遺言書にまつわる色々な話

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※ 現在、記事を独立したページにして、それぞれの記事の内容を充実させる作業をしています。「自筆遺言の落とし穴」「自筆遺言の偽造」「遺言書の無効」「遺言と違う登記をされた」は、下の目次をクリックすると独立したページに飛びます。それ以外の記事は、このページの下にあります。

(目次)
【遺言書の偽造や無効】
●自筆遺言の落とし穴
  ~自筆遺言が形式的な理由で無効になる
●自筆遺言の偽造
●遺言書の無効
  ~認知症と遺言の無効
【遺言の実現を妨害された】
遺言と違う登記をされた

【遺言書が何通もある】
 ●遺言書が何通もある・・・
【困った遺言書】
 ●相続後にもめる遺言書
 ●遺産の一部が脱けている遺言書  
  ~遺言書に書いてない遺産はどうなる!?
 ●現金を相続させるという遺言書
  ~預金も現金もないときはどうなる!?
【自筆遺言と不動産の登記】
 ●原則として登記できます
 ●遺言書があるのに裁判をしなければならない・・・  
  ~検認手続でもめると・・・
 ●1つの土地を分ける必要がある自筆遺言 
  ~測量図をつけた自筆遺言、「建物の敷地」と書いてある遺言

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遺言書が何通もある】

 

● 遺言書が何通もある・・・・

 毎年、遺言書を書くという人もいます。年ごとに遺言書を書き直しているのです。そのような場合には、時々気が変わることもあるかも知れませんが、遺言書の内容が、極端にころころ変わることはないと思います。(*)

 問題なのは、亡くなる前の数か月程度の間に正反対の遺言書が何通も作られているような場合です。
 典型的なのは、亡くなった人の子AとB(AとBは兄弟)がいて、亡くなる前に本人がAとBの間をいったり来たりしていたような場合です。場合によっては寝たきり状態の親の奪い合いみたいなことも起こります。
 そんな時に、Aに全部の財産を相続させるという遺言書が作られたかと思うと、しばらくして、今度はBに全部の財産を相続させるという遺言書が作られ、また、今後はAに相続させるとか・・・・

 こうして本人が亡くなってしまうと、本人の真意はなんだったのか分かりません。AでもBでもどちらでもいいから、面倒みてくれればいいということだったのかも知れません。
 こんな話はドラマか小説の話みたいだと思われるかも知れませんが、こんな場合にどうするのか、ある程度は法律に書いてあります。法律に書いてあるくらいですから、この種の問題は昔からあったということです。

 では、どうなるかと言うと、1通できちんとした遺言書になっている場合には、最後の遺言書が有効になる、というのが原則です。

 ところが1通できちんとした遺言になっていない場合もあります。1通できちんとした遺言書になっていない場合というのは、どういう場合かと言うと、「前の遺言を取り消す」としか書いていないような遺言書です。
 第1遺言書があり、続いてこれに反する第2遺言書があり(この場合、第1遺言は第2遺言で取り消されたことになります)、そして、第3の遺言書に「第2遺言を取り消す」としか書いてない場合、第2遺言書が取り消されたことは間違いないのですが、それでは、第1遺言書が復活するのか、という問題が起こります。

 結論を言うと「第1遺言を復活させる意思が読み取れる場合には、第1遺言は復活する」ということになります。単に「第2遺言を取り消す」としか書いてない場合には、第1遺言が復活させる意思があったとは言えないことになります。この場合は、遺言がなかったことになります。このため、法定相続分で遺産分割をすることになります。兄弟AとBの二人が相続人なら、二人で半分ずつです。

 なお、AとBの二人の子どもが相続人の場合、「Aに全部相続させる」「Bに全部相続させる」という遺言書は、どちらが有効になっても、片方の遺留分を侵害しています。遺言書で財産をもらえなかったAまたはBは、相手方に対して、遺留分を戻すように請求できます(遺留分減殺請求です)。相続人が二人だけなら、相続財産の1/4について遺留分があるので、その分について自分に戻せと言うことができます。

 

 

(*)遺言書が自筆遺言の場合、本人が亡くなると、全ての自筆遺言について、検認の手続が必要になります。自筆遺言で、遺言を書き直した場合には、前の遺言書を廃棄した方が、将来の相続人のためになります(廃棄するのは、あくまでも、遺言を書いた本人です)。

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【困った遺言書】

 

