ここでは、家賃滞納を原因とする建物の明け渡し請求事件の費用について、弁護士費用とその他の費用の説明をします。(建物の建て替えなどのため落ち度のない賃借人に立ち退いてもらいたい場合は、「その2 契約終了の正当事由と立ち退き料」をご覧ください。家賃滞納以外の契約違反は「その3 建物賃貸借に関する各種相談」の「特約違反などによる契約解除」をご覧ください。)
家賃滞納と言っても、単にお金がないから払わない、という場合がほとんどですが、中には、賃借人が修繕をしてくれない、家賃が高すぎるなどと理由をつけて家賃を支払わない場合があります。このように理由をつけて払わない場合は「特別なケース」なので、弁護士費用の計算が違います。2つの場合について、説明します。

 

弁護士費用

(特別なケースを除きます。→「特別なケースとはこんな場合です」)

※着手金は事件に着手する段階でいただきますが、報酬は現実に建物の明け渡しが完了した時点でいただきます。

※当事務所では、一般的には、東京弁護士会の旧報酬基準を参考にして報酬基準を定めていますが、家賃滞納事件の建物明け渡し請求事件の弁護士費用(着手金・報酬)は、当事務所独自のものです(令和4年2月10日改定)。なお、「住居の場合」、「事業用の場合」とは、賃借人が住居として使用しているのか、事業所(店舗、事務所など)として使用しているのか、ということです(両方を兼ねている場合には事業用になります)。また、法人が賃借人の場合は用途に関係なく事業用です。

●1か月賃料(消費税等を含む)が15万円未満の物件の家賃滞納による建物明け渡し事件の弁護士費用
(住居の場合)着手金33万円・報酬33万円
(事業用の場合)着手金44万円・報酬44万万円

●1か月の賃料(消費税を含む)が15万円以上20万円未満の場合
(住居の場合)着手金44万円・報酬44万円
(事業用の場合)着手金50万円・報酬50万円

●1か月の賃料(消費税を含む)が20万円以上の場合
 賃料20万円以上の場合は、賃料15万円以上20万円以下の場合の金額以上として、賃料額、物件が居住用か事業用か、家賃滞納の経緯などをお聞きした上で具体的な金額の見積をさせていただきます。

●滞納(不払い)賃料の回収について
 実際に回収できた場合は、その金額の10%に1.1をかけたものを報酬としていただきます。ただし、訴えを起した後で回収できた場合に限ることにします(内容証明を出した段階で振込等があった場合には報酬は発生しません)。

※物件の所在地に行く必要がある場合(通常2回程度)出張料をいただく場合があります(契約時に決めます)。東京区部周辺(多摩地区、横浜などを含む)は1回につき2万2000円~3万3000円。それ以上、遠方の場合には時間に応じて協議の上、決めさせていただきます)。

※裁判の管轄が東京地方裁判所以外の場合には、横浜地裁、川崎支部1回2万2000円、立川支部、さいたま地裁1回3万3000円として(その他については相談時にご説明します)日当をいただきます。ただし、この種裁判は多くの場合、1回、多くても2~3回です。

※弁護士費用の他、法務局などに支払う費用、裁判所に支払う費用、強制執行の費用などがかかります。「弁護士費用以外にかかる費用」をお読みください。

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着手金の支払い方法

 基本的に相手方(賃借人)に対して、弁護士名義で内容証明郵便を送付します。その段階で、5万5000円をいただきます。
 その結果、全額支払いのあった場合には支払い金額の1割(これに1.1をかける)を報酬としていただきますが、建物の明渡はできません。
 内容証明送付後、相手方が期限までに支払いをしない場合には、直ちに裁判を起こします。その段階で着手金の残金のお支払いをお願いします。また、印紙、予納郵券の実費のご負担をお願いします。

 なお、これまでの経緯から、催告しても、滞納賃料の支払いをしないと考えられる場合(その場合でも催告は必要ですが)、最初から裁判を前提とした着手金をいただくこともあります。

