●弁護士費用以外にも費用がかかります
弁護士費用以外の費用は、
裁判所に支払う費用や強制執行業者(執行補助者)に支払う費用などです。
これには以下のものがあります。
①裁判に納める印紙、郵券(切手)料金
②強制執行申立の際に執行官に納める予納金
③強制執行業者(執行補助者)に支払う強制執行費用
④建物登記簿謄本、固定資産評価証明の費用
このうち、
①は、裁判を起こす時と判決をもらった時などに必要になります。裁判を起こす時の印紙代は、建物の固定資産評価額によって違います。小規模な物件なら、合わせても数万円単位の金額です。④は訴訟の時の資料などの費用です。数千円単位の金額になります。
そして、②と③が強制執行の費用になります。このうち、特に③がかなりの高額になります。
これらの費用は弁護士費用とは別ですから、例えば、ご自分で手続をやる場合にも、同じ費用がかかります。
●強制執行の費用
強制執行の費用の話をします。
判決がでると、国や裁判所が自動的に強制執行をしてくれると思っている方もいるかも知れませんが、そうではありません。
まず、強制執行の申立をしなければなりません。強制執行をするのは、裁判所の執行官ですが、そのための費用は、全部、強制執行を申し立てた賃貸物件のオーナー側の負担になります。
相手方から、後で費用を回収する権利はありますが、相手方は通常、賃料が払えないほどお金がない状態ですから、回収はほとんど困難です。
私が弁護士になったばかりのころに、そんな話をしたら、家主さんは言いました「それでは泥棒に追い銭じゃないですか。判決は紙くずですか」
ある意味、そのとおりです。だから、予め理解してもらうために強制執行の費用の説明をします。
まず、執行官に対する申立の時に、執行官に対してお金を預けます。これが先の②の費用です。これを予納金と言います。この予納金の中から、実際にかかった費用(執行官の手数料)を差し引いて、手続が終わった段階で余りがあれば返してくれます。建物明渡しの場合、予納金の基本額は、6万5000円です。ただし、これは物件1個、相手方1名の場合で、物件や相手方が増すごとに2万5000円が追加されます。
印象としては、終了後、2万円程度が戻ってくることが多いです(ケースによって違います)。
執行官に対する費用は、この程度ですが、大きな金額になるのは、執行業者(執行補助者)に対して支払う費用です。建物明渡の強制執行は、建物内から什器備品、家具、その他相手方が所有している動産類を全て運び出して、空室の状態にします。そして、運び出した荷物はトラックで倉庫に運んで保管します。このための作業員、トラックの費用、倉庫保管料などがかかります。執行補助者は、これら作業員などの手配をします。これら作業員やトラックなどの費用が執行補助者に対する費用になります。
このように強制執行は、ほとんど引越と同じです。しかも、相手方は荷物を梱包して待っていてくれるわけではありません。だからと言って相手方の家具などを乱暴に扱うことはできません。しかも、執行官は1日に複数の現場を回るため、荷物の運び出しの作業は、短時間(場所にもよりますが、通常2時間程度)で行うことになります。そのため、それなりの人数の作業員が一気に作業を行うことになります。従って、それなりの費用がかかるのは理解できると思います(ケースによりけりで、1日がかりで行う場合もあります)。
その費用ですが、運び出す荷物の量で決まります。それによって作業員の人数などが決まるからです。1人暮らしのワンルームなどは比較的安くなりますが(それでも20万円くらいかかります)、ちょっとしたアパートでも40万円程度、ファミリー型のマンションで50~60万円程度かかります。大勢の家族が居住する一軒家などは家具も多くなりますから、さらに高額になります。また、貸店舗の飲食店のように什器備品が多く、巨大な冷蔵庫などがあったりすると相当高額になります(店内の広さと中の備品等の量によって異なるので一概には言えません)。
●執行補助者とは
強制執行の手続を行うのは執行官ですが、実際の作業は執行補助者が手配した作業員が行うことになります。作業員、トラックの手配、倉庫の確保その他、執行に関する補助業務を行うのが執行補助者です。民間の専門業者です。
執行補助者は、執行官が催告に行く時には決めておく必要があります。正確に言うと、いつ催告に行くのかは弁護士が執行官と面接をして決めますが、その時には執行補助者をどの業者にするのか決めておく必要があります。 東京地裁には執行官室が指定する執行補助業者の名簿があります。その中から選んで依頼することになります。
東京地裁には、執行補助者ごとに料金が比較できる料金表まであります。料金表を見ると、作業員の単価などにややばらつきはありますが、大きな差はありません。
しかし、実際の料金は、何人の作業員が来て、時間がどれくらいかかるのかなどで決まります。
最初に執行官が現場に行って相手方に引渡の催告をする時、執行補助者が同行して、室内の備品や家具などを見て見積をします。何人の作業員が必要と見積もるのかは業者や担当者ごとに違うのかも知れませんが、複数の執行業者を同行して相見積をしてもらうことはできません。
●キャンセル料
執行補助者のキャンセル料について説明します。
強制執行をする数日前に、相手方が退去した場合、キャンセルが可能です。数日前ならキャンセル料は取られません。
しかし、退去したかどうか分からず、強制執行の当日、強制執行するということで室内に入ったら、ほとんどの荷物が運び出されていたということも稀ではありません。
催告の時に、相手方に対して、退去する時は弁護士に連絡するよう伝えますが、ほとんどは黙って出て行きます。前日でも完全に出て行ったことが分かれば、午前中までならキャンセル料なし、夕方までなら半額でキャンセルできる業者が多いようです。しかし、当日まで分からないことが多いのが実情です。
分からないというよりも、強制執行の前日や当日など、ぎりぎり直前に退去する相手方がかなりいます。中には、強制執行に行ったら、相手方が依頼した引越業者が来ていてその作業中だったということもありました。
このように、強制執行するつもりで作業員が現場に集まり、執行官が室内に入った段階で、ようやく相手方が出て行ったことが分かるというのは珍しくありません。それが普通と言ってもいいくらいです。
この場合、もうキャンセルできません。ただし、倉庫の費用や梱包資材の費用はかかりません。作業員とトラックは現地まで来ているのでその支払いはしなければなりません。
もっとも、相手方も、きちんと掃除して室内をきれいして出て行くということはほとんどなく、不要なものは置いて出て行くのが普通です(相手によりけりですが、生活に必要なものだけ持って行き、大半の家具などが放置されていることもあります)。これらのものは執行官の判断で廃棄できます。その処理も同行した作業員がやってくれます(執行補助に対する費用の中で賄われます)。不要になって置いていったものとは言え、勝手に処分して後になって何か言われるのも困りますが、この場合は執行官が強制執行の手続として行うので、そのような心配もいりません。
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