【目次】
(1) 代襲相続とは
(2) 親が亡くなった場合だけではありません
(3) 相続の放棄をしても代襲相続はありません
(4) 親の相続のときに相続放棄をしても祖父母の代襲相続人になれます
(5) 遺言の代襲相続はありません

(1) 代襲相続とは

 代襲相続(だいしゅうそうぞく)とは、親よりも先に子が亡くなった場合に、子の子(親の孫)がいれば、後で親が亡くなったときに、孫が子(孫の親)に代わって、親(孫の祖父母)の財産を相続するという制度です。この場合の孫のことを代襲相続人と言います。
 代襲相続人(孫)の相続分は、先に亡くなった子の相続分と同じです。代襲相続人(孫)が複数いる場合(亡くなった子に複数の子がいる場合)には、1人当たりの相続分は、子の相続分を代襲相続人の人数で割った数になります。孫が2人なら、亡くなった子の相続分の1/2になります。
 ここでは、弁護士が、代襲相続人について基礎的なお話をします。

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(2) 親が亡くなった場合だけではありません

 A(被相続人)、B(Aの子)、C(Bの子でAの孫)という場合でお話します。問題になるのはAの遺産の相続です。
 Aが亡くなる前にBが亡くなった場合、CはBに代わってAの遺産を相続できます。これが代襲相続です。

 ところで、Bが亡くなってはいないけれども、BがAの相続人になれない場合があります。この場合でも、Cが代襲相続する場合があります。

 その1つは、Bが「相続欠格」の場合です。相続欠格というのは、BがAを殺した場合、BがAを脅したり騙して遺言を書かせた場合、BがAの遺言書を偽造したり隠したり破棄した場合などです。この場合は、Bは法律上、当然に相続人でなくなります(本人が認めなければ、裁判所が判断することになります)。
 親を殺害するというは、なかなか凄い話ですが、この場合でも、孫のCは代襲相続人として、Aの遺産を相続することができます。

 もう1つが、廃除です。これは、BがAを虐待したり、重大な侮辱をしたということで、Aが生前にBを相続人から外すように家庭裁判所に請求したり、Aが遺言書にBを廃除してほしいと書いてあった場合に、家庭裁判所の判断で、Bを廃除して相続人でないことにすることです。
 これによって、Bは相続人でなくなるのですが、Bの子のCは代襲相続人として相続人になれます。

 Bの素行が悪く、他の子(Bの兄弟)などが働きかけて、Aに、Bを廃除するという遺言を書いてもらうケースもあります。この場合、家庭裁判所が廃除を認めても、CがBの代わりに遺産を相続することになります。BとCが同居している場合などは、Bを廃除してもあまり意味がない、ということがあります。

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(3) 相続の放棄をしても代襲相続はありません

 Bが相続人でなくなるケースとして、Bが相続の放棄をする場合があります。この場合は、上のケースと違って、Cは代襲相続人にはなりません。
 Aに借金しかない場合には、Bは相続の放棄をしますが、Cは相続放棄をする必要はありません。相続放棄をしなくても、Cが借金を返さなければならない、ということにはなりません。

 Bが相続放棄をすると、Aの兄弟姉妹や、その子(甥姪)が相続人になる(AにB以外の子がいない場合で、Aの父母がすでに亡くなっている場合です)ので、この人たちは相続の放棄をする必要があります。なお、親が相続放棄をすると子が相続放棄する必要がないのは、兄弟姉妹の場合も同じです。つまり、Aの兄弟姉妹が相続放棄をすれば、その子(Aの甥姪)は相続放棄の必要はありません。

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(4) 親の相続のときに相続放棄をしても祖父母の代襲相続人になれます

 A(祖父母)よりも先にB(親)が亡くなれば、Bの関係で相続が発生します。CはBの子ですから相続人です。この場合、Bに借金しかない場合、Cは相続の放棄をします。
 その後でA(祖父母)が亡くなった場合ですが、Cは代襲相続人になれます。そして、B(親)がAから相続するはずだった遺産を相続することができます。代襲相続の要件は「Bの子」だからです(「Bの相続人」という要件ではありません)。

