遺言書は、これから遺言を書こうとする人にとっては、どんな内容にしようか、どんな方法で書いたらいいのか、悩ましい話になります。そして、遺言書は、書いた人が亡くなってから効力が発生します。そのため、その時に遺言書の内容に問題があっても、書いた本人に真意を聞いたり、訂正してもらうことはできません。遺言を書いた人にとっても、自分の最後の意思が実現されないのは困ります。ここでは、基礎知識として、主に、遺言を書こうとする人のために、遺言とそれに関係する基礎的な解説を弁護士がします。

【目次】
1.遺言書が必要な場合とは
 (1) なぜ、遺言を書く必要があるのか考えましょう
 (2)この場合には必要です
 (3) 相続人以外の人に財産を譲りたい場合というのは
 (4) 特定の相続人に財産を譲りたい場合や、法定相続分と違った割合で財産を相続させたい場合というのは
 (5) 法定相続分に従う必要はありません
 (6) 特定の遺産を相続させる場合とその後の手続
2.自筆遺言と公正証書遺言
 (1) 自筆遺言は原則全て自分で書く
 (2) 自筆遺言は訂正の方法も決まっています
 (3) 念のために書いておくことも
 (4) 公正証書遺言
 (5) 法務局での自筆遺言の預かり制度
3.遺言の変更・取消
 (1) 遺言による変更・取消
 (2) 生前処分による遺言の撤回
 (3) 遺言の破棄
 (4) 変更するなら新しく全部書く
4.自筆遺言の検認手続
5.関連記事

1.遺言書が必要な場合とは

(1) なぜ、遺言を書く必要があるのか考えましょう

 遺言を書く目的が分からないのに、遺言を書かなければいけないと思って悩んでいる人は結構います。
 財産があるので、義務みたいに思っている人もいます。

 遺言書を書こうと思っている場合、まず、遺言を書く必要があるのか、目的が何なのか考えてみましょう。必要がなければ、遺言を書かなくてもいい(相続人に任せる)というのも、合理的な選択です(*1) (*2)
 必要や目的があれば、それに合うように遺言の内容を考えましょう。内容がある程度決まったら、弁護士に相談することをお勧めします。形式や言葉の言い回しまで自分で考えるのは大変ですし、有効でなければ困ります。また、亡くなられた後の遺言の執行(遺言の実現)の問題もあります。

 法律上は、遺言は遺産の処分について書いたものを前提にしています。しかし、遺産と関係ないことを書いてはいけない、ということはありません。 遺言をする理由や、遺された家族への気持ちを書いてもかまいません。それらが、遺言の解釈の手かがりになる場合もあります。公正証書遺言では「付言」(ふげん)という項目で、これらを書く場合があります。
 自筆遺言の場合ですが、検認手続で、遺族が固唾を飲んで、裁判所での開封を見守っていたら、遺族への恨み言しか書いてない遺言書が出てきたという話もあります。遺言の内容は、書く人の自由です。しかし、遺産の処分について書く場合には、法律上有効でないと困るのでその場合には、注意しましょう。

(*1) ご主人はすでに亡くなり、子どもが複数いて、その子どもたちから「遺言を書いてくれ」と言われているという話を聞くことがあります。しかし、その場合の「遺言を書いてくれ」は、「自分に有利になるように書いてくれ」という意味です。当然、他の子どもは納得しません。その内容でご自身も「よし」と思えば、それでもいいのですが、他の子どもにも納得してほしいと思うと、ご自身が生きているうちから、相続紛争が始まってしまいます。しかも、遺言は何回でも書き直しができるので、亡くなるまで子どもたちの紛争に巻き込まれることになります。しかし、その財産は、ご自身の財産で、子どもたちのものではありません。亡くなるまでに全部使ってしまってもかまわないのです。遺言を書かないで、死後のことは子どもたちに任せることも、自分の財産の処分の方法の1つです。(▲本文に戻る