●相続後にもめる遺言書

 せっかく遺言書があるのに、もめごとが起こる場合があります。
 ありがちなのは、遺留分を侵害する遺言です。この場合、亡くなった後で、遺留分の減殺(取り戻し)請求などの裁判が起こされることがあります。

 遺言があるのに亡くなった後でもめるのは、遺留分減殺請求だけではありません。遺言書があるのに遺産分割協議をしなければならない場合や、遺言書の解釈が問題になる場合もあります。そんな例として、遺産の一部が欠けている遺言書と現金を相続させる遺言書について、お話します。

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●遺産の一部が脱けている遺言書

・遺産の一部が脱けている遺言書とは

 この財産は誰それに、この財産は誰それに相続させる、と書いてあるのが典型的な遺言書です。
 一つ一つどの遺産を誰それに相続させると書いた上で、「その余の遺産は全て、○○に相続させる」と書いてあれば、亡くなった後でどの財産を誰が引き受けるのか分からない、という問題は起こりません。

  しかし、遺産の一部について、誰が相続するのか書いていない場合があります。書いてあっても「祖先のことを思ってくれる者」とか「一番ふさわしいと皆が認める者」など、具体的に「誰」と書いてない場合があります。この場合も、誰が相続するのか書いてないのと同じです。
 このように、遺産の一部が脱けている場合には、その遺産をどうするのか問題になります。

・特別受益として処理します

1. 例えば、子AとBの2人が相続人の場合で、遺産総額1億円(1億円分の遺産という意味です)のうち、「2000万円分の財産をAに相続させる」とだけ書いてある遺言書がある場合(2000万円に相当する具体的な財産(特定の不動産など)が書かれていることを前提にします)には、次のようになります。

  まず、Aに相続させるという2000万円分はAに対する特別受益になります。この場合は遺産総額は1億円のままです。法定相続分はA、Bともに5000万円ですが、Aは2000万円の特別受益を受けることになるので、残りの財産(8000万円分)のうちから3000万円分を取得することになります。そして、Bは5000万円分を取得します。
 つまり、この場合は、遺言書に書いてない8000万円分の財産を、Aが3000万円分、Bが5000万円分相続したことになり、この割合で遺産分割協議をすることになります。

2. 次に同じAとBが相続人で、遺産総額1億円分のうち、6000万円分についてAに相続させるとだけ書いてある遺言書がある場合ですが、この場合、残った遺産は4000万円になります。
 この場合も、遺産総額は、1億円になります。法定相続分はAもBも5000万円なので、Aは残った遺産からは何ももらうことはできません。Bが残った遺産4000万円を相続することになります。

 しかし、残った遺産4000万円では、Bの法定相続分5000万円に、1000万円足りません。この場合、BはAが相続することになった6000万円の中から、自分の法定相続分(5000万円)の不足額1000万円を取り戻すことができるでしょうか。
 結論を言うと、それはできません。遺言は、法定相続分とは異なる「相続分の指定」もできることになっています。このような遺言はAに対して、法定相続分を超える「相続分の指定」があったとみられます。つまり、「Aには6000万円、Bには残り4000万円の財産を相続させる」と書いてあるのと同じだと理解されます。このため、Bは残った4000万円しか相続できません。(*)

3. ただし、同じ例で遺言書に「Aに8000万円相続させる」と書いてあれば、残った財産は2000万円しかなく、Bの遺留分(2500万円)を侵害していることになります。この場合には、BはAが相続した6000万円の財産のうち、500万円分(遺留分の侵害額)について遺留分の減殺請求ができます。

 

(*)遺言書に書いてない4000万円の財産が不動産の場合、Bは登記する必要がありますが、この遺言書だけでは登記できません(公正証書遺言でもできません)。Aから「相続分がない」という証明書と印鑑証明をもらう必要があります。Aがこの証明書を出してくれない場合には、家庭裁判所に調停の申立をする必要があります。

・財産の評価でもめるので話はややこしくなります

 このような例で言うと、遺産の一部が脱けている遺言書でも、比較的簡単に処理できるように思われるかも知れません。
 しかし、これはあくまでも、財産の評価額が決まっていることを前提とした場合です。しかも、相続人が2名の場合を例にしました。

 実際には、評価額を決めてから上のような計算をすることになりますが、特に不動産の場合には評価額に争いが起こるのが通常です(これについては、「相続コラム」の「不動産の評価」をご覧ください)。また、相続人が3人以上の場合で、同じような遺言があれば、遺言書に書いていない遺産について、2人ないし3人で遺産分割協議の必要があります。いずれにしても、話し合いで決まらなければ、遺産分割調停などの手続が必要になります。