 着手金の支払い方法などについては、ご依頼を受ける際に作成する契約書に記載しています。

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報酬の支払い時期

 報酬は、建物の明け渡しが終了した時点でいただきます。
 強制執行の申立前に、相手方と和解が成立して建物の明け渡しを受ける場合にも、同じ報酬額をいただきます(強制執行費用のご負担が軽くなるよう、できるだけ強制執行着手前に退去してもらうよう努力します。ただし、強制執行になる場合が多いと思ってください。)
 なお、報酬はあくまでも建物明渡の報酬です。滞納賃料が回収できたかどうかとは関係なく報酬は発生します。

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委任の範囲について

 委任の範囲は、裁判前の催告、訴えの提起、裁判所での裁判、可能な場合は判決ま前または後に和解の交渉、判決に基づく強制執行です。

 なお、強制執行は、強制執行の申立、執行補助者への依頼などです。明け渡した建物の受領をしなければならないため、執行の申立の代理(これは弁護士名でやります)の他、現場での代理も必要になりますが、ほとんどの場合、執行補助者に紹介してもらい、アクシデントがあれぱ現地と連絡を取ることで対応しています。この代理費用約5万円は、強制執行の費用として、依頼者の負担になります(特別な事情があって、弁護士が現地に行く場合には日当、交通費をいただきます)。

仮執行宣言がつかなくて控訴する場合や、仮執行宣言がついて強制執行をしたのに控訴される場合も希にあります。その場合には、控訴の着手金等について協議します。

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弁護士費用以外にかかる費用

弁護士費用以外にも費用がかかります

 弁護士費用以外の費用は、
 裁判所に支払う費用や強制執行業者(執行補助者)に支払う費用などです。
 これには以下のものがあります。
①裁判に納める印紙、郵券(切手)料金
②強制執行申立の際に執行官に納める予納金
③強制執行業者(執行補助者)に支払う強制執行費用
④建物登記簿謄本、固定資産評価証明の費用

 このうち、
①は、裁判を起こす時と判決をもらった時などに必要になります。裁判を起こす時の印紙代は、建物の固定資産評価額によって違います。小規模な物件なら、合わせても数万円単位の金額です。④は訴訟の時の資料などの費用です。数千円単位の金額になります。

 そして、②と③が強制執行の費用になります。このうち、特に③がかなりの高額になります。

 これらの費用は弁護士費用とは別ですから、例えば、ご自分で手続をやる場合にも、同じ費用がかかります。

強制執行の費用
 強制執行の費用の話をします。

 判決がでると、国や裁判所が自動的に強制執行をしてくれると思っている方もいるかも知れませんが、そうではありません。
 まず、強制執行の申立をしなければなりません。強制執行をするのは、裁判所の執行官ですが、そのための費用は、全部、強制執行を申し立てた賃貸物件のオーナー側の負担になります。
 相手方から、後で費用を回収する権利はありますが、相手方は通常、賃料が払えないほどお金がない状態ですから、回収はほとんど困難です。
 私が弁護士になったばかりのころに、そんな話をしたら、家主さんは言いました「それでは泥棒に追い銭じゃないですか。判決は紙くずですか」
 ある意味、そのとおりです。だから、予め理解してもらうために強制執行の費用の説明をします。

 まず、執行官に対する申立の時に、執行官に対してお金を預けます。これが先の②の費用です。これを予納金と言います。この予納金の中から、実際にかかった費用(執行官の手数料)を差し引いて、手続が終わった段階で余りがあれば返してくれます。建物明渡しの場合、予納金の基本額は、6万5000円です。ただし、これは物件1個、相手方1名の場合で、物件や相手方が増すごとに2万5000円が追加されます(東京地裁の執行官の場合です)。
 印象としては、終了後、2万円程度が戻ってくることが多いです(ケースによって違います)。