(*2) 時には、本人も気がついていない法律上の問題がある場合もあります。特に、1次相続(夫が先に亡くなり、妻と子が共同相続した場合)の時に、税金対策でおかしな遺産分割をした場合や、借地が相続財産になっている場合、その他の場合、本人が、自分の財産を正確に認識していない場合があります。誤解を前提に遺言を書かなかったり、書いてしまうととんでもないことになります。遺言を書こうかどうしようか考える前に、自分が亡くなった場合の遺産の範囲について弁護士に相談することをお勧めします。(▲本文に戻る

目次へ戻る

(2)この場合には必要です

 遺言を書く必要があるのは、
①相続人以外の人に財産を譲る場合や、
②複数の相続人の1人に特定の財産を譲ったり、法定相続分とは違う割合で相続させたい場合
などです(*1)。

(*1) 誰が相続人なのかは、「相続人の範囲と法定相続分」をご覧ください。ページが飛ぶのでここに戻るときは、画面上の左の「←」をクリックしてください。

目次へ戻る

(3) 相続人以外の人に財産を譲りたい場合というのは

 相続人がいる場合と相続人がいない場合があります。

ア 相続人がいるけれども相続人でない人に遺産を譲る場合というのは、妻子がいるけど、世話になった自分の弟に遺産を譲る場合、兄弟姉妹がいるけれども、内縁の妻に遺産を譲る場合などです(*1)

イ 相続人がいないので相続人でない人に遺産を譲る場合というのは、内縁の妻に遺産を譲る場合(*2)や従兄弟に遺産を譲る場合、第三者に遺産を譲る場合です。

(1)兄弟姉妹に限らず、相続人がいる場合には遺言を書かないと、内縁の妻は遺産を受け取ることができません。(▲本文へ戻る


(*2)誰も相続人がいない場合には、内縁の妻は、特別縁故者として相続財産が分与される場合があります(「●内縁の夫が亡くなりました。彼には子も配偶者も親も兄弟姉妹もいない。財産はどうなるのでしょうか」 をご覧ください)。しかし、そのためには亡くなった後で相続財産管理人の選任申立をしたり、特別縁故者に対する財産分与の申立をしたりしなければなりません(手続は弁護士に相談してください)。また、他にも特別縁故者として財産分与の申立をする人がいないとは限りません。確実に遺産を譲るためには遺言書を書くべきです。
 従兄弟(いとこ)も相続人ではないので、遺言書がないと遺産を受け取ることができません。しかも、従兄弟の場合には特別縁故者と認められるのは難しいです(「従兄弟は相続人になれないの」をご覧ください)。従兄弟に遺産を譲りたい場合には遺言書を書くべきです。(▲本文へ戻る

目次へ戻る

(4) 特定の相続人に財産を譲りたい場合や、法定相続分と違った割合で財産を相続させたい場合というのは

 典型的な例は、複数の子がいる場合に、それぞれの子に譲りたい財産を書く場合です。その他、兄弟姉妹しか相続人がいない場合に、特に親しくしていた人に財産を相続させたい場合です(仲の悪かった人には相続させたくない場合もあります)。
 忘れがちなのが、子がいない夫婦の場合です。配偶者の他に親や兄弟姉妹(親がいない場合です)にも相続分があります。配偶者だけに財産を譲りたい場合には、遺言を書く必要があります(親には遺留分がありますが、兄弟姉妹には遺留分がないので、配偶者に全財産を相続させるという遺言があれば、兄弟姉妹は口出しできません。この点については「遺留分とその行使」の「兄弟姉妹には遺留分はありません」をご覧ください)。

目次へ戻る

(5) 法定相続分に従う必要はありません

 相続人には相続分がありますが、相続分というのはあくまでも、遺産全体に対する割合です。遺言書がない場合は、複数の財産のうち、どの財産をだれが相続するのかは、全員で協議して決めなければなりません(これが遺産分割協議です)。
 亡くなった後で、面倒なことをさせるのは嫌だと思えば、遺言書で、この財産は誰それに相続させる、この財産は誰それに相続させるというように、指定することができます。