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●現金を相続させるという遺言書

・遺産の中に現金があれば問題ないのですが・・・

 「子Bには現金○○円を相続させ、その余の財産は子Aに相続させる」という遺言は、珍しいものではないと思います。Aに相続させる「その余の財産」の中に不動産など高額なものが含まれていて、Bに相続させる現金の額の方が少ないのが普通だと思います。要するに、Bにはこれだけのお金をあげるから、それ以上文句を言うな、というのがこの種の遺言の趣旨です。

 しかし、Bに相続させる現金の額が非常に多い場合もないわけではありません。金額が多いだけならともかく、その金額に相当する現金や預金が遺産にない場合もあります

・預金の中からと書いてあればいいのですが・・・

  現金、預金がない場合でも、「○○銀行の預金の中からBに○○円を相続させる」と書いてある場合には(正確には現金を相続させるというものではありませんが)、遺言をした人が亡くなった時の預金の残高が限度になります。
 遺言書を書いた時点では十分な預金があった場合でも、亡くなった時には預金残高が○○円よりも少ないこともあり得ますが、あくまでも預金の残金の範囲内ということになります(遺言書を書いた人の生前の処分によって、遺言の一部が取り消されたと言うこともできます)。

・預金の中からと書いてない場合

 それでは、「預金の中から」と書いていない場合(「遺産の中から」と書いてあった場合も同じです)はどうでしょうか。例えば、亡くなった時には預金残高が0で、他の財産を処分しないとお金が作れない場合には、他の財産を処分してBに対して○○円が支払われることになります(*1)

 この場合、遺言執行者がいれば、遺言執行者が他の財産を処分して現金○○円を作り、これをBに交付することになります。
 問題は、遺言書で遺言執行者の指定をしていない場合です。AとBの話し合いで解決すれば問題はないのですが、そうでない場合には、Bが、遺言執行者の選任を家庭裁判所に求めるのが原則的な解決方法です。

  遺言執行者の選任申立をしないで、BがAを相手方にして○○円を支払えという裁判を起こすことはできないかという点については明確な裁判例を見つけることができませんでした。
 しかし、「相続人以外の人に現金を遺贈する」
という遺言は、相続人を相手に現金を支払うよう請求する権利を与えるものだと解釈されています。共同相続人間でも同じだとすれば(これが普通の解釈だと思います)、BはAに対して○○円を支払えという裁判を起こすことができます。この場合、○○円が遺産の総額の範囲を越えている場合には、Aは遺産総額の範囲内しか払わないと主張することになります(*2)

 

(*1)この場合も、遺言を書いた時の状況や遺言書の文言によっては、遺言の内容は、預金などの範囲内で現金を相続させるものだと、解釈される場合があり得ます。ただし、「遺言書の記載自体から遺言者の意思が合理的に解釈できる場合に、遺言書に表われていない事情をもって、遺言の意思解釈の根拠とすることは許されない」(最高裁昭和58.3.18判決)のが原則ですから、基本的には遺言書の文言が重視されます。

 

(*2)Aが相続する財産がなくなるような場合、Aの遺留分が侵害されることになります。Aは遺言の内容を知った時から1年以内に遺留分減殺の請求の通知をしなければなりません。しかし、現金や預金がないからBが相続するものがない、などと考えて遺留分減殺の請求をしない可能性もあるので注意しなければなりません。

・他の財産を別の相続人に相続させるという遺言の場合

 これだけでも、ややこしい話ですが、Aにも特定の財産(不動産など)を相続させるという遺言の場合にはもっとややこしい話になります。つまり、「Aにはこれこれの土地を相続させる。Bには現金○○を相続させる」という遺言の場合です。

 このような遺言で、相続の時に預金や現金がなく、Aに相続させるという土地しかない場合はどうなるのでしょうか。

 現金を相続するというBをAよりも優先させる理由はありません。通常は、遺言を書いた時点では、それなりの預金などがあり、それが相続開始の時には残高が少なくっていたことが考えられます。その場合には、遺言書に直接書いてなくてもBは「預金の範囲内で」現金○○円を相続することにしたと解釈するのが合理的です。そして、遺言を書いた人の生前の処分で預金の残高がなくなったので、その分は遺言書の取り消しをしたと考えられます(*)。