 執行官に対する費用は、この程度ですが、大きな金額になるのは、執行業者(執行補助者)に対して支払う費用です。建物明渡の強制執行は、建物内から什器備品、家具、その他相手方が所有している動産類を全て運び出して、空室の状態にします。そして、運び出した荷物はトラックで倉庫に運んで保管します。このための作業員、トラックの費用、倉庫保管料などがかかります。執行補助者は、これら作業員などの手配をします。これら作業員やトラックなどの費用が執行補助者に対する費用になります。

 このように強制執行は、ほとんど引越と同じです。しかも、相手方は荷物を梱包して待っていてくれるわけではありません。だからと言って相手方の家具などを乱暴に扱うことはできません。しかも、執行官は1日に複数の現場を回るため、荷物の運び出しの作業は、短時間(場所にもよりますが、通常2時間程度)で行うことになります。そのため、それなりの人数の作業員が一気に作業を行うことになります。従って、それなりの費用がかかるのは理解できると思います(ケースによりけりで、1日がかりで行う場合もあります)。

 その費用ですが、運び出す荷物の量で決まります。それによって作業員の人数などが決まるからです。1人暮らしのワンルームなどは比較的安くなりますが(それでも20万円くらいかかります)、ちょっとしたアパートでも40万円程度、ファミリー型のマンションで50~60万円程度かかります。大勢の家族が居住する一軒家などは家具も多くなりますから、さらに高額になります。また、貸店舗の飲食店のように什器備品が多く、巨大な冷蔵庫などがあったりすると相当高額になります(店内の広さと中の備品等の量によって異なるので一概には言えません)。

執行補助者とは
 
 強制執行の手続を行うのは執行官ですが、実際の作業は執行補助者が手配した作業員が行うことになります。作業員、トラックの手配、倉庫の確保その他、執行に関する補助業務を行うのが執行補助者です。民間の専門業者です。

 執行補助者は、執行官が催告に行く時には決めておく必要があります。正確に言うと、いつ催告に行くのかは弁護士が執行官と面接をして決めますが、その時には執行補助者をどの業者にするのか決めておく必要があります。 東京地裁には執行官室が指定する執行補助業者の名簿があります。その中から選んで依頼することになります。

 東京地裁には、執行補助者ごとに料金が比較できる料金表まであります。料金表を見ると、作業員の単価などにややばらつきはありますが、大きな差はありません。
 しかし、実際の料金は、何人の作業員が来て、時間がどれくらいかかるのかなどで決まります。
 最初に執行官が現場に行って相手方に引渡の催告をする時、執行補助者が同行して、室内の備品や家具などを見て見積をします。何人の作業員が必要と見積もるのかは業者や担当者ごとに違うのかも知れませんが、複数の執行業者を同行して相見積をしてもらうことはできません。

●キャンセル料
 執行補助者のキャンセル料について説明します。
 強制執行をする数日前に、相手方が退去した場合、キャンセルが可能です。数日前ならキャンセル料は取られません。
 しかし、退去したかどうか分からず、強制執行の当日、強制執行するということで室内に入ったら、ほとんどの荷物が運び出されていたということも稀ではありません。
 催告の時に、相手方に対して、退去する時は弁護士に連絡するよう伝えますが、ほとんどは黙って出て行きます。前日でも完全に出て行ったことが分かれば、午前中までならキャンセル料なし、夕方までなら半額でキャンセルできる業者が多いようです。しかし、当日まで分からないことが多いのが実情です。

 分からないというよりも、強制執行の前日や当日など、ぎりぎり直前に退去する相手方がかなりいます。中には、強制執行に行ったら、相手方が依頼した引越業者が来ていてその作業中だったということもありました。
 このように、強制執行するつもりで作業員が現場に集まり、執行官が室内に入った段階で、ようやく相手方が出て行ったことが分かるというのは珍しくありません。それが普通と言ってもいいくらいです。