  遺言で、特定の遺産を特定の相続人に譲る場合、法定相続分に従う必要はありません。法定相続分とは違う割合で、特定の財産を特定の相続人に相続させることもできます(特定の財産ではなく、相続する割合を遺言書で指定することも可能です)。
 他の相続人に遺留分がある場合には、遺留分侵害の問題が起きる可能性がありますが、遺留分を侵害しても遺言としては有効なので、遺言をした人が亡くなると遺産の所有権は遺言で指定された人に移転します。また、遺留分を侵害する遺言をしても、侵害された相続人が必ず権利を行使するとは限りません(権利を行使するかどうかはその人次第です)。

▲目次へ戻る

(6) 特定の遺産を相続させる場合とその後の手続

 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」と遺言書に書いてある場合には、相続の開始(遺言を書いた人が亡くなる)と同時に何の手続もすることなく、その遺産は遺言書で指定された相続人の所有物になります。登記名義を変える場合も遺言書だけで手続が可能です。遺言執行者や他の相続人の協力は必要ありません(相続人以外の人に特定の遺産を譲る場合には、遺言書だけでは登記名義の変更ができません)。

 なお、2019年7月1日以降に相続開始の場合は、遺言で相続人が特定の不動産を取得した場合でも、法定相続分を越える部分については登記しないと第三者に対抗できません。他の相続人が第三者に自分の持分を譲渡したり、他の相続人の債権者がその不動産の差し押さえなどをすると、法定相続分を越える部分の権利を失ってしまいます。遺言書で特定の不動産を相続した場合には、遺言執行者や他の相続人の協力などはいりません。すぐに自分の名義に移転登記をした方がいいです(司法書士に依頼することです)。この点については「遺言と違う登記をされた」の「2019年7月の相続から制度が変わりました」や、「相続人の債権者による相続財産の差し押さえ」の「2019年7月1日の相続から新法が適用されます」をご覧ください。

▲目次へ戻る

2.自筆遺言と公正証書遺言

 遺言は、大まかに言えば、遺言をする人が手書きで書いた自筆遺言(自筆証書遺言ともいいます)と、公証人が遺言する人から聞き取って、公正証書を作る公正証書遺言(遺言公正証書ともいいます)があります。

(1) 自筆遺言は原則全て自分で書く

 自筆遺言は、本文(文章)、日付け、署名の全てを本人が書く必要があり(本文をワープロで打って署名しただけでは無効です)、判子を押す必要があります(*1)(*2)
 ただし、平成31年1月13日から、遺言書に添付する財産目録(本文に「目録記載の財産をだれそれに相続させる」と書いて、この本文に財産目録をくっつける場合です)はワープロ打ちでかまわないことになりました(ワープロ打ち以外の方法、例えば、代書や他の書面のコピーでもかまいません)。この場合、目録のページごと(1枚の紙の裏表に記載がある場合にはその両方)に署名(自署)して判子を押す必要があります。
 しかし、本文、目録ともに2枚以上になっても割印(契印)はいりません。封筒に入れて封をしておかなければならない、ということもありません。


(*1) 自筆遺言に必要な判子は、実印(印鑑登録されている印鑑)の必要はありません。印鑑登録されていない判子、三文判でもかまいません。自分の名前と違う判子でもかまいせん。また、指印(拇印など)でもかまいせん(指印でも有効なことは最高裁平成元年 2月16日)。
 ただし、あくまでも、遺言者本人が遺言を書いた証しとして押したことが必要です。亡くなった後で、遺言が偽造されたものかどうか争われた場合、実印や、本人が普段から使用している印鑑でないと、本人が押したことを証明するのが難しくなります。その結果、遺言を書いたのが本人かどうか問題になります。印鑑登録してある実印を押すのが1番です(入院中など遺言作成が最優先の場合には仕方ありません)。
 指印の場合に、指紋が分かるように押してあっても、亡くなった後では、本人の指紋が残っていないのが普通なので、本人のものかどうかが分かりません。
 これらについては、「偽造された自筆遺言」の「遺言書に押してある印鑑」をご覧ください▲本文へ戻る


(*2) 日付けも実際に遺言を書いた日を、特定できる形(何年何月何日)で書かないと遺言書全体が無効になる場合があります。これについては、「自筆遺言の落とし穴」の「日付け」をご覧下さい。(▲本文へ戻る