(*)この場合、BからAに対する遺留分減殺請求の問題が起こる可能性があります。

・2つの遺言書に分かれている場合

 それでは、AとBに相続させるという遺言が一つの遺言ではなく、二つの遺言になっている場合はどうでしょうか。
 まず、「Aにはこれこれの土地を相続させる」という遺言が作られ、その後で、「Bには遺産の中から現金○○円を相続させる」という遺言が作られた場合(あくまでも、それなりの期間をあけて二つの遺言書が作られた場合です)には、単純に上記のように考えることはできません。後の遺言で、「前の遺言(Aに土地を相続させるという遺言)を取り消す」と書いてあれば、「その余をAに相続させる」という遺言の場合と同じことになります。つまり、遺産の中の土地を処分してでも、Bに現金が支払われることになります。

 しかし、「前の遺言を取り消す」と書いてない場合は、問題です。(*)
 Bに現金○○円を相続させるという遺言を書いた時点で、十分な預金などがあったかどうか、また、Aに対する遺言を部分的にも取り消す意思があったかどうかなど、遺言を書いた時の具体的な状況や遺言の文言などから、遺言を解釈するしかありません。最終的には裁判所が判断しますが、簡単に決められる話ではありません。
 いずれにしても、困った遺言ということになります。

 

(*)自筆遺言ならともかく、公正証書遺言では必ず「前の遺言を取り消す」かどうか書いてあると思っていましたが、そのことが書いていない公正証書遺言が現実にありました。

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【自筆遺言と不動産の登記】

 

●原則として登記できます

 遺言書の内容は、様々で、時には遺産と関係ないことが書いてあることもありますが、多くの場合は、「○○の不動産を○○に相続させる」とか、「○○銀行の預金を○○に相続させる」などが書いてあります。

  そして、不動産の場合は登記をすることになります。公正証書遺言の場合は、そのまま登記できます。

 自筆遺言の場合は、検認を受けなければ登記できません(検認については「相続の基礎知識」の「自筆遺言の検認手続」をご覧ください)。登記所(法務局)は、「検認済み証明書」のついた自筆遺言書があれば、遺言書のとおりの登記をしてくれます。検認手続のときに、出席した相続人の1人が「本人の筆跡ではありません」と言ったとしても登記されます。

  問題なのは、自筆遺言の原本がない場合です。
 遺言書の原本は申立人に返されます。そして、申立人以外の人に「不動産を相続させる」という内容になっていた場合など、申立人が遺言書原本を貸してくれないこともあり得ます。その場合は、遺言書原本の代わりに家庭裁判所が検認手続の時に作った「検認調書」の謄本(裁判所で入手できます)を添付して登記申請をすることになります。
 ところが、検認手続のときに他の相続人が「筆跡が違う」などと言った場合、検認調書にはそのことが書いてあります。そうすると、登記所では、「筆跡が違う」と発言した相続人から「登記申請に異議がない」という一筆をもらわない限り、登記申請を受け付けないということになります。「筆跡が違う」と言った人が、「いや、勘違いだった」と言ってくれればいいのですが、遺言の内容に不満があるような場合には協力してもらえない可能性があります。

  なお、銀行から預金を下ろす場合ですが、銀行によっては「検認済み証明書」の付いた遺言書原本だけでなく、「検認調書」も提出してほしいと言うところもあります。そして、「検認調書」に「筆跡が違う」という発言が書いてあると、同意書をもとめられることになります。

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●遺言書があるのに裁判をしなければならない・・・

 同意書が取れない場合は、裁判所に自筆遺言書を書いたのが遺言者本人だと確認してもらう裁判を求めることになります(文書の真正確認の裁判といいます)。また、逆に、登記などの手続が終わった後で、「あの遺言は偽造だ」ということで他の相続人が、遺言の無効の確認を求める裁判を起こすこともあります。

  裁判では当然、証拠が必要です。遺言者本人が書いたことが間違いないと考えられる文書を証拠として提出します(消印のある葉書などが有効です)。訴えを起こす前に筆跡鑑定をしてもらい、その鑑定書を証拠として提出することもあります。
 筆跡は素人目には異同が分かりにくいのですが、本人が書いた文書と遺言書の筆跡が一目で同じと分かる場合もあります。しかし、死が目前に迫った状態で病院のベッドで書かれたものなどは、普段の筆跡と違っている場合があり、このような場合は、特に問題になります。
 裁判所で遺言書が遺言者本人が作成したものと認められれば、この判決と遺言書で、登記申請などができます。