 この場合、もうキャンセルできません。ただし、倉庫の費用や梱包資材の費用はかかりません。作業員とトラックは現地まで来ているのでその支払いはしなければなりません。
 もっとも、相手方も、きちんと掃除して室内をきれいして出て行くということはほとんどなく、不要なものは置いて出て行くのが普通です(相手によりけりですが、生活に必要なものだけ持って行き、大半の家具などが放置されていることもあります)。これらのものは執行官の判断で廃棄できます。その処理も同行した作業員がやってくれます(執行補助に対する費用の中で賄われます)。不要になって置いていったものとは言え、勝手に処分して後になって何か言われるのも困りますが、この場合は執行官が強制執行の手続として行うので、そのような心配もいりません。

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特別なケースとはこんな場合です

1.借主が理由をつけて賃料を支払わない
賃借人が理由をつけて賃料の全部または一部を払わないというケースです。 

①借主から家賃が高すぎるので減額してほしいとの通知があり、家賃の一部を差し引いた金額が入金されている。
②借主から建物が壊れてるので修理してほしいとの連絡があり、放置していたら、家賃が支払われなくなった。

 これらのケースは、裁判が長くなる可能性があります。一見して賃借人側の主張に理由がない場合もありますが(その場合は、比較的短期で終わりますが)、理由もなく家賃を支払っていない場合と違って、裁判所も慎重になります。
 また、賃借人側の主張に理由があれば、家賃の減額や家賃の不払いが正当と認められる場合もあります。この点については、裁判を起こす前に、相手の言い分とその当否に関して、検討する必要があります。別の形の解決方法を検討する必要がある場合もあります。
 これらの場合には、事情をお聞きした上で、弁護士費用の見積をさせていただきます。

2.相続が発生したのに新たな契約を交わさないため相続人全員が契約者になる場合

3.契約者以外に占有者がいる場合(転貸をしている場合など)

【特別なケースの場合の弁護士費用】 
1.上記1の場合、基本的には、は以下の基準で見積をさせていただきます。 
《原則》 
・着手金  55万円以上66万円以下
・報酬   66万円以上(契約時点で事案に応じて決めます)
《賃借人が営業のために使用している物件で、1か月の賃料(消費税込み)が15万円を越えるもの》 
・着手金  55万円以上77万円以下
・報酬   77万円以上(契約時点で事案に応じて決めます)
 以上を基準としますが、理由をつけて払わないという場合も、単なるいいがりに過ぎない場合から、多少は理由がある場合もあります。かなり個別的な事情が異なるため、それらを考慮して見積をさせていただきます(全く理由にならないことが明らかな場合は、普通の場合として見積をさせていただきます。) 
 なお、これらのケースの場合は、和解で終わることも稀ではなく、その場合は、賃借人側は、任意に建物の明け渡しをします。その場合には、強制執行の必要がなく、強制執行の費用がかからないことになります。

※特別なケースの法律問題については、「法律Q&A」の【法律問題について】の「Q2 雨漏りがすると言って家賃を払ってくれません」以下をご覧ください)。

2.相続が発生した場合
 通常の弁護士報酬(着手金)に、11万円程度の追加金をいただきます。

3.契約者以外に占有者がいる場合(転貸をしている場合など) 
 複数の事件として加算します。なお、この場合、仮処分を必要とする場合があり、その場合には仮処分の料金もいただくことになります。

【仮処分をする場合の弁護士費用】
占有移転禁止の仮処分をする場合(仮処分とは何か、またどのような場合にするのか、については、「法律Q&A」の「仮処分というのは何ですか」をご覧ください。そこに書きましたが仮処分をするのは希なケースです。)
《原則》33万円以上(契約時点で事案に応じて決めます)
※不法占有者が多数の場合、仮処分の執行に行ったら不法占有者が増えていて再度仮処分を行う場合などは上記に加算させていただきます(上記の弁護士費用は仮処分決定が出て、執行官が仮処分の執行に着手した場合にお支払いいただきます。不法占有者が増えていた場合には、追加の仮処分が必要になりますが、それは追加料金とさせていただきます)。

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弁護士 内藤寿彦(東京弁護士会所属)
内藤寿彦法律事務所  東京都港区虎ノ門5-12-13白井ビル4階 電話・03-3459-6391