段(義務を履行するまでの間、お金を支払わせて、義務を強制する手続)がありますが、地主の承諾に代わる裁判所の許可の申立のようなものは、やる気のない人に強制することはできません。

 つまり、買主が代わりに申立をすることも、申立をするように強制することもできません
 このため、売買契約をする時に、借地権者が地主の承諾に代わる裁判所の許可の申立をしない場合には、それなりの額の違約金を払わせることにしておくしかありません。

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(2) 地主の介入権

ア.介入権とは

 地主には介入権という権利があります。
 地主の介入権とは、借地権者から裁判所に対して「地主の承諾に代わる借地権の譲渡許可の申立」があった場合、地主が、裁判所に「自分が借地権を買い取りたい」という申し入れができるという権利です。正確には、借地権と借地上の建物の買取になります。

 買取価格は、裁判所が鑑定に基づいて決めます(借地については鑑定で決まった借地権価格の9割が原則です)。これが認められると、買主は、借地の買い取りができなくなります。借地権者にしてみれば、誰がお金を出すことになっても、借地がお金になるので文句はない、ということになります。

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イ.介入権が認められない場合

 地主の介入権が認められない場合があります。

 1つは、借地権者と買受予定者が特殊な関係にある場合です。
 例えば、同居している親子間で自宅の敷地の借地権を譲渡するような場合、地主の承諾がなくても信頼関係の破壊がない、ということで地主の解除が認められない可能性があります。それでも後でトラブルになるのが嫌だということで、譲渡前に地主の承諾に代わる裁判所の許可を求める場合があります。この場合は、親が子に自宅を譲りたいという目的がある上、地主とのトラブル防止のために申立をしたのに、地主に介入権が認められて借地を取り上げられたのでは気の毒です。このため、このようなケースでは、介入権は認められません。

 もう一つ介入権が認められない例として、借地上の建物が跨がり(またがり)建物の場合があります。
 跨がり建物というのは、所有者の異なる2つの土地の上に1つの建物が建っている状態のものをいいます。例えば、地主の所有する土地と、借地権者が自分で所有している土地が接していて、その2つの土地の上に借地権者が1つの建物を所有しているような場合です。
 跨がり建物について、介入権を行使して建物全体の買取請求(借地上の建物部分だけでなく、越境している部分を含めた建物全体の買取請求)は認められないとされています(最高裁平成19年12月 4日決定)。借地上の建物以外の部分について、裁判所には処分を命じる権限がない、というのがその理由です。

 では、借地の上の部分だけ(建物の一部)についてはどうかと言うと、これは一棟の建物を切り取ることになります。物理的に不可能な場合は勿論、物理的に可能な場合でも、範囲や切断の方法を特定して命じるのが難しいので、やはり、認められないとされています(区分所有だったら可能ではないかという意見もあります)。
 このように、原則として跨がり建物の場合は介入権行使はできません。

 ただし、介入権が認められないことで地主の不利益が大きすぎる場合には、譲渡許可そのものが認められないこともあるとされています。例が見当たらないので、どのような場合がそれに当たるのかは何とも言えません(具体的な事例がある場合はご相談ください)。

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4.建物を建て替えて、子どもの名義にしたい

 親子で借地上の建物に同居している場合、建物が古くなって建て替えを考えることがあります。親が建物の名義人で、借地権者の場合ですが、この親が高齢の場合、建物の建替え費用を銀行から借りようとしても、貸してもらえない場合があります。そのため、仕事を持っている子ども(成人です)の名義で銀行から借り入れをして、建替えをしようと考える人は多くいます。ただし、他に担保になるものがあればとかもかく、借地権を担保にする場合、銀行は、新しく建てる建物の名義が子どもでないと、子どもの名義でもお金を貸してくれません 。

 そこで、地主との間で、3つの問題が起こります。1つめは、建物の建て替えの承諾、2つめは、借地権の譲渡の承諾(親から子に借地権を譲渡することになります。同居している場合には、単なる名義変更で信頼関係を破壊しないとされる場合もありますが、譲渡に伴って建て替えをする場合は、承諾が必要と思った方がいいです)、3つめは、建物に抵当権を付けることの承諾です(法律上は不要ですが銀行は地主の承諾書がないとお金を貸してくれません。この点については「借地権への抵当権設定」の「金融機関が地主の承諾を求めます」をご覧ください)。

 親が亡くなった場合に子が家(建物)を相続することが確実な場合(両親のうち一人がすでに亡くなり、子に兄弟がいないような場合)には、親から子への譲渡の承諾料は、通常の相場(借地権価格の1割)の3割~5割くらいになるようです(そのような報告例があります。幅があるのは、事案によって調整していると思われます)。
 抵当権の設定については、建て替えや譲渡の承諾料と合わせて、交渉することになります。
 ところが、このケースで大きな問題になったのが税金です。同居している親子の間では、借地は2人のものと考えがちです。ところが、税金上はそうはいきません。 ただで借地権を譲渡すれば、贈与税がかかります。承諾料を払って、銀行から借金して、その上、贈与税まで払うことになると、予算的に無理という判断になることもあります(上記の報告例は、結局、断念したとのことです)。

 なお、上記の報告例のケースの時には、制度がなかったのかも知れませんが、借地権者が65歳以上で、20歳以上の子や孫に対して借地権の贈与を行う場合(孫は代襲相続人など法定相続人の必要はありません)、贈与の時には贈与税が課せられず、贈与した時の借地権者が亡くなった時に相続税(贈与税よりは税率は低くなります)で処理できる制度(相続時精算課税制度)が使えます。ただし、贈与の年に申告が必要ですし、その他の財産状況などによっては相続税の支払いが過大になる場合もあります。税理士に相談した上で検討してください。

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5. 関連記事

 1.借地の持分の譲渡や共有借地の分割、借地上建物の財産分与などについては「借地権の共有持分の譲渡」をご覧ください。

 2.借地権を担保に融資を受ける場合については、「借地への抵当権設定」をご覧ください。

 3.借地を競売で取得しようとする場合の注意事項については、「借地の競売・競落人は要注意」をご覧ください。

 4.建物の賃貸借の賃借権譲渡や転貸については、「賃貸建物の無断譲渡・無断転貸」をご覧ください。

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弁護士 内藤寿彦(東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13 白井ビル4階  電話 03-3459-6391