 自筆遺言で問題になるのは、本人が書いたかどうかという問題の他、不動産が地番でなくて住居表示になっていたり(法務局で受け付けてくれて登記できる場合もあります)、地番でも住居表示でもなく間違った記載になっている場合もあります。また、書いてある文章が意味不明確な場合もあります。意味がある程度分かっても、いくとおりにも解釈できる場合もあります。いずれにしても、法務局で登記できない場合には、相続人間で裁判をしなければならない場合があります。次にお話する1つの土地を分ける必要がある場合もそうです。

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●1つの土地を分ける必要がある遺言

 一筆の土地(1つの地番の土地)の一部を相続させる、という内容の遺言もあります。

・亡くなる前に分筆するのが普通ですが

 亡くなる前に分筆して、分筆したそれぞれの土地を誰それに相続させるという遺言を作れば(遺言自体は普通の遺言ですから)、何の問題もありません。
 しかし、自分が生きている間は1つの土地のままにしておきたいという場合もあります。いつ亡くなるのか分からないのに、早まったことはしたくない、という考えもあるでしょう。それでも、土地の一部を特定の誰かに譲りたいのなら、遺言を作るしかありません。

・自筆遺言に測量図をつけることはできる?

 このような場合、遺言をどうするか、という問題があります。
 自筆遺言に測量図などの図面を付ければいいじゃないかと思いますが、自筆遺言は全文、自筆でなければならない、という原則にひっかかりそうです(平成31年1月13日から、遺言に添付する財産目録は自筆でなくてもいいことになりましたが、測量図などの図面はこれに含まれません)。

  これについて、有効だとした裁判例があります。遺言者が単に遺産分割の対象となる土地の測量図を遺言書に添付しただけでなく、当該図面上の土地の各区画に当該区画を相続すべき相続人の名前を自署した場合には、他人作成の図面も全体として遺言者が自書したものとして自筆証書遺言の要件を満たすとした裁判例です(東京地裁平成15年2月26日判決)。
 法務局も、このような判決を付けて申請すれば登記してくれるのでしょう。

 しかし、同じ判決が出るかどうかは分かりません。これから遺言を作る場合やすでに遺言を作った場合でも書き直しが可能な場合には、公正証書遺言にした方が無難です。

 ところで、手書きの図面で、どの区画を誰それに相続させるという自筆遺言の場合、遺言としては有効でも、法務局で受け付けてくれません。他の相続人が協力してくれない場合には、測量図を作って、「遺言書の手書きの図面で自分が相続することになっているのは、測量図のこの部分だ」、という裁判を起こす必要があります。

・建物と「その敷地」としか書いてない場合は?

 一筆の土地の上に複数の建物が建っている場合があります。そして、その建物と「その敷地」を相続させる・・・という遺言をすることがあります(建物についてはどの建物を相続させるのか特定できることを前提にお話します)。

  公正証書遺言の場合には、公証人から「その敷地」というあいまいな形ではなくて、測量するなどして特定した方がいいですよと言われるはずです。
 しかし、すでに本人が亡くなっている場合には、このような自筆遺言で何とかするしかありません。
 ただし、そのまま法務局に持って行っても登記してくれません。他の相続人が協力して測量に立ち会って、「その建物の敷地」を特定してくれて、共同して分筆の登記とその相続人への移転登記ができれば問題ありません。

 ところが、他の相続人が協力してくれなければ、自分で「その建物の敷地」を特定して測量図を作り、他の相続人を被告にして裁判を起こすしかありません。
裁判の内容は、「その建物とその敷地」について、自分に移転登記の手続をしろ、というものです(分筆に協力しろ、という裁判の必要はありません)

  この裁判では、訴える時に、敷地の範囲を欲張って指定したりすると、相当揉めることになります。建物の土台部分は間違いありませんが、その周りの敷地は、建築確認申請の資料や、周辺の状況に基づいて特定する必要があります。将来、建物の再築ができるためには土地が道路に2m以上接している必要がありますが、それが確保できるかどうかは「敷地」の解釈次第です(1棟の建物として建築確認申請されていれば、将来の再建築が可能な「敷地」のはずです)。

  裁判所が、「その敷地」の範囲を認めて判決を出してくれれば、その判決に基づいて、分筆と分筆後の土地とその上の建物の所有権移転登記ができます(分筆の登記は、他の相続人を代位して申請することになります)。

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内藤寿彦法律事務所 弁護士・内藤寿彦 東京都虎の門5-12-13白井ビル4階  電話03-3459-6391