目次へ戻る

(2) 自筆遺言は訂正の方法も決まっています

 一旦書いたものを訂正する場合には、訂正したことを書いた上で署名押印して、変更した部分に判子を押す必要があります。訂正の方法が間違っていると、訂正しなかったことになります。ただし、誤字の訂正などは、訂正方法を間違えて、訂正しなかったことになっても、誤字だと分かれば問題になりません。訂正方法を間違えて、遺言全体が無効になる場合などについては、「遺言コラム」「自筆遺言の落とし穴」の「訂正」をご覧ください。

▲目次へ戻る

(3) 念のために書いておくことも

 これだけでも面倒ですが、一番面倒なのは亡くなった後で、家庭裁判所の検認という手続が必要になることです(検認の手続は「自筆遺言の検認手続」を見てください)ただし、公証人が明日、公正証書遺言を作るために自宅に来ることになっていたのに、亡くなってしまったという実例もありますから、公正証書遺言を作る予定でも、念のために自筆遺言を作っておくことも考えた方がいいです。

▲目次へ戻る

(4) 公正証書遺言

 公正証書遺言は、通常、事前に本人や本人の代理の人(弁護士や遺産を沢山もらえることになっている人)が公証役場で公証人に遺言の内容を説明します。公証人は、それに基づいて原稿を作り、本人(遺言をする人)と証人2名の前で、改めて本人から遺言の内容を聞き取り、公正証書遺言を作成します(*1) 。証人は、未成年や相続人になることが予想される人はなれません。心当たりがなければ、若干の費用は必要ですが、公証人が紹介してくれます

 公正証書遺言は、公証人が作成するので、偽造かどうかとか、意味が不明という問題は起こりません。検認手続も不要です。ただし、遺言した人が亡くなると、公証役場から通知が来て遺言の内容を相続人に教えてくれる、という制度はありません(*2)。公正証書遺言の原本は公証役場に保管されていますが、公正証書遺言を作成した時に交付される「正本」(お墨付きの写し)で、全ての手続を行うことができます。「正本」を紛失したとか、遺言した時の精神状態を知りたいので「原本」の筆跡を確認したい(遺言者は公正証書遺言に署名しますが、正本には署名の写しは載りません)、という場合以外は、公証役場と関係なく手続を進めることになります。


(*1) 公証役場以外の場所に公証人が出向いて遺言公正証書が作られる場合もあります。遺言をしようとする人が入院中の場合、公証人は病院に来てくれて、そこで公正証書遺言の作成が行われます。死が目前に迫っていて、死ぬ前に遺言を遺したいという人が公正証書遺言を作成するというケースは、公証人にとってそれほど珍しくないようです。入院中でなくても、体調が悪くて公証役場に行けないので、自宅に来てもらって公正証書遺言を作成するということも行われています。(▲本文へ戻る


(*2) 通知はありませんが、調べることはできます。全国どこの公証役場でもいいので、遺言検索の請求をすると、遺言公正証書を作成したかどうか(ただし、 1989年以降に作成されたもの)、作成された場合にどこの公証役場で作ったのか教えてくれます。作成された公証役場が分かれば、その公証役場に謄本の申請ができます。ただし、遺言検索や謄本の請求ができるのは、遺言者がなくなった後です。亡くなる前は本人しか請求できません。 つまり、親が亡くなる前に公正証書遺言が作られたかどうか調べたくても調べられません。(▲本文へ戻る

▲目次へ戻る

(5) 法務局での自筆遺言の預かり制度

 2020年7月から、法務局で自筆遺言を預かってくれるという制度が始まりました。(詳しくは法務省のホームページ「自筆証書遺言書保管制度」をご覧ください。)
 預けるかどうかは、遺言者の自由です(預けない場合も、従来と同じ要件で有効です)。
 預ける法務局は、住所地、本籍地、不動産の所在地のどれかを管轄する法務局です。本人が出頭して手続をする必要があります。
 遺言書と申請書(法務省のホームページからダウンロードできます)と本人確認書類(運転免許証など)を提出します。預けると、保管したという証明書を交付してくれます。