 Bの債権者は、BがAよりも先に亡くならなければ、Bが相続したAの遺産に対して、差押えなどができたのですが、この場合には何もできません。

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(5) 遺言の代襲相続はありません

 Aが遺言書に「・・・の不動産をBに相続させる」と書いた後で、BがAよりも先に亡くなった場合には、この遺言は無効です(「Bに相続させる」という部分だけが無効になります)。Bの子のCが、Bに代わって遺言に基づいて相続することにはなりません(最高裁平成23年2月22日判決)。Cの代襲相続人としての地位は変わらないので、法定相続分や遺留分は変わりません(AがBに相続させようとした不動産がどうなるのかについては、「遺産の一部が書いてない遺言書」をご覧ください)。

 AがCに特定の遺産を譲りたければ、Bが亡くなった時点で遺言を書き直すべきです。
 ただし、Bが亡くなった時には、Aが病気や精神状態の関係で遺言の書き直しができない場合もあります(*1)。最初に遺言を作る時に、まだBが元気だったとしても、「もしも、自分よりも先にBが亡くなったら、Bに相続させる財産はCに相続させる」という遺言を作るべきです(*2)

 では、Bが亡くなった後で、遺言の書き直しができない場合にはどうにもならないのか、というと、平成23年の最高裁も、「例外がある」と言っています。それは、Aが遺言を書いた時に、「もしも、Bが自分よりも先に亡くなった場合には、孫のCにこの財産を相続させたい」と思っていたことが認められる場合には、Cがその財産を相続できると言っています(*3)。しかし、これが認められた例はほとんどありません(ないわけではありません)。

 

(*1) 実際にあった例ですが、Aが遺言を書いてしばらくしてから、事故をきっかけに遺言の書き直しができない精神状態になりました。その後、Aの子のB(遺産を譲ろうとした子)に癌が見つかり、治療の甲斐なく亡くなりました。そして、AもBが亡くなって1か月もしないうちに亡くなりました。遺言を書いた時期は平成23年の最高裁の判決が出る前だったので、この判決を意識した遺言(Bが元気でも「もしも自分よりも先にBが亡くなったら」という遺言)を作る発想がありませんでした。そして、Aが亡くなったのはその判決が出た後でした(何とかうまく解決しましたが)。(▲本文へ戻る

 

(*2)Bが病気などでAよりも先に亡くなるかも知れないと思えば、「もしもBが先に亡くなった場合」という遺言を作りますが、そうでない場合には、気が引けます。しかし、万一、ということを考えて遺言は作るべきでしょう。なお、平成23年の最高裁判決が出た後は、公証役場では、「もしも先にBが亡くなった場合どうするか遺言に書きますか」という注意をする扱いになっています。(▲本文へ戻る

 

(*3) 「認められる」ための資料は、遺言書そのものの文面と客観的な人間関係などに限定されます。遺言と関係ない資料から無制限に解釈することは認められません(これらの資料も参考になる場合もあります)。
 「遺言書そのものの文面」と言っても、「もしも先に○○が亡くなった場合には」と書いてあれば問題ないので、書いてないことが前提です。遺言で相続させるつもりの財産(これは遺言書に書いてあります)の内容と、孫との関係などが問題になります
 例えば、Aに3人の子がいて、「それぞれの子に法定相続分相当の財産を相続させる」という遺言を書いた場合には、3人の子に平等に財産を相続させるつもりだったと考えられます。その後で、子のうちの1人が亡くなった場合には、亡くなった子の子(孫)にも同じように財産を譲るつもりだったと認められる可能性があります。
 また、Aに2人の子(BとD)がいるケースですが、Aが、Bと、Bの子(孫C)と同居していた自宅があった場合に、この自宅をBに相続させるという遺言を書いたときは、Aの意思としては、Bの家族(孫Cを含む)に自宅を相続させようとしたと考えられます。このため、Aよりも先にBが亡くなった場合には、Cに自宅を相続させる意思があったと認められる可能性があります。
 ただし、子が亡くなった後で遺言の書き直しができたのに、それをしなかった場合には、孫に相続させるつもりはなかったと認定される可能性があります。▲本文へ戻る

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弁護士 内藤寿彦(東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所 東京都港区虎ノ門5-12-13 白井ビル4階  電話 03-3459-6391