 法務局では、遺言を預かる際に、内容の審査はしません。質問や相談もできないと法務省のホームページに書いてあります。全文自筆かどうかとか日付けなどの形式面については、預かる時に注意してくれるのかどうかはホームページには書いてありません。法務省令では遺言書の余白の幅について規定がありますが、それ以外の様式の審査については規定がないので、建前上は注意しない、ということだと思います。つまり、形式面で無効な遺言でも、預かるということです。

 遺言書を預けた後は、遺言者本人は遺言の閲覧、保管の撤回ができます。しかし、遺言者以外の人は、遺言者が亡くなるまで遺言書の閲覧などはできません。

 遺言者が亡くなると相続人は、遺言書の閲覧などができます(電子データになっているものを画面で確認したり、預かっている遺言の写しとその証明書の交付を受けることができます)。相続人の1人でも、閲覧をすると、他の相続人にも、そのことが通知されます。

 また、遺言者が希望すれば、法務局は遺言書を預けた人が亡くなった場合に、遺言者が指定する相続人の1人に、遺言を預かっていることを通知します(詳しくは上記の法務省のホームページをご覧下さい)。他の相続人へは通知はされませんが、通知された相続人が遺言の閲覧をすると、そのことが他の相続人に通知され、他の相続人も、遺言があることを知ることができます。

 法務局での自筆遺言の預かり制度のメリットの1つは、家庭裁判所の検認の手続がいらないことです。また、保管の時に本人確認をしているので、保管を依頼した人が一応、本人だと証明されます。遺言者本人が書いたかどうかの証明ではありませんが、間接的な証明になります。なお、法務局に遺言書を預けても、その後に作成した遺言書で遺言の撤回ができます(この点は、後記の3でお話します)。

 デメリットは、特段ありません。しかし、法務局に出向いたり、申請書類を書いたりなどの手間がかかります。どうせそこまでやるなら、公正証書遺言の方がいいと思います。公証人に内容などの相談もできますし、形式面で無効になることもありません。また、検認手続は不要ですし、本人確認もするので偽造の心配がありません。若干の費用はかかりますが、安心料だと思えばいいと思います。

▲目次へ戻る

3.遺言の変更・取消

 遺言は何度でも書き換えることができます。そして、最後に作られた遺言が、最終的に有効な遺言になります。
 一旦、遺言書を作成しても、気が変わったり、財産をあげようとした人との関係が悪くなったり、財産の構成が変わったり(不動産を売却したり、預金の内容が変わったり)、その他、色々な事情から遺言を変更したくなることがあります。遺言は遺言を書いた人の財産の処分ですから、理由がどうあれ、遺言の変更ができます。

(1) 遺言による変更・取消

 遺言の変更は、新しい遺言を作成するのが、原則です。公正証書遺言を作った後でも、自筆遺言で変更することができます。
 遺言で変更する場合、「前の遺言を取り消す」とはっきり書いてあれば、亡くなった後で問題は少なくなります
 しかし、前の遺言と矛盾する内容が書いてある新しい遺言があれば(例えば、前の遺言である不動産を長男に相続させる、と書いてあったのに、新しい遺言では同じ不動産を二男に相続させると書いてある場合)、新しい遺言で前の遺言を取り消したことが分かります。

▲目次へ戻る

(2) 生前処分による遺言の撤回

 遺言によらなくても、遺言を取り消したことが分かる場合もあります。例えば、遺言で、ある不動産を長男に相続させると書いたのに、後で、遺言をした人が、第三者に売った場合です。遺言は、その人が亡くなるまでは効力がないので、長男は文句を言えません。遺言をした本人が、その不動産を売ったのですから、長男に相続させるという遺言は、取り消したことになります(生前処分による遺言の撤回と言います)。
 しかし、不動産を売ったお金が、亡くなるまで残っていた場合(預金として遺した場合など)や、そのお金で別の不動産を買った場合にどうなるのか、前の遺言書の解釈を巡って問題になる場合があります(当然に長男のものになるわけではありません)。
 前に書いた遺言と矛盾することをした場合には、その後の財産の状況に合わせて遺言を書き直した方が、遺された人のためになります。

▲目次へ戻る

(3) 遺言の破棄

 遺言の変更は、遺言以外の文書ですることはできません。ただし、遺言を取り消す場合(遺言をなかったことにする場合)には、自筆遺言なら、遺言そのものを廃棄してしまえば足ります。公正証書遺言の場合には、原本が公証役場にあるので、公証役場から受け取った「正本」(一種の写しです)を廃棄しても、遺言を取り消したことになりません。ただし、公正証書遺言でも、後で書いた自筆遺言で変更、取消ができます。

▲目次へ戻る

(4) 変更するなら新しく全部書く

 相続が発生した場合(遺言した人が亡くなった場合)には、もうその人から真意を聞くことができません。一旦書いた遺言を変更したり、取り消す場合には、1から新しく遺言を作った方が問題がありません。その点さえ気をつければ、自分の財産の処分なのですから、気が変われば何度でも遺言を書き直せばいいのです(遺言の取消が問題になる場合については、「遺言書が何通もある」をご覧ください)。

▲目次へ戻る

4.自筆遺言の検認手続

 遺言した人が亡くなった後で自筆遺言を見つけたり、生前から預かっていた場合には、その人が申立人になって、家庭裁判所の検認の手続をすることになります(弁護士が代理人として申立することもできます)。遺言者(亡くなられた方)が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本(亡くなった時の年齢にもよりますが、数通になるのが通常です)などを添えて、家庭裁判所に検認の申立をしなければなりません。
 期日が指定されると、法定相続人全員に通知されます。出席するかどうかは自由ですが、申立人は出席しなければなりません。
 手続は、裁判官が封筒にはさみを入れて、開封するところから始まります。中から遺言書を取りだして、確認をします。中に遺言書があることの確認です(封筒に入れることは遺言の要件ではありません。封筒に入っていない場合は開封の手続はしません)。

  そして、出席している相続人に対して、遺言書の筆跡や判子の確認を求めます。
「本人のものに間違いありません」「分かりません」「本人のものではありません」など、色々な答えがありますが、それらの答えを裁判所書記官は調書(検認調書といいます)に記載します。
  これで手続は終了です。検認手続の中で裁判所が遺言の有効・無効の判断をしてくれるわけではありません(有効・無効に争いがあれば、別に裁判を起こして決着をつけることになります)。この後、裁判所は遺言書の原本に「検認済み証明書」という1枚の書面を付けて申立人に返してくれます(証明書を付けてもらうためには申請が必要で、建前上は検認後に申立をしますが、検認の申立用紙の申立欄があるので、申立時に日付け空欄で書いて出します)。

 検認の手続をしないと、遺言書に基づいて、不動産の登記をしたり、預金を払い戻すことができません。逆に言うと、自筆の遺言書と家庭裁判所の「検認済み証明書」があれば、不動産の登記や預金の払い戻しができます(特殊な問題があって、できない場合もあります)。なお、遺言書を見つけたのに検認の申立をしないで隠してしまうと、相続の権利がなくなる場合もあります。

▲目次へ戻る

5.関連記事

●遺留分を侵害する遺言も無効ではありません。しかし、遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害する生前贈与や遺言によって利益を受けた人に対して、侵害された分について請求ができます。これについては、「遺留分とその行使」をご覧ください。
●遺言書は何度でも書き直すことができます。しかし、書き直したのかどうか、書き直したとしてどの部分をどのように直したのか分からない場合も起こります。これについては、「遺言書が何通もある」をご覧ください。
●遺言について起こる様々な問題については、「遺言コラム」(遺言書にまつわる色々な話)をご覧ください。その中でも、自筆遺言を書く場合の注意として、「自筆遺言の落とし穴・自筆遺言が形式的な違反で無効になる場合」をご覧ください。

▲目次へ戻る

▲TOPへ

弁護士 内藤寿彦(東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所  東京都港区虎ノ門5-12-13白井ビル4階 電話・03-3459-6391